書籍詳細
熱愛本能~野獣御曹司に甘く食べ尽くされそうです~
あらすじ
「刺激をくれよ、お前の体で」初恋の彼に蕩かされ、身も心も陥落寸前…!?
就職先で初恋相手・悠馬と再会した芽衣。超優秀で仕事に厳しいエリート御曹司として当時の優しい面影をなくした彼に、芽衣は切ない思いを募らせる。けれど、ミスをフォローしてくれた悠馬から強引に食事に連れ出された夜をきっかけに、二人の関係は急接近!!「俺の一番のご馳走はお前だ」と熱い瞳で迫られ、芽衣は心も体も甘く乱されてしまい…!?
キャラクター紹介
野崎芽衣(のざきめい)
食品会社『クレストフーズ』に入社した新入社員。九年間、初恋を忘れられずにいる。
伊吹悠馬(いぶきゆうま)
芽衣が勤めるマーケティング事業部リサーチ課の上司。芽衣が中学生の頃、家庭教師をしていた。
試し読み
「ほら、行くぞ」
手を引かれ入ったマンションの玄関は暗証番号と指紋認証という二重のセキュリティになっていて、それをクリアすると木製の自動扉が静かに開く。その先に見えたのは、ラウンジがある大きなエントランス。
カウンター内に居た白髪の男性コンシェルジュが私達に気付き、丁寧にお辞儀をして声を掛けてきた。
「お帰りなさいませ。伊吹様」
その言葉に会釈で返した先生が革靴の音を響かせながら住人専用のエレベーターへと向かう。
なんだか凄いマンションだ。クレストフーズの課長ってこんな所に住めるくらい沢山お給料貰ってるの? いやいや、役員ならまだしも伊吹先生は課長だ。そこまで高給ではないはず。……あ、そうか。タワマンと言ってもピンキリなのかもしれないし、低層階の部屋なら課長クラスでも買えるのかも。
勝手に伊吹先生の懐事情を詮索しまくっていたら、先生が徐にシルバーのカードを取り出した。
エレベーターには階を指定するボタンなどはなく、カードキーを読み取り用のパネルにかざせば自動で住居がある階までノンストップなのだとか。
部屋は二階か三階ってとこだろうか……。
また勝手に想像していたのだけれど、到着したのは、まさかの五十三階。
ご、五十三階って……もしかして、最上階?
まるで戸建てのような立派な門扉のある玄関を入ると、これまたマンションとは思えない開放感のある吹き抜けのホールが広がっていた。
「マンションなのに吹き抜け?」
「ここはメゾネットタイプだからな」
「メゾネット? ……ここ、二階があるんですか?」
愕然とし、大声を張り上げた後にふと思う。
まさか伊吹先生、何かヤバい副業とかしているんじゃ……。
さすがにここまで浮世離れした部屋を見せられると怪しくなってくる。なので、この部屋は本当に伊吹先生の自宅なのか改めて確認してみた。
「ああ、そうだ」
先生は平然とそう答え、私の腰に手を添えて廊下を歩き出す。
そして辿り着いたのは、ソファや家具がダークブラウンで統一された重厚感漂うセレブリティなリビング。
床から天井まで壁一面が硝子張りになっている窓の景色は、まだ少し体の中に残っていたアルコールを余裕で吹き飛ばすくらいのインパクトがあった。
「わぁ……綺麗」
その美しい眺めに我を忘れ窓際に駆け寄るも、悲しいかな語彙力がない私はそれ以外の言葉が思い付かず、ただただ、その煌びやかな光に見惚れるばかり。すると伊吹先生が背後から私を抱き締め、囁くように言う。
「俺より、この夜景の方が魅力的か?」
「あ、いえ……そんなことは……」
そう、確かに遥か彼方まで広がる見事な光の海は絶景だけれど、この世で一番魅力的なのは伊吹先生だ。でも、そのことを伝える前にどうしても確かめたいことがある。
「伊吹先生、聞きたいことがあります。お願いですから正直に答えてください」
「なんだ?」
真剣さが伝わったのか、私を離した先生が真顔で頷いた。
「この部屋は凄過ぎます。普通の会社員が容易に買える物件じゃありません。もしかして、伊吹先生は人に言えないような危ないことをしているんじゃありませんか?」
「危ないこと?」
「そうです。でも、私は伊吹先生がどんな重大な罪を犯していたとしても絶対に嫌いになんかなりません。もう心の準備はできています。だから本当のことを教えてください」
伊吹先生の片方の眉がピクリと動き眼光鋭く私を見る。が、すぐに表情が曇り深く長い息を吐く。
「気付いてしまったのなら、仕方ない……」
えっ、じゃあ、やっぱりそうなの?
