書籍詳細
姉の元許嫁の政界御曹司は、ママとシークレットベビーを抱きしめて離さない
- 【初回分限定‼】書き下ろしSSペーパー封入
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- 【書泉限定‼】有償アクリルコースター付き特別版
- 【電子書店限定‼】巻末に書き下ろしSS収録
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あらすじ
「すべてをかけて愛してやる。容赦はしない」内緒の出産発覚で、再会執愛にさらわれて…!?創刊5周年マーマレード文庫初回分限定SSペーパー付き!
姉の身代わりとして、政治家御曹司・恭輔との結納に臨んだ柚花。密かに恋心を抱いていた恭輔から予想外に熱く迫られ、愛を育んでいたものの、ある事情で彼の元を去ることに。しかも離れてすぐ妊娠が発覚し…!遠い地で息子を秘密で産み育てる中、恭輔と再会。「もう二度と離さない」――彼の溢れる情愛で、子どもごと独占される日々が始まって…!?
キャラクター紹介
青木柚花(あおきゆずか)
父が恭輔の父の後援会長を務めている。恭輔の婚約者だった姉の恋人の存在を知り、自ら身代わりになる。
真田恭輔(さなだきょうすけ)
類まれな容姿と知性、カリスマ性を誇り、一族は政治家を多く輩出。幼い頃、柚花をきっかけに自らも政界を志す。
試し読み
シャルル・ド・ゴール空港を飛び立って、日本への旅は約十二時間だ。
午後三時に日本に到着してから、入国手続きを終えてタクシーで恭輔さんのマンションに着いた頃にはもう夕方というには遅い時間になっていた。
「柚、入って」
荷物を運び込んだ恭輔さんが、紘輔を抱っこした私のためにドアを押さえてくれる。
緊張したまま部屋に足を踏み入れると、三年前と少しも変わらない空間が私を迎え入れてくれた。
懐かしさと共に込み上げてくる激しい感情に、心がぎゅっと締め付けられる。
「疲れただろう。柚、先にお風呂に入っておいで」
手早く浴室の準備をしてくれた恭輔さんが、私の手からぐっすり眠る紘輔を受け取ってくれる。
「でも、恭輔さんは?」
「俺は後でいいから。取りあえず俺のバスローブを使って」
彼に背中を押されてバスルームへ向かうと、広い浴室はラベンダーの香りで満たされている。
(私、本当に日本に帰ってきたんだ……)
バスタブに身体を沈めながら、私はぼんやりと考える。
(これから、私と紘輔はどうなるんだろう……)
フランスで紘輔の出生手続きは行っているけれど、日本で暮らすなら、また新たな手続きが必要だろう。その他にもこれから始まる暮らしのためにやらなければならないことがたくさんある。
(でも、もう後戻りはできない。私はもうひとりじゃない)
紘輔のためにも、もう逃げることはできない。したくない。
大切な我が子と恭輔さんの顔を思い浮かべ、私は新しい生活を始める覚悟を決めるのだった。
手早く髪を乾かしてリビングに戻ると、紘輔はラグの上に敷かれた小さな布団の上で眠っていた。安らかな寝顔を見つめていると、キッチンで片付けをしていた恭輔さんがそっと寄り添ってくれる。
「お風呂、お先にいただきました」
「うん。……紘輔、まだよく眠ってるな。起こさなくて大丈夫か」
「はい。たぶんもう少ししたら、お腹を空かせて起きると思います」
そう答えると、恭輔さんはホッとしたように表情を緩める。
「それじゃ、俺も風呂に入ってくる」
