書籍詳細
エリート外交官の反則すぎる熱情~一夜のつもりが見つけ出されて愛され妻になりました~
あらすじ
「俺のものになるまで、絶対に逃がさない」敏腕外交官から激愛で娶られました
失意の中で訪れた海外で、エリート外交官の律基に出会った芽里。互いに強く惹かれながらも自信のない芽里は、一夜だけの関係を提案する。しかし絶対に逃がさないと彼に宣言され日本で再会!「どんな君だって愛してる」等身大の自分を見てくれる律基の求婚を受け入れると、ちょっと強引だけど誠実な彼の溺愛があふれ、芽里はさらに激しく求められて!?
キャラクター紹介
日向芽里(ひなためり)
幼少期を海外で過ごす。ある出来事がきっかけで自信をなくしてしまうが、律基に出会って本来の自分を取り戻す。
蕗谷律基(ふきたにりつき)
芽里の夫。人当たりがよく、誰からも好かれるイケメンエリート外交官。
試し読み
シドニーでリフレッシュして生まれ変わったつもりで帰国した。けれど現実はそう簡単ではなく、今の自分とうまくつき合っていかなくてはいけない。
「就職かぁ、芽里が嫌じゃなければ俺が紹介してもいいけど」
まさか京子に続き、律基まで仕事を紹介してくれるなんて。
「え、本当? あ、でも私バイオリンと語学以外、得意なことないんだった」
「またそうやって、自分を卑下する。心配しなくても芽里にぴったりの仕事だよ。というか、芽里にしかできない仕事だ」
律基はずるいと思う。私がどういう言葉で喜ぶかわかっているようだ。欲しい言葉を欲しいタイミングでくれる。
「私にしかできないってどういう仕事?」
しかしどんな仕事かいっこう一向に思い浮かばない。いったいどんな仕事だろうか。思わず前のめりになって話を聞く。
律基はそんな私に、極上の笑みを浮かべた。
「日向芽里さん、俺に永久就職しませんか?」
「……ん?」
ちゃんと耳に届いていたはずなのに、理解ができない。
「〝エイキュウシュウショク〟って〝永久就職〟?」
もしかして私の知っている〝永久就職〟の意味が違っているかもしれない。
そう思って彼に尋ねる。
「そう、俺と結婚しようって言ってる」
「そっか、間違ってなかった」
正解を得られてほっとした――わけもなく、余計に驚いた。
ぱちぱちと瞬きを繰り返して、まじまじと律基を見る。
「で、いつにする?」
にこにこと満面の笑みを浮かべ、私に意見を求める律基。
しかし私は、なぜそんな話になったのかわからないでいた。
「もしかして、ふざけてる?」
冗談としか思えない話に、彼の様子を窺う。
「何言ってるんだ。俺のいっせい一世いちだい一代のプロポーズなのに」
それまで笑顔だったのに、心外だといわんばかりの不服そうな顔をした。
「まさか、本気なの?」
「もちろん」
強くうなずいた彼をじっと見つめる。
するとなんだかすごくおかしくなってきて、私は思わず笑ってしまった。
「なんで笑うんだ。俺は真剣に芽里と結婚したいと思っている」
「ごめんなさい。でも、こんなにびっくりするようなこと言う人初めてだったから、驚いちゃった」
彼は意外そうな顔をしている。
「そうか? 芽里だって、そう変わらないだろう」
「いや、いくらなんでもここまでじゃないと思うけど」
私はひとしきり笑い終えた後、彼をまっすぐ見つめた。
「さっきも言ったと思うけど、今ここにいる私は律基の思う〝芽里〟じゃないよ。色々と思い悩むし、はっきりと人に意見を言うのを怖いと思っている。就職の面接すらうまくいかないような人だよ」
悔しいけれど、シドニーのときの私とは違う。彼をがっかりさせたくない。
「芽里は俺のこと嫌い?」
「好きだよ」
そう、即答できるくらいには好きだ。だからこそ彼のプロポーズをバッサリ断れないのだ。
「じゃあ、何も問題ないさ。俺はそのままの芽里でもいいと思っているけど、芽里自身が変わりたいって思っているなら、俺のそばでどんなふうに変わるのか見ていたい」
その言葉に心が揺さぶられた。
これから変わっていく私と一緒にいたいと言ってくれている。彼はこの先の私も受け入れるつもりなのだ。
今だけじゃない、未来を見据えた彼の言葉に、私は決心した。
律基の顔をもう一度見た。この人のことが好きだ。出会ってちゃんと話をしたのは二度目。それでもその気持ちは確かなものだ。
もし今ここで彼の申し出を断ったら、私後悔するだろうな。
「いいよ」
気がついたら、返事をしていた。
「え?」
「だから、いいよ。結婚しても」
律基の綺麗な目がまん丸になっている。そんなに驚くことだろうか?