思わず息を呑み、無意識に後退っていた。が、硝子窓に阻まれそれ以上後ろにさがることができない。その様子を見た先生がジリジリと近付いてきて、両手で私の肩を摑み鬼気迫る顔で凝視してきた。
「この話を聞いたら芽衣も同罪だ。もう逃げられないぞ。それでもいいのか?」
「ひっ……」
そんなにヤバいことなの? すっごく怖いんだけど……。
血の気が引いて体が強張る。今更ながら聞かなければ良かったと後悔していると、間近に迫った伊吹先生の口元が微かに震え、次の瞬間、豪快に吹き出した。
先生は呆気に取られている私の頭をクシャクシャと撫でまわし大爆笑している。
「伊吹……先生?」
私が何度呼びかけても伊吹先生の笑いは止まらない。
どのくらいそうしていただろう。先生は一頻り笑うとようやく口を開いた。
「お前、本当に俺が危ないことをしてるって思ったのか?」
「えっ……違うんですか?」
「違うに決まっているだろ? 俺は普通に働いて真面目に納税している善良な一都民だ」
「ええーっ! じゃあ私のこと騙したんですか?」
「騙したわけじゃない。ちょっとからかっただけだ」
どちらでも同じことだと口をへの字に曲げ、怒っていることをアピールしていたら、先生が「悪い悪い」と言いながら私をフカフカのソファに座らせ、なぜこの高級マンションに住むことになったのか、その経緯を話してくれた。
「俺の祖父は資産家でな、そのじいさんが亡くなった時に俺がこのマンションを相続したんだ」
「えっ……伊吹先生、お金持ちのお坊ちゃんだったんですか?」
「バカ、そんなんじゃない。金持ちだったのは父方のじいさんで、俺はただの庶民だよ」
あっ、そうか。伊吹先生の両親も離婚していたんだ。お母さんの籍に入ることを選んだ先生はお父さんの方のおじいさんとは縁が切れた状態。あまり交流がなかったのかもしれないな。でも、おじいさんにしてみれば、籍は抜けても伊吹先生は血を分けた可愛い孫。だからこのマンションを先生に譲ったんだね。
「相続の話を聞いた時、辞退すると言ったんだが、聞き入れてもらえなくてな……で、空けておくのももったいないから住むことにしたんだが、はっきり言って持て余している。固定資産税もバカにならないし、芽衣が欲しけりゃ、このマンションやるぞ」
「め、滅相もない!」
こんな凄いマンションなんて貰ったら、お母さんが仰天して腰を抜かす。
「でも、伊吹先生が危ないことをしていなくて本当に良かったです。このマンションに来た時は、人に言えないヤバいことをして荒稼ぎしているんじゃないかって、本当にドキドキだったんですからぁ」
しかし先生は私の心配などどこ吹く風。呑気に笑いながらまるで他人事のようだ。
「ドキドキか……刺激があっていいじゃないか」
「全然良くありません。刺激あり過ぎです!」
声を張り上げると先生が私の肩を抱き、不服そうな顔をする。
「芽衣ばかりズルくないか?」
「私がズルい?」
そう聞き返した時、先生が人差し指を私の唇に押し当てた。その指はすぐに下へと滑り落ち、胸元でピタリと止まる。
「俺にも刺激を味わわせてくれよ。お前のこの体で……」
「えっ……」
伊吹先生の言葉の意味を理解した瞬間、速くなった心音が体内に響き渡り視界が大きく揺れた。
「あ、あの……」
戸惑いと羞恥でそれ以上言葉が出ない。直後、ふわりと頰を撫でた先生があの優しい笑みを浮かべながら震える私の唇を奪った。
それは、今までで一番情熱的なキス……激しくて熱くて、ちょっぴり強引で、でも、なんだろう。そんな口づけに翻弄されながらも、私の手は伊吹先生を求めるように彼の腕を強く摑んでいた。
だって、私は伊吹先生が好きだから……。誰よりも先生のことが好きだから……。
けれど、先生の手が胸の膨らみに触れ、ブラウスのボタンを外そうとしているのが分かった途端、愛しいという想いより恥ずかしいという気持ちの方が勝ってしまった。それは、好きだからこそ自分の裸体を見られたくないという焦りからくるものだった。
伊吹先生は、あの超美人でスレンダーな高峰係長と付き合っていたんだよね。あんなスタイル抜群の女性と比べたら、私なんてチビだし、胸も小さいし、彼女に勝るところなんて何もない。
先生が落胆する姿なんて見たくないから……。
「ダメ……」
不意に出た拒絶の言葉に伊吹先生の手が止まり、密着していた体が少しだけ離れる。
「まだ、怖いか?」
「あ、その……」
「俺としては結構、頑張って我慢したつもりだったんだけどな」
「伊吹先生、我慢……していたんですか?」
「そりゃそうだろ? 大好物を目の前にして二ヶ月間、ずっとお預けをくらっていたんだからな。腹が減って死にそうだったよ」
伊吹先生と付き合い出して二ヶ月、先生はキスより先を求めてはこなかった。それって、経験のない私を気遣ってくれていたってこと?
「でも、私、伊吹先生が思っているほど美味しくないかもしれません」
自信なさげに言うと、先生が突然私の体をソファに押し倒し、怖い顔で睨んできた。
「旨いか不味いか、それは俺が決めることだ」
分かってる。だから怖いんだ。
唇を嚙み伊吹先生から目を逸らすも、両手で頰を摑まれ視線を戻されてしまう。
「芽衣に初めてキスした時、理性が崩壊しそうだった。ひとりの女をあんなに愛おしく想ったのは生まれて初めてだ。俺をここまで虜にした芽衣が不味いわけないだろ? 男にとって惚れた女は最高のご馳走なんだよ」
「伊吹……先生」
先生がそれ程までに私を好きで居てくれたなんて……。
「だが、芽衣がイヤなら無理強いはしない。もうこの話は終わりだ」
違う。そうじゃない。先生を欲しいと言ったのは私だ。大人の女性になる為に私はここに来たんだ。
「ごめんなさい……大丈夫です。だから……」
勇気を振り絞り彼の胸に顔を埋めるが「無理するな」と押し返される。
「先生、私……」
「飲み直すか? ワインとビール、どっちがいい?」
「待って……行かないで」
立ち上がろうとする伊吹先生にしがみつき、首を左右に大きく振った。
「無理なんてしていません。私、伊吹先生が好き。だからもう一度、私にキスしてください……」
すると先生が少し間を置いて、また同じ質問を投げかけてくる。
「だったら、どっちにする?」
「だから、ワインもビールも要りません。私が欲しいのは……」
〝伊吹先生〟……そう言おうとした時、逞しい腕に抱きすくめられた。
「そうじゃない。ソファとベッド、どっちで愛されたい?」
「あ……」
「だが、その前にシャワーだな」