書籍詳細
俺様社長、拾いました~禁断同棲で昼も夜も愛されています~
あらすじ
「俺を体に刻んであげるから覚悟して」カタブツ社長がまるで別人に!?情熱的な彼と蜜月同居♡
敏腕だが愛想ゼロの社長・達央の秘書を務めるかりんは、ある夜路上で気を失っている彼を発見。目覚めた達央は記憶をなくしており、かりんは彼を支えるため同居することに。ところが龍央は以前と真逆の情熱的な性格になっていて!?「前の俺と今の俺、どっちが好き?」――クールな彼と溺甘豹変した彼の間で心が揺れながら、かりんは甘い生活に溺れ…。
キャラクター紹介
倉持かりん(くらもちかりん)
社長秘書を務める。上司である達央にずっと片思い中。
栗山達央(くりやまたつひさ)
貿易会社社長。イケメンだが仕事熱心すぎて恋愛には縁がない。
試し読み
しばらくしてお風呂から出た社長。
湯上がりの彼は妙な色気を放っていた。特に初めて見る彼の浴衣姿にドキッとした。
「どうかした?」
「い、いいえ」
私は慌てて首を振った。
彼の姿に見惚れていたなんて言えなかったからだ。
夕食は客室に用意してもらった。
小田原港で水揚された新鮮な魚を始め、野菜もその日に採れた地元産のものを使用。
メインディッシュはステーキで、厚みがあり柔らかく、口の中で蕩けそうになる。
味はもちろんのこと、器から盛り付けに至るまで、とても丁寧で、食べるのがもったいなくなるほどだった。
「美味しい~」
食べては美味しいを繰り返す私を満足そうに見ていた社長。
「連れてきた甲斐があるよ」
「今日は本当にありがとうございます。お料理もどれも美味しすぎてなんだか夢のようで……」
このまま時間が止まってしまえばいいのに……と欲張ってしまう。
だが社長は、
「俺はかりんの作る料理の方が美味しいと思ってるよ」
と、どこまでも私に甘いのだ。
食事を終えた私たち。
ルームサービスでワインとチーズの盛り合わせを注文し、デッキテラスの椅子に腰掛けて、乾杯をした。
都会の夜とは違い、とても静かで、夜空に輝く星もとても綺麗だった。
「今日は本当に素敵な一日をありがとうございました」
改めてお礼を言うと社長は首を横に振った。
「お礼を言うのは俺の方だ。かりんは、こんな俺のために本当によくやってくれている。こんな形でしかお礼ができなくて本当に申し訳ない」
「な、何を言うんですか? 私は……嫌だなんて思ったことはありません。むしろちゃんとお役に立てているのかって思ってるぐらいです」
私たちは顔を見合わせるとくすっと笑った。
「ダメだな~。もっと恋人っぽく普通に話したいのに」
「それを言ったら私だって……敬語が抜けなくて」
最初で最後の二人だけのひと時なのだから、社長だとか、部下だとか忘れたいのに……。
「よし、じゃあ今から帰るまで本当に敬語はなしだ。もし敬語を使ったら、そうだな~。罰ゲーム」
「罰ゲーム?」
社長はニヤリと笑った。
「そう、敬語を使ったら、相手の言うことをなんでも聞くっていうのはどう?」
「なんかハードルが高い! 絶対に私は不利な気が」
敬語が身に付いているから罰ゲームをしなくちゃいけない可能性は非常に高い。
「だったら俺に敬語は無用。いい?」
はいと言っても敬語とみなされそうで、私は大きく頷いた。
でもいざスタートすると緊張で何も話せなくなる。
すると社長が急に立ち上がった。
「ちょっと待ってて」
そう言って席を外すとすぐに戻ってきた。
そして何かを私に差し出した。
それは白く細長い箱だった。
「これは?」
「これは俺からのプレゼント」
プレゼント? ここまで色々としてくれた上にプレゼントだなんて。
「これ以上はもったいなくて受け取れません」
「はい、ペナルティ」
「え?」
社長はニヤリと笑った。まるで私の行動をわかっているかのようだった。
「罰ゲームは相手の言うことをなんでも聞く……だったよな。じゃあ、これを受け取って」
もしかして私が受け取らないとわかってわざと?
それならもらうしかない。
「じゃあ、遠慮なく。ありがとう」
本当はありがとうございます、と言うところだけど、きっとこれも敬語とみなされるのだろうと思い軽くお礼を言った。
「じゃあ、開けてみてよ」
「うん」
私はリボンのかけられた白い箱を開けた。
それは私の誕生石のブルートパーズをあしらったティアドロップ型のネックレスだった。
「うわ~……素敵」
青く輝くブルートパーズはまるで今日行った忍野八海の水の色のようだった。
でも一番驚いたのは社長が私の誕生月を知っていたことだ。
いや、もしかすると偶然かもしれない。
だとしても自分の誕生石を身につけると幸せになれると言われている。
私の幸せ?