どこかぎこちない余韻を残して恭輔さんがバスルームへ行ってしまうと、私はスーツケースを開けて荷物の整理を始めた。すぐ必要になる紘輔の着替えなどを、パッキングした袋から出して部屋の隅に置かせてもらう。
もともとたくさんの荷物は持っていなかったけれど、急な帰国で準備が間に合わず持ってこられたのは必要最低限のものだけだ。けれど何故だか、心は満たされていた。
恭輔さんの部屋に紘輔がいて、私がいて、それに……。
「柚、お腹はどう? 何か食べられる?」
入浴を終えた恭輔さんが、無造作に髪を拭きながらリビングに戻ってきた。その声に、眠っていた紘輔の目がぱちりと開く。
「おっ、起きたのか。紘輔、ご飯を食べようか」
小さな手を伸ばし、機嫌よく彼に抱き上げられる我が子を夢のような気持ちで見つめた。
そうだ。ここには恭輔さんがいる。
だからもう、他には何もいらないのだ。
「柚、紘輔は何を食べるのかな。ちょっと冷蔵庫を見てみて」
恭輔さんが紘輔を抱っこしたまま、キッチンから私を呼んだ。
彼の側に近寄って、促されるまま冷蔵庫を覗き込む。
「わぁ、すごい」
庫内には生ハムにソーセージにチーズ、サラダやマリネ、それにロールキャベツやローストビーフなど、すぐにでもパーティーが開けそうな食材がぎっしり詰まっている。
それに紘輔が喜びそうな飲み物やプリンやゼリーなども、たくさん入っていた。
「恭輔さん、これ……」
「ああ。実は向こうから母親に頼んだんだ。今日柚と紘輔を連れて帰るから、何か食べられるものを買っといてくれないかって」
「えっ……」
おじ様やおば様とも、三年前気まずく別れたきりだ。
その上勝手に子どもまで生んだ私を、おじ様やおば様は許してくれるだろうか。
思わず心配顔になってしまった私に、恭輔さんが優しく微笑む。
「勝手なことをしてごめん。でもあまり時間がなかったし……それに両親にも、柚や紘輔のことを早く知らせたかった」
「恭輔さん……」
「この冷蔵庫の中と……後で寝室を見れば分かると思うけど、母はすごく喜んでる。君のことを本当に心配していたからね。でも……ったく、よく一日二日でここまで用意したなと思うよ」
恭輔さんはそう言うとクスリと笑い、紘輔を抱いたまま私の額にそっと唇を押し付ける。
「大丈夫だ。もう柚は何も心配しなくていい。これからは俺がいるから」
身体を屈めて、漆黒の瞳が切なげに私を覗き込む。
一緒に笑顔を向ける幼気な眼差しは、目の前の大切な人に本当に良く似ていた。
おば様の用意してくれたご馳走をテーブルに並べると、紘輔は目を爛々と輝かせながらご馳走に手を伸ばした。飛行機の中ではあまり食べていなかったから、ここへきて一気にお腹が空いたのだろう。
恭輔さんは隣でパクパクと料理を平らげる紘輔を、目を細めて見つめている。
「コウ、これも食べる!」
チキンに噛り付いた紘輔が、口の中をいっぱいにして顔を膨らませた。
それを見た恭輔さんが、慌てたように小さな身体を膝に乗せる。
「こら、そんなに急いで食べるな。ちゃんと噛んで、水分も摂れ。かみかみ、ごっくんだ」
「んん、かみかみ、ごっくん」
世話をしてもらえるのが嬉しいのか、紘輔は彼の膝の上に大人しく座っている。
コップでお茶を飲ませたり、汚れた口を拭いてくれたりと甲斐甲斐しくお世話をしてくれる恭輔さんに、胸がホッと温かくなる。
そのどこかおぼつかない手つきすら嬉しくて、思わず涙が零れそうになった。
「柚も……ちゃんと食べろ。紘輔の世話は俺がするから」
「はい……ありがとうございます」
幸せな時間に胸がいっぱいになりながら、私はおば様の用意してくれたご馳走を口に運ぶ。
