書籍詳細
一途な御曹司の甘い策略で愛され懐妊花嫁になりました
あらすじ
「離さない。覚悟して」偽装結婚のはずが、蕩ける蜜婚生活に♡
社長秘書の彩花は、世界有数の製薬会社の御曹司・佑哉に、病に侵された父の「ふたりの幸せな姿を見せてくれ」という希望を叶えたい、と偽装結婚を申し込まれ…。想いを寄せる彼を支えたいと承諾し、ハネムーンへ。「欲しいんだ。君のすべてが」と燃えるような瞳を向けられ、とかされてしまう。でも偽りの関係なのだと思い悩む中、赤ちゃんを授かり…!?
キャラクター紹介
羽田彩花(はねだあやか)
入社試験の偶然の出逢いから、一途に佑哉を想い続ける。清楚で優しいが、芯は強い。
松岡佑哉(まつおかゆうや)
端整な容姿と明晰な頭脳の無敵の御曹司。彩花の純真さに救われて、強く愛するようになる。
試し読み
午前中は社長の退任に伴う手続きで慌ただしく時間が過ぎ、午後から通院のために社長が帰宅してしまうと、私はひとり社長室で仕事に没頭した。
書類に神経を集中させれば、嫌なことを考えずに済む。
そうこうしている間に定時を迎え、のろのろと帰り支度をしているところで、社長室に佑哉さんが入ってきた。
今日はずっと外出していたはずだから、彼と顔を合わせるのは週末以来だ。
「もう仕事は終わったの?」
佑哉さんはデスクまで近寄ると、電源の落ちたパソコンを確認しながら、私の顔を覗き込む。
その距離の近さに、思わず身体を反らした。
「もう帰るのか。このあと、何か予定はある?」
「えっ……。特にないですけど」
私が答えると、彼の表情がパッと明るくなる。
「それじゃ、少し付き合ってくれ。行きたいところがあるんだ」
「どこですか」
「いいから、早く帰り支度をしてきてくれ。駐車場で待ってる」
訝しく思いながらもロッカー室へ向かい、上着を取って地下一階の駐車場へと急いだ。
エレベーターホールから駐車場へ出ると、紺色の車の前で手を振っている佑哉さんが目に入る。
近寄ると、すでに助手席のドアを開けて待っていてくれた。
「乗って」
軽やかに笑顔を向ける佑哉さんに、ますます疑念が湧く。
「どこへ行くんですか」
「それは着いてからのお楽しみだ」
佑哉さんは慣れた手つきでシートベルトを締め、エンジンを掛ける。
急かされるように私もシートベルトを締めると、車は地下駐車場からスロープを静かに駆け上がり、街中へと滑り出す。
季節は本格的な秋を迎え、街路樹も冬に向かって彩りを変えている。
私はそっと、すぐそばにある彼の横顔を盗み見た。
運転席に座る彼は、どこか楽しげだ。
普段より甘く感じられる端整な横顔に見惚れていたら、気配に気づいた彼にフッと視線を向けられ、慌てて目を逸らした。
「何?」
「何でもありません」
「だって、見てただろ」
「見てません」
頑なにそう答えたら、佑哉さんが声を上げて笑った。
彼の屈託のない笑顔に、さっきまで心に巣食っていた不安が一気に吹き飛んでしまう。
三十分ほど車を走らせてコインパーキングに駐車すると、佑哉さんは迷いなく大通りに面したハイブランドの店舗に足を踏み入れた。
私も彼のあとに続き、店に入る。
「いらっしゃいませ」
隙のない装いの女性スタッフたちが、一斉に同じ微笑を浮かべながら私たちを迎え入れる。
