書籍詳細
不本意なお見合い婚のはずが、クールな弁護士に猫かわいがりされてます
あらすじ
とろ甘お見合い婚で溺愛開始!?エリート婚約者の反則級な一途愛♡
両親の勧めで、会社の顧問弁護士・悠斗と渋々お見合いをすることになった結菜。クールで寡黙な悠斗に最初は戸惑うけれど、二人きりになると、彼は予想外に優しい素顔を見せてきて…!?悠斗が隠し持つ甘さに触れたことをきっかけに距離は縮まり、結菜の心はついに陥落!結婚が決まり幸せな日々の中、一途で過保護な彼の愛情に包み込まれて…。
キャラクター紹介
久保田結菜(くぼたゆな)
電機メーカーを経営する大企業『久保田グループ』の令嬢。お嬢様学校出身のため、恋愛経験がほとんどない。
五十嵐悠斗(いがらしゆうと)
久保田グループの顧問弁護士をしている、『五十嵐法律事務所』で働く弁護士。クールな性格に反して猫が好き。
試し読み
「結菜さん、どうしてこちらに?」
「急に押しかけてごめんなさい。これ……お弁当です。普段も忙しそうでしたので、栄養になりそうな物を作ってみました。ついでに……一緒にどうでしょうか?」
何だか自分で言っておきながら恥ずかしくなってきた。
勝手に押しかけておきながら一緒にだなんて、思い切り過ぎただろうか?
忙しいと断られたらどうしよう……。
ドキドキしながら悠斗さんを見上げた。
すると彼は驚いた表情をするも、一瞬で頰を赤く染めていた。
あれ? どうして赤くなるのだろう?
「あ、ありがとうございます。わざわざ作って持ってきて頂けるなんて。そうですね、そろそろお昼ですし、別のところで食べましょう」
照れた様子でそう言ってくれた悠斗さんに私もつられて余計に照れてしまうが、嬉しくなる。
「はい」と笑顔で返事した。
場所を移動し、休憩室としている部屋で食べることになった。
こちらもブラックのソファーがあり落ち着いた感じのインテリアだった。
悠斗さんは、私にもコーヒーを淹れてくれた。
「ありがとうございます」
とコーヒーが入ったマグカップを受け取る。
悠斗さんは、自分のマグカップを置くと向かい側のソファーに座り、私が作ったお弁当を手に取って蓋を開けた。
いざ、見られると思うと余計に緊張してくる。
形は何とか崩れていないようだが、少し片方に寄ってしまっていた。
「うわぁー美味しそうですね。私の好きなハンバーグも入っているし」
片寄ったお弁当を見ても悠斗さんは気にせずに嬉しそうに声を上げた。
良かった……喜んでくれているわ。内心ホッとする。
「すみません。持ってくる時にお弁当が少し寄ってしまいました」
「いえいえ。それぐらい気にしませんよ。では、いただきます」
悠斗さんは箸を持つと、まず卵焼きに手を伸ばす。
さて、問題は味付けだ。どうかしら?
悠斗さんは、味わいながら食べてくれているようだ。どんな感想を聞けるのか、私はドキドキしながら彼を見つめた。
「味付けは、どうですか?」
「うん、とても美味しいですよ。甘辛い味付けなんですね? 私の母も甘辛い味付けなので、実家の味がします」
「本当ですか? それなら良かった」
卵焼きの味付けだけは、悩んだから胸をホッと撫で下ろした。
実家の卵焼きも同じ味付けだとは、驚いたが親近感が湧いてくる。
奇遇にも同じで良かった。覚えておこう。
「このハンバーグもいつもながら美味しいですね。昼は軽く済ませる事も多く、忙しくて食べられない時もあるので助かりました。これで、午後からも頑張れそうだ」
嬉しそうに微笑み感想を言ってくれる悠斗さん。
気遣って大げさに言ってくれているのかもしれないが、作って良かったと思った。
それに、確かに私が見る限りでも忙しそうだし、普段からゆっくり食べる時間もなかなかないのだろう。
「あの……またお弁当を作って持って行ってもいいですか?」
「えっ……?」
「ご迷惑ではなかったらですが。会社からも近いですし、自分のお弁当を作るついでに悠斗さんのも作ってお持ちしますが」
「大変嬉しいですが、結菜さんの負担になったりしませんか?」
「だ、大丈夫です。普段自分のも作っていますし……」
本当はいつも社員食堂なのだが、思わずそう答えてしまった。
だって、そうでも言わないと遠慮してしまうだろうから。
すると悠斗さんは、少し照れた表情を浮かべて口を開く。
「それならお願いしてもよろしいですか?」
遠慮しながらもその提案を受け入れてくれた。