止まっていた恭輔さんと私の時間が、また新たに時を刻み始めた気がした。
たらふくご馳走を食べてお腹がパンパンになった紘輔はしばらくご機嫌で恭輔さんと遊んでいたけれど、やがてラグの上に転がって動かなくなった。
ホッとした表情を浮かべて、恭輔さんが紘輔の側に腰を下ろす。
「本当に、電池が切れたみたいに寝るんだな」
恭輔さんは優しい笑顔で寝顔を覗き込むと、そっと紘輔の頬を撫でる。
「風呂には入れなくていいの?」
「はい。今日はもうこのまま寝かせます。身体だけ拭いて着替えさせますね」
そう言って私が着替えを用意していると、キッチンへ向かった恭輔さんが蒸しタオルを用意して持ってきてくれた。そして起こさないように服を脱がせた紘輔の身体を、丁寧に拭き始める。そのあまりの手際の良さに、私は思わず目を見張った。
「すごい。恭輔さん、何だか手慣れてる」
「実は帰りの飛行機の中でちょっと調べたんだ。これからは俺も手伝うよ。仕事で時間が取れない時も多いだろうが、今まで苦労をさせた分、柚にも紘輔にも俺にできることなら何だってするつもりだ」
「恭輔さん……」
思いもよらない彼の言葉に、思わず涙が溢れてしまう。そんな私に、恭輔さんが困ったように微笑んだ。
「ほら、柚、紘輔にパジャマを着せてやって。このままじゃ風邪を引く」
彼に促され、紘輔の小さな身体に柔らかなネルのパジャマを着せてやる。
その安らかな寝顔に、私の心にまた新たな幸せが溢れてくる。
恭輔さんはすっかり寝入ってしまった紘輔を抱き上げると、寝室へと向かった。
部屋に入ると、以前は真ん中に配置してあったキングサイズのベッドが横にずらされ、見慣れないシングルサイズのベッドが隣にぴったりと隙間なく並べられている。
ベッドの端には転落防止の柵が取り付けられていて、ひと目で紘輔のためのものだと分かった。それに、リネンも以前とは違って優しい花柄で統一されている。
(これも、おば様が用意してくれたんだ……)
どこもかしこも、部屋中が私と紘輔に対する優しさで溢れている。無条件に注がれる愛情を感じて、また涙が溢れてしまう。
恭輔さんはベッドに紘輔をそっと横たえると、小さな羽根布団を優しく掛けた。
「おやすみ、紘輔」
恭輔さんは眠っている紘輔に優しく呟き、私の手を引いてリビングに戻る。
その間も、涙は中々止まってくれなかった。三年前別れを決めた時も、フランスで紘輔を生んだ時だって泣かなかったのに、堰を切ったように溢れた涙は次から次へとぼろぼろとこぼれ出す。しゃくりあげるように息がひきつれ、息ができなくなった。
「柚、こっちにおいで」
恭輔さんの腕が身体に回り、引き寄せられる。
ふたり並んでソファーに座ると、強い力で抱きしめられた。
「柚、もういいから、そんなに泣くな」
「だって……私、おじ様にもおば様にも何の挨拶もしないで……」
おじ様やおば様だけじゃない。私は恭輔さんやだって、何も告げずに姿を消した。
私にとって永遠に思えたあの夜、この部屋で彼にすべてを捧げて、その思い出だけを食べて生きていこうと思っていた。
でも、そんな独りよがりな私の行動が、どんなにみんなを傷つけただろう。……どんなに恭輔さんを苦しめただろう。
「ごめ……んなさ……」
「柚……」
「わ、私……」
言葉が上手く伝えられない。どうい言えばいいのか分からない。
今だって、あの時の私がどうすれば良かったかなんて決められない。
ただひとつ分かっているのは、もう彼と離れられないということだけ。彼を愛しているということだけだ。
「柚、もういいから、泣き止んで」
柔らかな唇が濡れたまぶたに触れ、彼の甘い囁きが肌をくすぐる。