ここは世界中の女性が憧れる有名なジュエリーショップだ。
もちろん私だって、雑誌やCMで見かけるこのブランドのことは知っている。
(佑哉さん、いったいどうしてこんなところに……)
初めて訪れる煌びやかな空間に気持ちが落ち着かない。
所在なく視線を彷徨わせていると、ショーケースに可愛らしいクリスマスカラーで飾られた一角があるのに気づいた。
(あ、このリング、雑誌で見たことがある)
フロアの目立つ場所にディスプレイされたリングは、最近発売されたクリスマスの限定品だ。
小ぶりなパールを月に、小さなダイヤモンドを星に見立てたリングは、女の子なら誰でも心惹かれる可愛らしいデザイン。
磨き上げられたショーケースに顔を近づけ、思わずじっと見入ってしまう。
(すごく可愛い。でも、ちょっと手が出ないな……)
ごくたまにカジュアルなアクセサリーを買うことはあるけれど、さすがはハイブランド、私が買う物とは桁がいくつも違っている。
早々に諦めて店内を見渡すと、佑哉さんは奥まった場所でショーケースに顔を近づけ、何かを吟味している。
(佑哉さん、いったい何を見てるんだろう)
戸惑う私をよそに、佑哉さんは背後に控えていた女性スタッフを振り返り、極上の笑みを浮かべた。
「指輪を見せてもらえますか」
「かしこまりました。本日はどういったものをお探しですか?」
「エンゲージリングを探しています。彼女のために」
彼の眼差しがまっすぐにこちらに向けられ、息が止まるような甘い微笑みが私を捉える。
(えっ……)
突然のことに呆然とする私に、女性スタッフの視線が一斉に向けられた。
そして次の瞬間には、スタッフたちの手で大きな宝石のついた指輪が次々にベルベットのトレイに並べられていく。
「お客さま、どうぞこちらへ」
女性スタッフに誘われ、されるがままにショーケースに近寄る。
目の前に指輪が並べられたトレイが置かれると、佑哉さんはサッと視線を走らせただけで、ひとつも手に取ることなく年配の女性スタッフに視線を向けた。
「もう少しダイヤモンドが大きいものを」
「かしこまりました」
素早く商品を入れ替えた女性スタッフが、佑哉さんの前に改めてトレイを置く。
ずらりと並んだ豪華な指輪の中から、佑哉さんは迷うことなくひときわ大きなダイヤモンドが飾られた指輪を手に取った。
「これはどう?」
佑哉さんが選んだのはひと粒のダイヤモンドをあしらったプラチナのリングだ。
余計な装飾がない分宝石の持つ本来の美しさが際立ち、明らかに他の石とは違う高貴な煌めきを放っている。
佑哉さんは戸惑う私をジッと見つめながら手を取り、左手の薬指に指輪を嵌めた。
指から零れ落ちそうなほど大きなダイヤモンドが、部屋の照明を受けてキラキラと輝く。
初めて見る本物の輝きに圧倒される私に、女性スタッフが満足気に口を開いた。
「そちら、二カラットのブリリアントカットになります。当社にも滅多に入らない最高級のお品物でございます」
「悪くないな。彩花、どう思う?」
「あ、あの、でも私……」
ちらりと見えた値札には、数百万という額が記されている。
想像もできないほど高価な宝石を前に、自然に指が震えてしまう。
(まさか……本当に買うつもりなの?)