「ありがとうございます」
「いや……こちらこそ、ありがとうございます」
「あ、フフッ……そうですね」
お互いにお礼を言い合ってしまいクスクスと笑い合った。
これで、平日の時でも悠斗さんと会う事が出来る。
そう思うとなおさら嬉しかった。
そして私は、出来るだけお弁当を作り悠斗さんの事務所まで届けるようになった。
一緒にお弁当を食べられる事も楽しみだったが、悠斗さんの仕事姿を見られるのも楽しみの一つだった。今日も事務所に向かう。
事務室に挨拶に行くと悠斗さんの居場所を教えてもらう。
「こんにちは~」
「あら、結菜ちゃん。旦那様なら二番の応接室よ。今所長と会議をしているわ。もうすぐ終わるはずよ」
「もう井田さんったら……。でも、ありがとうございます。行ってみます」
井田さんに頭を下げて応接室に向かう。
彼女は悠斗さんと同じ弁護士で女性に関係する控訴を担当していて、かなり優秀な方らしい。私の反応が面白いのかからかってくるが、気さくでいい方だ。お弁当を届けている内に仲良くなった。
内面も素敵で女性としてもカッコいいと思った。
私は、教えてもらった通り二番の応接室に行くと、ドアをノックする。「はい。どうぞ」と返事があったので中に入った。
「失礼します」
あ、居た居た。どうやら今日は、事務所の方だけの会議だったらしい。
そこには、悠斗さんの父親も参加していた。
ホワイトボードの前で悠斗さんが、担当として仕切っていた。まだ終わっていなかったみたいで慌てる。
「あ、結菜さん。いらしたのですね」
「す、すみません。お邪魔でしたか?」
「いえ、もう終わらせるので大丈夫ですよ。座って待っていて下さい」
悠斗さんだけではなくお父様も優しく微笑みながら邪魔したのを許してくれた。
申し訳ないと思いながらも、お父様の隣に座る事にした。
「では、こちらの資料をご覧下さい。右にあるのは、今年の提出された分の売上。そして左が、こちらで調べた売上です」
「ふむ……かなり誤差があるな?」
「はい、その通りです。それに気づいたのは、依頼人で担当だった経理課の木村様でした。しかし木村様は、ご自身が疑われると思い、上司に報告せずに自分でお調べになったと本人も申していました。それが、今回の事件の発端になったのかと」
「犯人に逆に利用されたと……」
「はい。犯人は、かなりの知能犯だと思っています。経理課の仕組みを把握し、手口まで、かなり計画的でした。警察も証拠がないと頭を抱えています。しかし私は、不自然な点をいくつか見つけました。それに関しては、後日もっと詳しく調べてから報告します」
悠斗さんは、毅然とした態度で難しい話をしていた。
話の内容は、不正にお金が使われたのかしら? そして事件が? 何だか凄いわね。
お弁当を持ってきただけなのにも拘わらずいつの間にか、その内容を夢中で聞いていた。まるでドラマみたいだ。
それに悠斗さんの仕事風景をさらに見る事が出来て、とにかく頼もしくてカッコいいと思った。なんて言うのだろうか?
キリッとした切れ長の目で真っ直ぐ前を見て話す姿は冷静沈着で、鋭い観察力と推理力を持っている。優秀な弁護士だ。
確かな証言と納得させるだけのスキルがある。
素人の私でも納得出来、分かりやすい。
しばらくして会議が終わり、一旦事務室に戻ってきた。会議の内容から弁護士の仕事を改めて知れて、凄くためになった。
「悠斗さん。見学させて頂きありがとうございました。凄く勉強になりました」
「いえ、こちらこそ。お待たせしてすみません。勉強になったのなら、何よりです」
悠斗さんは、申し訳なさそうにしながらも微笑んでくれた。
その笑みに心臓がドキッと高鳴る。
私の中で悠斗さんに対する気持ちが、変化していく。
普段子猫達や私が見ている悠斗さんは優しく穏やかな人だが、仕事の時は、冷静沈着でキビキビと働いていて、まるで別人だった。
凄く頼り甲斐があり、カッコいい……。
すると井田さんと他の事務員がクスクスと笑ってくる。
「普段のクールさと今の穏やかな雰囲気が明らかに違う。婚約者のせいですかね?」
「そりゃあ、そうでしょう。婚約者の前では、素になれるものよ。結菜ちゃんだから見せる特別な顔ね」
「なるほど。愛の力ですね」
いつものようにからかわれてしまうが、私はそれを嫌だとは思わなかった。
『特別』
その言葉が嬉しかったからだろう。
彼にとって私は、そんな存在になったのだろうか?