「じゃなきゃ……このまま君を抱いてしまうよ」
答えを待たずに、彼の唇がそっと私の唇に重なった。私の涙で濡れた唇は、しっとりと唇の中で溶けていく。熱く燃えるような彼の情熱で、とろりととろけていく。
苦しいほど締め付けられていた胸の痛みが、柔らかな舌の感覚と共に薄れていった。
代わりに、とめどなく与えられる刺激が私の心を潤していく。
「ん……」
泣きすぎてくったりとした身体がふらりとソファーに倒れ込んだ。私の唇を追ってきた恭輔さんの逞しい身体が、私の身体に重なる。懐かしい彼の体温が、薄いシャツを通じて伝わってくる。
「んっ……ふっ……」
私を求める激しい熱。口内を余すところなく味わう獰猛な口付け。
残酷ささえ秘めた彼の執拗な愛撫に、ただすべてを開いて受け止める。
深くて濃いキスを交わしながら、恭輔さんの手がもどかしげにカットソーのボタンを外していく。
胸元をはだけさせて背中に指先を滑らせ、すぐにするりとブラが取り去られた。
「あっ……」
何もつけていない、裸の胸が彼の目の前に晒される。恥ずかしさにハッと手を当てると、強引な仕草で手首を掴まれソファーに縫いとめられてしまった。
薄く色づいた先端は、まるで彼を誘うようにツンとその存在を主張している。
「あ……灯りを……」
蛍光灯のついたリビングでは、何もかもがはっきりと晒されてしまう。あまりの恥ずかしさに目を背けると、恭輔さんのいつもより低い声が耳元に落ちてくる。
「俺は……このままがいい。俺に抱かれて柚がどんな顔するのか、どんな風に色づくのかを見たい」
「や……」
「見せてくれ。柚の顔、ずっと夢でしか見られなかったから」
恭輔さんはそう言うと、私の胸に顔を埋める。
そして柔らかな部分を食むように唇で何度か挟むと、敏感な部分を口に含んだ。
狡猾な舌先に翻弄され、感じやすい蕾に与えられる刺激がさざ波のように全身に広がっていく。
「可愛いな。……それに、美味しい」
彼の唇が、柔らかな素肌を滑り落ちていく。ちゅ、ちゅっと音をさせながら、私の身体をくまなく味わっていく。
切ない声を上げながら、私はいつの間にかすべてを脱ぎ捨てていた彼の逞しい背中に縋り付く。
「柚……もっと声を聞かせて」
恭輔さんはそう呟くと、私の中に顔を埋めた。
突然与えられた未知の刺激に、荒れ狂う激しい波に攫われる。
痺れるような疼きが身体の奥から沸き上がり、溢れて、ひっきりなしに甘い声が喉から漏れる。
その声に呼応するように、彼の舌がますます激しく私を攻め立てる。
身体の奥から瑞々しい蜜が溢れて、指の先まで彼の色に染められていく。
「柚……欲しい」
息も絶え絶えの唇にキスが落ちてきて、彼の黒く潤んだ眼差しが私を射貫いた。
ハッとして見上げると、いつもは理知的な彼の瞳に情欲の炎が揺らめいている。
その猛々しさに、私は瞬きも忘れて見惚れてしまう。
逸らせない。いつまでも見ていたい。そう思った瞬間、私を待たない彼の激しい情熱が、ひと息に私の中に流れ込んできた。荒々しい濁流が私を襲い、激しい衝撃が身体の中を駆け抜ける。
「あ……」
息が止まるような焦燥が私を襲った。次の瞬間、目が眩むような幸福に私のすべてが包み込まれる。思わず手を伸ばし、彼の背中にしがみ付いた。
「柚……愛してる。君だけだ。昔からずっと……」
少し掠れた低い声。激しく打ちつける身体も汗ばむ素肌も、何もかもが愛しい。
「……もう二度と離れない」
激しく狂おしい時の隙間で、彼が囁く声がする。
それから、また彼の愛が私の身体を隅々まで潤すのだった。