佑哉さんは偽装結婚のための、偽の婚約指輪を買おうとしているのだ。
その事実に、心が暗く沈んでいく。
いつか自分だけの王子さまが現れて、プロポーズの言葉と共に輝く宝石の指輪を左手の薬指に嵌めてくれる。
そんなお伽噺を信じる子供ではないけれど、大人になった今でも無意識に左手の薬指にリングを嵌めることは避けている。
(嘘の婚約指輪だなんて。それに……)
私に偽物の指輪を嵌めるのは、ずっと叶わない想いを寄せている佑哉さんだ。
(こんなの、あまりにも残酷過ぎる……)
思わず零れそうになった涙を必死で堪えていると、何かに気づいた佑哉さんが困惑した表情で私を見つめる。
「彩花、気に入らない? それじゃ、他のものも見せてもらおうか」
「いいえ。……あの、指輪はなしではいけませんか?」
「どうして? もしかしてこのブランドが気に入らない? ……それなら、別の店に行こうか?」
うなだれて黙っていると、佑哉さんは私の手を引き店内の片隅まで連れて行く。
手を繋いだまま距離を詰められ、ごく近くで彼の優しい眼差しに捕えられた。
「彩花、どうしたいのかちゃんと言って」
「あの……。に、偽物の婚約指輪なんて、必要ないんじゃないでしょうか。それに、あんなに高価な指輪をいただくわけには……」
「でも指輪がないと父やお母さんに変に思われる。城之園さんに聞いたんだけど、もう社内で俺たちの噂が広まってるんだろう? それなら、堂々と指輪を嵌めて見せつけてやればいい。みんなが羨むような、最高のエンゲージリングをね」
彼の口から城之園さんの名前が出るのを聞き、また心が苦しくなった。
(佑哉さん、本当に城之園さんのことを信頼しているんだ……)
もし私とあんなトラブルがなかったら、佑哉さんの偽装結婚の相手は城之園さんだったかもしれない。
いや偽装というより、城之園さんなら本物の結婚相手にだってなれたかもしれないのだ。
社内で幾度となく目にした、仲睦まじく寄り添うふたりの姿が脳裏に浮かぶ。
醜い嫉妬の感情が胸を満たし、そんな自分に耐えられず――言葉なくうなだれることしかできない私の頭の上で、佑哉さんが困ったようにため息をついたのが分かった。
こんな場所で迷惑をかけている自分を自覚し、ますます心がしぼんでいく。
「彩花、俺は君に最高のエンゲージリングを贈りたい。君の優しさと、長年父に尽くしてくれたことにお礼をしたいんだ。……エンゲージリングという響きが重いなら、俺からの感謝の証だと思ってくれていい」
「感謝の証……?」
「そうだ。父はこの結婚をとても喜んでいる。治療をするつもりはまだなさそうだが、幸福そうな父の顔を見るのは俺も嬉しい」
佑哉さんはそう言うと、口角をわずかに上げて見せた。
取ってつけたようなぎこちない笑顔に、彼もこの状況に戸惑っているのだと改めて気づく。
(そうだ。佑哉さんだってこんな偽の結婚、本当は嫌に決まってる)
彼が口にした感謝という言葉が、それをはっきりと物語っている。
あの偽のエンゲージリングは偽の結婚の証。それ以上でも、それ以下でもない。
彼にとっては意味などない、ただの謝礼と同じ。
特別な意味を感じているのは、私だけだ。
誤魔化しようのない事実に、胸が切り裂かれるように痛む。
(そんなの、最初から分かってたことじゃない。平気な顔をして、ちゃんと指輪を選ばなきゃ)
いくらそう自分に言い聞かせても、胸の痛みは収まらない。
そればかりか、堰を切ったように押し寄せる感情と共に涙が溢れて、止まらなくなった。
「彩花……?」
私の涙に気づき、佑哉さんが狼狽えたように大きく目を見開く。
「彩花、いったいどうしたんだ」
「……何でもありません」
「何でもないわけないだろう。……どうして泣くんだ」
切なげに顔を歪めた彼の手が、私の頬に触れる。
佑哉さんは悪くない。彼はただ、お父さんを助けたいだけだ。
