書籍詳細
極上御曹司と甘くとろける恋愛事情
あらすじ
「もう、逃がさない。覚悟しろよ」
セレブな彼のジレ甘攻撃
取引先の創立記念パーティーで追い返されそうになった結衣を助けてくれたのは、取引先の御曹司・優晴。以前、図書館で偶然出会っていた彼は、結衣をディナーやライブに誘ってくるように。そして告げられたのは、優晴からの熱い想い。だけど結衣は、自分とは違う世界に住む彼への不安が拭えない。そんな時、優晴の思いもよらない過去を聞かされ――!?
キャラクター紹介
野々村結衣(ののむらゆい)
社内報を担当している、読書大好き女子。図書館に通うのが楽しみ。
小笠原優晴(おがさわらゆうせい)
結衣の会社の取引先の専務で、クールと言われている御曹司。
試し読み
もし彼がアルコールに手を出し、今夜はこのまま別荘に泊まろうと誘っても、きっと拒めなかっただろう。
だけど誠実な優晴さんが、嘘をつくことはなかった――。
グリルとキッチンの後片づけを済ませ、帰り支度をする。別荘の戸締まりをしたあと、外へ出た。
駐車場に向かいながら夜空を見上げると、満天に星がキラキラと輝いている。
「綺麗……」
大粒のダイヤモンドのようだ。手を伸ばすとホントに届きそうで、ぴょんぴょんと飛び跳ねてしまう。
「やっぱり結衣は、子供だな」
そんな私を見た優晴さんが、くすりと微笑んだ。
「わかってますよ。何度も言わなくても……」
ちょっと拗ねたふうに、助手席に乗り込んだ。
「残念だけど、今日は帰ることにするか」
運転席で彼はそんなひとり言を言い、高級外車のエンジンをかけた。
***
優晴さんに運転してもらっているのに、助手席で寝るなんて、絶対にあり得ないこと――のはずだったが。そのあり得ないことを、私はやってしまった。
早朝からの遠出に軽井沢の街の散策、パターゴルフに森への散歩、楽しい庭でのバーベキュー。
慣れないことをたくさんしたせいか、眠気が襲ってきた。真っ暗な視界が延々と続く高速道路に、吸い込まれそうだ。
ふわぁ……。
彼にわからないよう顔を窓の外に向け、あくびをした。
時刻は、午後の九時半。いくら夜更かしが苦手だとしても、さすがにこの時間にベッドに入ることはない。
優晴さんの予測では、あと一時間ほどで都内。
頑張らなくちゃ……。
小さく伸びをし、なんとか眠気を吹き飛ばした。
――だけど。
気がつくと、車が自宅前に停まっている。
シートベルトが外され、助手席のシートが少し後ろに倒されていた。身体には、優晴さんのジャケットがかけられている。
「すみません!」
私は飛び起きた。すっかりと眠ってしまったらしい。
「な、何時ですか?」
慌てて聞くと、
「十一時」
彼が教えてくれた。
二人で出かけたのに、なんという大失態だろう。
「気持ちよさそうに眠っていたから、起こさなかった」
「ごめんなさい」
「でも俺は満足だ。結衣の寝顔をじっくり楽しめたから」
「えっ?」
意味ありげに告げた優晴さんに、慌てて緩んだ口元のチェックをする。
微笑んだ彼は、電動ボタンで助手席のシートを起こしてくれた。
「ありがとう、ございます」
「あ、うん……」
しばらくの沈黙。ここは、車内という二人だけの密室だ。
それが妙に、照れくさくて。
「あ、だから……今日は本当に、楽しかったです。ありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね」
明るくそう告げ、車を降りようとドアレバーに手をかけたのだが――。
「待って、結衣」
優晴さんが、私の腕を掴んだ。振り向くと、眼差しがぶつかる。
「キス、する?」
「え……?」
しかしこちらの答えを待つことなしに、彼が唇を重ねてきた。
「ん……っ」
驚いた心臓がドキリッと跳ねる。次第に心拍が速くなった。
夢にまで見たファーストキス。でもそれは、想像したものとはかなり違っている。
柔らかな彼の唇の感触が、なぜか生々しくて不思議だった。少しひんやりとした温度が、この世のものではないようで。
胸がどこまでもときめいた。魔法にかけられたようだ。初めてのキスにどんどん酔わされていく。
そして未だに、目を見開いたまま。閉じるタイミングを見失っていた。
でも彼はキスに慣れているのか。初心者の私にかまうことなく、ぐぐっと唇を強く押しつけてくる。
「結衣の唇、ぷるぷるして気持ちいい……」
そんな言葉に、かあっと顔が熱くなった。
優晴さんは合わせた唇の角度を変えてきたり、啄んだり。さまざまなキスを教えてくれる。
初めての私は、大人の彼に翻弄されていた。羞恥に火照り出す全身を、ますます硬直させて――。
だけどとうとう優晴さんはおこちゃまな私を見かねたのか、
「いつまで目を開けているつもり?」
耳元でささやいた。
「え……あ、すみま、せん」
ぎゅっと瞼を閉じる。
「いい子だ」
小さく微笑んだ彼が、また艶めかしく口づけた。
ちゅっ、ちゅっと軽快な音がしたかと思うと、上下の唇を交互に吸っていく。そして食むように包み込んだ。
「うっ……」
これが本物のキスなの……?
二十四歳。初めての扉を開けようとする呼吸が、小刻みに上がっていく。そんな無知な私を導くように、彼は唇の周りを舌先で優しく舐めた。
「あ……」
それがなんとも、もどかしくて。思わず開いた唇の隙間から、優晴さんの舌が侵入した。
「……んっ!」
生々しい舌の感触に、心臓がさらにバクバクとうるさく高鳴った。
初めてのディープなキスは、ただただ衝撃的で。なにも知らない私をどこまでも魅了していく。
彼の深いキスはそれだけにとどまらず、舌先で歯列を丁寧に舐めたかと思うと、粘膜を静かにくすぐった。
やがて私の舌を自身の舌で搦め取り――。
「や……」
悩ましい大人のキスに、今にもどうにかなってしまいそうだ。自分がどこにいるのかさえも忘れてしまっている。
膝の上にあった手が、プリーツスカートをぎゅっと握りしめた。
心臓の鼓動はハイスピードで打ち続け、呑み込めない唾液が口の中に溜まっていく。身体の中心が不埒に燃えた。
もっともっと、いけないことを教えてほしい――。
しかしそんな願いが届くことはなく、彼はあっさり私から離れてしまう。
「平気だった?」
初めてのキスの感想を聞いてきた。
思ったことはいろいろあるけど、恥ずかしくて口にはできない。彼の顔をまともに見ることも。
「おやすみなさい!」
逃げるしかなかった。私は車内から飛び出してしまう。
だけど車が走り出した気配はなく、振り返ると優晴さんが、心配そうにこちらを見ていた。
「あ、どうしよう……」
私はバイバイと、小さく手を振った。
すると彼はようやく安堵したのか、微笑んで同じようにバイバイと手を振ったあと、真っ白な高級車を発進させた。