それなら私も同じだ。悠斗さんは、私にとっても特別な人……。
いつの間にか、彼に対して、そんな感情が生まれ始めていた。
私は一緒に過ごす時間の中で、彼に惹かれて行くのを感じていた。胸に秘めた気持ちが少しずつ、けれど確かに大きくなって行く。
悠斗さんは、どう思っているのか分からないけど……。
チラッと悠斗さんを窺い見るが、彼は黙ってそれを聞いていただけだった。
お見合いをした義理などは関係なく、彼の本音を知りたくなった。
そんなある日。いつもの土曜日の午後。
私は、早めに夕食の下ごしらえをして洗濯物をたたむ。
最初は、悠斗さんの下着もあって恥ずかしい気持ちもあったが、今では少し慣れてきた。
と言っても、まだ照れてしまうけど……。
その脇から、ミルキーちゃんがダッシュをして洗濯物の中に入ってきた。
「あ、ミルキーちゃんったら、ダメじゃない!?」
注意すると洗濯物の中から顔を出す。
だがすぐ引っ込め、そしてまた顔を出すのを繰り返していた。
まるで何かのゲームみたいね。私は、クスクスと笑う。
ミルキーちゃんが楽しんでいるようなのでその様子を見ていたら、途中から出てこなくなった。どうしたのかしら?
洗濯物の中を覗いてみると、スヤスヤと丸くなりながら眠っていた。
いつの間にか眠ってしまったわ。洗濯物の中が、ふかふかして気持ちが良かったのね。
するとマロンもこちらに来た。そして同じように洗濯物の中に潜り込んでしまう。
「あらあら、マロンまで……」
「ニャー」
マロンも洗濯物の中から顔を出すとこちらを見て鳴いた。
そして、また潜るとそのまま出てこなくなる。もしや?
先程と同じように中を覗いてみると、モゾモゾと身動きをしながら丸くなっていた。目を閉じて小さな寝息を立て始める。困ったわね。
でも、気持ちは分かるような気がするわ。
今日は、本当に天気が良くて気持ちがいい。絶好のお昼寝日和。
窓からポカポカの太陽の日差しが差し込んでいる。青空を見ていたら私もあくびが出てきた。
「ふぁ~、私まで眠くなってきたわ」
あくびとともに目尻に涙が浮かび、ちょっとはしたなかったかも、とクスッと笑う。少しぐらい横になってもいいかしら?
そう思い取り込んだばかりの布団の上に寝そべってみた。
太陽を浴びたせいか、ふかふかしていていい匂いがしていた。
柔らかな布団の感触を楽しんでいると、何だか眠たくなってきた。
寝ては、ダメ……。
そう自分に言い聞かせるが、重たくなったまぶたが自然と閉じていく。
私は、夢を見ていた。一戸建ての家のお庭で、小さな男の子がはしゃいでいる。
そこには、マロンの他にショコラちゃんとミルキーちゃんも居て、一緒に仲良く遊んでいた。可愛い……。
それを見守る私の隣には、顔が光でよく見えないが男性が居た。
誰……?
その男性は、優しく口元を緩ませると私の肩を優しく抱く。
誰なのかは分からないが、何故かあたたかい気持ちがこみ上げた。
この人は、もしかして……?
そう思ったところでふと意識が浮上する。あれは、夢……?
「あ、目を覚まされましたか?」
えっ? 驚いて起き上がると、悠斗さんは私服に着替えを済ませた状態でリビングに入ってきた。いつの間に帰ってきたの?
「悠斗さん。えっ? もうお帰りに……」
辺りを見ると電気がついて明るくなっていた。
もしかして!?
窓の方を見ると、外がいつの間にか暗くなっていた。
噓っ? そんな時間まで眠っていたの!?