「なんで律基がそんな顔してるの? そっちがプロポーズしてきたんでしょう? もしかしてもう取り消したくなった?」
私の言葉に彼は慌てた様子で首を振っている。
「そんなはずないだろう。本当に俺と結婚するんだな?」
「うん、よろしくお願いします」
「あぁ、もちろんさ。芽里、ありがとう!」
シドニーの真夏の太陽のようなまぶしい笑顔の彼に、私は胸をときめかせた。
彼となら自分らしくいられる。きっとそうに違いない。確信に近い予感がした。
「OKしたんだから、今さら逃げられないからな」
「もちろん、逃げ出すつもりなんてないから」
「そうか、それならまず――」
いったい次は彼の口からどんな言葉が飛び出してくるのだろうかと、ドキドキして待った。
「とりあえず、携帯の番号を教えて」
「え……」
お互いに見つめ合って、噴き出した。
そうだ、私たちはまだ連絡先すら知らないのだ。
こんな話、誰かにしたら「大丈夫なの?」って心配されそう。
でもそれでもよかった。私と律基ふたりで決めたことだから。
私はスマートフォンを取り出すと、自分の連絡先を表示して律基に差し出した。
お互いの連絡先を交換した。
スマートフォンの中に〝蕗谷律基〟と彼の名前がありなんとなくくすぐったい。
一般的な過程を経た結婚ではないのはわかっている。
けれど彼に抱くこのくすぐったい気持ちは間違いなく恋だ。
彼となら、それを大きく育てていける。そんな予感がする。
「そうとなればお祝いの乾杯をしよう。一番高いワインを頼もうか」
すごく喜んでいるのが伝わってきて、そんな彼を見る私も胸があったかくなった。
「いいって、そんなにふんぱつ奮発しなくても」
「いいから、俺がそうしたいんだ」
律基はうれしそうにワインリストを見ている。
そんな彼を見ていると、これ以上止めるのはぶすい無粋な気がした。
「芽里はどういうワインが――」
急に話すのを止めて律基は眉をひそめている。
露骨に嫌そうな表情をしながらジャケットの内ポケットから、先ほどしまったばかりのスマートフォンを取り出した。
画面を見て小さなため息をつく。
「ごめん、仕事の電話だ。出てもいい?」
「どうぞ」
ここは個室だから問題ない。
「もしもし蕗谷です」
黒田さんの『ごゆっくりどうぞ』という言葉に甘えて、ずいぶんゆっくり過ごしたので、二十時を過ぎている。こんな時間にまで仕事の電話があるなんて、やっぱり外交官って大変な仕事なんだ。
普段生活しているうえで、あまりなじみのない外交官という仕事。国内なら外務省で働いて、国外だと大使館で勤務する、それくらいしかわからない。
今度詳しく彼の話を聞いてみよう。きっと面白い話がたくさんあるはずだ。
電話をする律基の顔をなんとなく眺める。
真剣に話をする彼の顔は、ふたりっきりで過ごしてきたときには見せなかった表情だ。
なかなか素敵かも。
仕事のできる人は、男女問わずかっこよく見える。それが好きな人ならなおさらだ。ましてや律基は私の夫となる人。
じっと見つめていると、思わず口もとが緩む。
私、かなり浮かれているかも。
結婚を決めたのだから、一般的には浮かれていて当然だ。
もちろん相手が律基だからOKしたのだけれど、勢いで返事をしたところもある。頼りにしたのは自分の直感だけだ。世間ではそうそうない話に違いない。
それに加えて、気がついてしまった。
律基に愛してるって言われた?