もしかして今、この瞬間が今まで生きてきた中で一番幸せなのかもしれない。
そう思うと私の願いは叶ったのかな?
「気に入った?」
私は大きく頷いた。
「これ、私の誕生石のブルートパーズなの」
「知ってたよ」
「え?」
「だって好きな人の誕生日ぐらい知ってて当然だろ?」
そういうことをさらっと真顔で言うから、胸が高鳴ってしまう。
「ズルい」
「なにが?」
「こんなに幸せな気持ちにさせて……ズルい。私は何もしてないのに……」
私は彼にお願いするだけで、プレゼントも用意してないし、なにもしていない。
私だって何かしてあげたいのに……。
だが彼は首を横に振った。
「俺のそばにいてくれるだけでいいんだ。それよりそのネックレス俺につけさせて」
「え?」
「ここはやっぱり、俺がつけてこそだよね」
彼は立ち上がると私の手に持っていたネックレスを取った。
私も続いて立つと、彼は私の後ろに立ち、ネックレスを首にかけた。
金具を留める手が私の首に触れる。
それだけでドキドキしてしまう。
「はいできた。見せて」
振り返ると、彼の顔がとても近くてさらに鼓動は激しくなる。
「ど、どうかな?」
「とても似合ってる」
でも本当にこれをもらってもいいのだろうか。
彼の記憶が戻った時、これを持っている私を迷惑に思うのでは?
いろんな思いが駆け巡る。
「かりん」
「はい。なんですか?」
不意に出た敬語。またも罰ゲーム。
やっぱり私にはこのゲームは不利だ。
「また罰ゲームだな」
「だって、敬語なしって結構きついんだもん」
「俺の名前を呼んで」
「え?」
「さっきからいつ俺の名前を呼んでくれるかと待ってたけど、なかなか言ってくれないから」
やっぱりバレていたか。
記憶をなくしても私の中で彼は社長だから、どうしても社長と呼んでしまう。
それを名前で呼ぶと言うのはやはり勇気がいるというか、かなり恥ずかしい。
それでも相手の言うことを聞くというのが罰ゲームなら言うしかない。
「達央さん」
「いいね」
社長は嬉しそうに目を細めた。
「かりん」
「達央さん」
私たちは名前を呼び合った。
そして互いの距離は名前を呼び合いながら近くなる。
「かりん、キスがしたい」
「え?」
「君が欲しい」
ど、どうしよう。
確かにこの距離って確実にキスできる距離だ。
でも……。
「キスするのに許可って――」
「いらない」
そう言った途端、私の唇に何かが触れた。
彼の唇だった。
触れるだけのソフトなキス。
唇が離れると彼はニヤリと笑った。
「もっとキスするけど……逃げるなら今のうちだ」
なんでそんな言い方するの?
ここまでされたら、
「逃げられるわけないじゃ――」
最後まで言わせてくれず、再び唇が重なった。
今度はさっきのような軽いキスではなかった。
食むような濃厚な大人のキスだった。
彼の舌先が私の唇を割って入ってくる。
そして私の舌を絡ませる。
静かなデッキテラスに聞こえるのは互いの荒い息遣い。
頭ではこれ以上はダメだと警鐘が鳴っているのに、彼から与えられる熱に自分の意思が、がたがたと揺らぐ。
キスの合間に吐息混じりで私の名を囁くその声に、私の理性はもろくも崩れ始めた。
「かりん。君が欲しい」
私は何も答えなかった。いや、答えられなかった。
それは拒んでいるわけではなく、むしろ私の本心はそれを望んでいたから。
でもここで言葉にするのが怖かった。
ズルいかもしれないけど、彼に好きだと言えないのと同じで、堂々とイエスと言えないのだ。
これが私に残された小さな抵抗だった。
「わかった。何も言わないというのなら……」
そう言ったかと思うと、彼は突然私を抱き上げたのだ。
「達央さん!?」
彼は黙って歩き出した。
そして私をベッドに下ろした。
これが何を意味するのかわかっている。
今なら嫌だと言って逃げ出すこともできたのに……私はそれをしなかった。
もちろん、余裕なんかない。
だって初めてのことだし、怖さや不安はある。
だけど、それ以上に私の内に秘めた思いが受け入れたがっていたのだ。
これが最初で最後の夜だとしても、大好きな人に愛されたい。
口には出せない思いだけど、今夜だけ……。
彼のものになりたい。そう心から思った。
「いいんだな?」
覆い被さるように上から私を見る彼の目は、今までにないほど熱く、愛おしかった。
私は返事をする代わりに彼の目をじっと見つめた。
彼の手が私の髪に優しく触れる。そしてその手はゆっくりと下りてくる。
頬に触れ、唇をなぞり、彼の細く長い指が首筋を伝うように触れる。
そして浴衣の襟に沿うように下りて、帯の結び目で止まった。