「帰ってきたら、よく眠っておられたので」
「すみません。こんな時間まで眠ってしまって。今すぐ夕食の支度を……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりも良かったですね? より仲良くなって」
「えっ?」
悠斗さんは、クスッと優しく微笑みながらそう言ってきた。
より仲良く……? 私は、分からず首を傾げた。
「布団のところを見て下さい」
布団のところ? 眠っていた布団を見てみると……。
あれ? いつもは近づいて来ないはずのショコラちゃんが、そこに居た。
私のすぐ近くで、寝息を立ててスヤスヤと丸くなりながら寝ている。
ショコラちゃん……。
あんなに怖がっていたのに、まさか近くで寝てくれるなんて。
マロン達を見て羨ましく思って来ただけかもしれないが、とても嬉しかった。
それでも私に近づこうとしてくれた証拠だから。
ショコラちゃんは、警戒心が強いからなおさらだ。
私がジーンと感動をしていると、悠斗さんがこちらに来てくれた。
「きっとショコラなりに結菜さんを受け入れ始めたのでしょうね」
そう言いながら隣に座り、優しい表情でショコラちゃんを見ている。
その表情を見て、先程の夢に出てきた男性は悠斗さんではないかと思えた。
雰囲気が似ている。ううん、そうであってほしいと強く願った。
私は、溢れる気持ちを抱きながら悠斗さんを見つめる。
すると悠斗さんは、彼に視線を向けていた私に気づいた。
「どうかなされましたか?」
「あ……いえ。ショコラちゃん達可愛い寝顔ですよね。あ、あとブランケットありがとうございます」
よく見たら肩に、ブランケットが掛けられていた。冷えないように掛けてくれたのだろう。
その行動から悠斗さんの優しさが伝わり嬉しくなった。
悠斗さんは、少し照れながらもニコッと微笑んでくれる。
「どういたしまして。今日は、天気も良かったし、疲れていたのでしょう。夕食の支度の続きは、私がしておきましたので、今から夕食にしましょう」
そう言い立ち上がろうとしたとき。
あ、まだ行かないで!
私は、咄嗟に悠斗さんの服の裾を摑んで引っ張った。
「ま、まだ行かないで下さい」
悠斗さんは、驚いて私を見る。私自身も自分の行動にびっくりして目を丸くしてしまった。
引き寄せてしまったせいかお互いの顔の距離が近くなる。頰を火照らせた私と同様に、悠斗さんの顔も赤くなっているように見えた。
私は、恥ずかしい気持ちを隠すように俯く。どうしよう……。
すると悠斗さんは、そのまま黙ってそこに座ってくれた。
「なら、もう少しだけ……」
「は、はい」
なんて恥ずかしい行動をしたのだろう。
私達はしばらくその場に座って子猫達を見守ることにした。
だが、さっきよりも二人の距離は近くなっている気がする。
そのせいか、ふとした拍子に手が触れてしまう。あっ……と思い手を引っ込めようとした。
しかし悠斗さんは、私の手を握ってきた。えっ……?
思わず悠斗さんを見つめると、真剣な目を真っ直ぐこちらに向ける彼と目が合う。
私はその瞳に捉えられ、胸をドキッと高鳴らせた。
その目に吸い込まれそうになり、逸らすことも出来ない。悠斗さんの目は、まつ毛が長くてとても綺麗……。
そんな風に考えながら見つめていると、どちらともなく近づいていく。
そして目を閉じると軽く触れるようなキスをした。
唇が少し離れるが、名残り惜しいのか、また重ねてくる。甘いキスに酔いしれそうになった。
何度もキスをしていると悠斗さんが、首筋に唇を落としてきた。
ドキドキしながらも、それに応えていると何だか視線を感じる。
不思議に思い、その視線の先を見ると眠っていたはずの猫達だった。
ショコラちゃんはまだ寝ているけど、二匹がこちらを見ている。
悠斗さんもその視線に気づいたようで私達は、慌てて離れた。
わ、私ったら何を始めようとしていたの!?
お互いに我に返ると、今の出来事を思い出して身体中が熱くなる。
思わず雰囲気と流れで、とんでもない事をしようとしていた。
悠斗さんも自分自身に驚いたのか耳まで真っ赤になっていた。
「す、すみませんでした。見つめていたら……その。あまりにも可愛くてつい……」
「か、可愛いだなんて……そんな」
可愛いと言われて驚いてしまった。どう反応したらいいか分からず戸惑ってしまう。ただお互いに恥ずかしがっているのは分かる。
私もかなり真っ赤になっているだろう。自分でも分かるぐらいに身体中が火照っていた。