それに偽装結婚を引き受けたのだって、最終的には私の意思。
彼が無理強いしたわけじゃない。
そう自分にいくら言い聞かせても、涙はいっこうに止まってはくれなかった。
濃紺の夜空には、冴え冴えとした月が浮かんでいる。
人気のない公園のベンチに腰かけ、私はひとりぼんやりと夜空を眺めていた。
(佑哉さん、もう帰っちゃったかな……)
彼を置き去りにして店を飛び出してから、すでに一時間ほどが経過している。
行く宛てもなく街を彷徨い、偶然見つけた小さな公園でこうして月を眺めているうちにようやく自分を取り戻すことができたけれど、冷静になってみれば後悔しきりだ。
(あんなところで泣いたりして……幼稚なことをしてしまった)
ひとしきり泣いて感情の波が去ると、いい歳をしてあんなに混乱してしまったことが恥ずかしく、消えてしまいたいほど情けない。
今になって思えば、佑哉さんが婚約指輪を用意しようとしたのはごく自然なことだ。
あんなに高価な指輪は必要ないと思うけれど、結婚が決まった女性が左手の薬指に指輪をしていない方が不自然だろう。
(あんなに取り乱してしまったのは、きっと相手が佑哉さんだからだ)
そんな自分の気持ちに気づき、どうしようもなく苦しくなった。
彼のことが好きだから偽物が嫌だなんて、それなら最初から偽装結婚なんて断ればよかったのだ。
矛盾する自分の心を思い、どうしたらいいのか分からなくて――私は夜空を仰ぎ見る。
暗闇に浮かぶ月は、今日も不完全な姿をしている。
今夜の月は私の恋と同じく、ただ欠けていくばかりだ。
「こっちは必死で駆けずり回ってたのに、優雅に月見だなんてひどいな」
暗闇の中で、どこからか聞き慣れた声がした。
振り返ると公園の入り口に、佑哉さんが立っているのが目に入る。
「佑哉さん……」
彼はこちらを見つめながら、黙ったままゆっくりと歩みを進めた。暗闇でも煌めいて見える瞳が、私を捉えながら次第にこちらへ近づいてくる。
(もしかして、私のことを探してくれたの?)
彼は私のすぐそばまで距離を詰めると、黙って隣に腰を下ろした。
きちんとセットされていたはずの髪が乱れていて、それが少し嬉しい。
「心配したんだぞ。それにどうして電話に出ない?」
「……ごめんなさい」
「それに、あんなところで泣くなんて……。俺が泣かせたと思われるだろう」
口ではそんな憎まれ口を叩きながらも、いつもより優しい声色に胸がきゅっと音を立てる。
佑哉さんは私に身体を寄せながら、そっと自分の右手を私の左手に重ねた。
大きな、温かな手が私の手を包み込み、そのぬくもりに泣きたいような気分になる。
「ちょっとは落ち着いた?」
「はい。私、あんな場所で泣いたりして……ごめんなさい」
「いや、俺の方こそすまない。……少し先走り過ぎた。先に彩花の気持ちを確認してから行動に移すべきだった」
佑哉さんはそう言って私の顔を覗き込む。
「目が腫れてる。ここでひとりで泣いてたのか」
「あ……どうしよう。そんなに腫れてますか?」
「……いや、そんなに気にするほどでもないよ」
佑哉さんはさりげなく視線を逸らすと、手持無沙汰に前を向いた。
不器用な彼の優しさが伝わり、耳の後ろが痛くなるような切なさが駆け抜ける。
そうしてもいい気がしたから、私は彼の肩にそっともたれかかった。
彼は身動きひとつせず、視線を前方に向けたままだ。
「佑哉さんは好きな人とか、いないんですか」
「……どうして?」
「だってよく考えたら、偽装結婚なんてしなくても佑哉さんならどんな人とでも結婚できるんじゃないかと思って」
問いかけに答えず、佑哉さんは私の肩を抱き寄せた。
力強い腕に抱かれ、触れた部分から彼の体温が伝わる。
ずっと別世界にいるように感じられていた彼の存在が、こんなにも身近に感じられることが何だか不思議だった。
「佑哉さん」
名を呼ぶと、彼の横顔が私に向けられた。