記憶を掘り起こしていくと、かわいいとか好みだなんてことを言われたような気がする。〝好き〟も確かに言われたけれど、ちゃんとした告白はされたのか記憶があいまいだ。
いきなりのプロポーズが強烈だったから印象が薄いのかもしれない。
求婚されて承諾したのに、告白されたかどうか気にしているのがおかしいのかも。でも彼がどのくらい私のことを好きなのか、気になってしまう。
LOVEじゃなくてLIKEってこと?
でもプロポーズをされたのだから、愛しているということだよね……。
考えすぎて頭の中がごちゃごちゃしてきた。
私『いいよ』なんて返事をしてよかったのかな?
いつも考えるよりも行動が先の私でも、さすがにちらっと不安がよぎる。
でも彼と再会した途端、なんだか世界が明るくなった気がした。大げさにいえば暗雲立ち込めていた未来が、ぱぁっと明るくなった、そんな感じだ。
彼といる未来を想像したら、わくわくした。私は自分のその直感を信じたい。
これまで考えに考え抜いて行動したからって、全部がうまくいったわけじゃない。 だったら、自分の気持ちを、そして彼を信じてみたい。
考え込んでいたら、彼が電話をしながら、テーブルの上に置いていた私の手をぎゅっと握った。
仕事の電話中なのに、こんなことしてもいいの? なんだかすごくいけないことをしているような気持ちになる。
驚いて彼を見ると、さっきまで真剣な顔をしていた彼が、肩をすくめて笑ってみせた。しかし声色は仕事仕様でずっと変わらず、口調も固い。
器用だなと思いながら、邪魔しちゃ悪いってわかっているのに笑ってしまった。
口パクで「ちゃんと仕事して」と言うと、伝わったのか彼が笑みを深めた。
しかし次の瞬間ぎゅっと眉間に深い皺を刻んだ後、通話を終えた。
「電話中、なんだか難しい顔をしていたけど。大丈夫か?」
まさかずっと見られていたとは思わずに驚いた。
「平気だよ。私だって、色々考えることがあるの。そんなに能天気じゃないんだからね」
「そんなふうに思ってない。でも考え込んでいる顔もかわいかった」
こんな形でストレートに褒められると恥ずかしくなってしまう。
頬が熱い。照れている私を見て彼が笑っていたが、すぐに表情を曇らせて小さくため息をついた。
「芽里ごめん、乾杯はまた今度でいい?」
「仕事なの? だったら仕方ないよね」
本当に残念そうにしている彼を見てわがままを言うつもりなどない。
彼が外交官ということは知っているが、具体的にどんな仕事をしているかは知らない。ただ時差がある海外とのやり取りがあるので、こんな時間でも呼び出されるのも珍しくないのだろう。
しかし私の気遣いは、彼にはいまいちだったようだ。
「そこはさ、嫌だ行かないでって言ってほしいな」
不満そうにスマートフォンをジャケットのポケットにしまう。
「でも言われると困るでしょ?」
「あぁ、でも芽里にならかまわない。むしろ盛大にわがままを言って俺を困らせてほしい」
呆れて笑ってしまった。でもそんなふうに気持ちを表してくれる彼が好きだ。
そう、私は彼が好きだ。他の人がどれくらい相手が好きになったら結婚するのかわからないけれど、私は彼が好きだからそれでいいのだと思う。
「そんなふうにすねないで」
立ちあがると中腰になって、彼のネクタイをクイッと引っ張って引き寄せた。そして唇にキスをしてみせた。
鳩が豆鉄砲を食らったかのごと如く、驚いた顔をしている彼を見て満足した。
「これで、お仕事がんばってきて」
「逆効果だな、行きたくなくなった。あぁ、芽里も連れていければいいのに」
彼が立ちあがったので、私もそれになら倣う。
「一緒には行けないけど、連絡するから」
彼のジャケットの内側にあるスマートフォンを指さした。
「芽里のおかげで、これまでわずら煩わしいと思っていたスマホのこと、好きになれそうだよ」
彼の隣に立ち「大げさだよ」と言おうとした瞬間、腰をぐっと引き寄せられ唇を奪われた。
それは私がしたキスの何倍も深いキスで。胸をときめかせないわけにはいかなかった。