印象的な黒い瞳が、物言いたげに揺れている。
こんなに近くで見つめられることが幸せで、切なくて。堪らなくて、沈黙に耐えられなくなって言葉を続けた。
「城之園さんとか」
「彼女が何?」
「……佑哉さんとお似合いです」
苦しい。吐き出したい。そう思い、心の中いっぱいに広がっていた疑念を伝えると、彼の端整な顔にわずかに苛立ちの感情が浮かぶ。
顎に指を添えられ、顏を上げられると、視界いっぱいに広がった佑哉さんに「気に入らない」と告げられた。
「えっ」
「だから気に入らない。散々走り回らせておいて他の女性にしろとか……考えられない」
「そんな……!」
そんなつもりじゃない、と言いかけた言葉は最後まで紡げなかった。
重なり合うだけの、私を待たない唐突なキス。
あっと思って身体を引いたら、すぐに佑哉さんの唇が追ってきた。
何度か啄むように触れ合ったら、少し顔を傾けた佑哉さんの唇が食むように私の唇に重なる。
淡く触れ合って、また離れて。
私の反応を確かめながら少しずつ熱を帯びる佑哉さんの唇が、合い間に漏れる吐息が、私の鼓動を限界まで高めていく。
いつの間にか背中に回された腕に力が込められ、広い胸の中に閉じ込められていた。
「……目は閉じないの?」
「あ……あの、だって、佑哉さんが」
「俺が何?」
ほんの少し動くだけで唇と唇が触れてしまいそうな、ごく近い距離。
彼の吐息が甘く、狂おしく肌に触れている。
伏せたまつ毛が、私を酔わせる香りが、そして眼差しが。彼のすべてが私だけに向かって、身体全部を包み込んでいる。
蕩けるように幸せで、目を閉じたら消えてしまいそうで、だからそれが怖くて。
「佑哉さんをずっと……」
あなたをずっと見ていたい。触れていたい。……感じていたい。
言いかけた言葉を遮るように、また熱い唇が私を飲み込む。
さっきよりも少しだけ性急な、互いを求め合う甘いキス。
まるで夢の中にいるような、甘美な時間が過ぎていく。
不完全な月が輝く夜、生まれて初めて経験したキスの相手は、私の初恋の人だった。
君は大切な奇跡 ~佑哉Side~
彩花の住むアパートに着いたのは、もう午後十一時を少し回った時刻だった。
俺はアパートの少し手前で車を停め、助手席で眠る彩花をジッと見つめる。
シートに深く背を預けた彩花は、すやすやと安らかな寝息を立てて眠っている。
柔らかな頬にまつ毛が落とす影が、対向車のライトに濃く彩られては淡く消える。
(よく眠っている。……きっと泣いたから、疲れたんだろう)
一緒に住んでいるお母さんにはさっき食事をした店で連絡を入れていたようだが、きっと彩花の帰りを首を長くして待っているだろう。
早く起こした方がいいと思いながらも、眠っている彼女がどうしようもなく愛おしく、あと少しだけ見ていたいという想いが胸を埋め尽くす。
(まだ少し目が腫れてる。……彩花、どうして泣いたんだ)
彼女に残る涙の余韻に、心が騒いで仕方がなかった。
本当ならジュエリーショップでエンゲージリングを選んだあと、週頭の今日はお母さんの分も一緒に何か美味しいものを持たせて、彼女を早目に家に帰すつもりだったのだ。
なのに結局こんなに遅くなってしまったのは、彼女と少しでも長く一緒にいたいという自分の我儘に他ならない。我ながら分かりやすい、ダダ漏れの恋愛感情だ。
(でもさっきの彩花、本当に可愛かった)
嘆息し、俺はまた彼女の寝顔を見つめる。
誰もいない夜の公園で、彩花と初めて唇を重ねた。
淡く儚い、夢のようなキスだ。
柔らかな彼女の唇に触れ、何度も食むように啄んで、腕の中で震える野の花のような彼女を強く抱き締めた。
大切に、ゆっくり進めると心に決めていたのに、堪え性のないわが身が情けない。
しかし泣きはらした顔で健気に振る舞う姿が堪らなくて、込み上げる恋情をどうしても抑えることができなかったのだ。