書籍詳細
双子を秘密で出産したら、エリート海上自衛官に溺愛のかぎりを尽くされています
あらすじ
「いますぐ俺と結婚して」再会した海上自衛官の最愛妻に
唯一の家族である父を失った万里花は、幼なじみで海上自衛官の東助を前に、揺れる感情のまま長年の恋心も溢れ出てしまう。すると彼は予想外の激情を返してきて…! とある事情から、あれは一夜の慰めだと悟った彼女は、身ごもった双子を一人育てると決意。しかし再会した東助に子どもごと過保護に甘やかされ、万里花は一途な愛を刻まれていき――。
キャラクター紹介
栗澤万里花(くりさわまりか)
事務員として働く26歳。前向きで明るく、行動力のある女性。幼少期から、東助にずっと恋心を抱いている。
久留見東助(くるみとうすけ)
万里花の3歳年上の幼なじみで、彼女に対しては超過保護。若くして海上自衛官のエリート幹部を務める。
試し読み
「あっ、だめだよ。ふたりだけでお風呂に行っちゃだめ……って全然聞いてない!」
「俺、どうしたらいい?」
東助も額に汗を浮かべて、困惑気味に私に聞いてきた。
「……東助、自分の着替え持ってきた? すぐ出せる?」
「うん」
「じゃあ、今日だけみんなでお風呂に入ろう。私は覚悟を決めたから……!」
お風呂で待っていると言い残し、急いで双子を追いかけた。
東助が来る前に、双子の体と自分の体を秒速で洗う。湯船に浸かったタイミングで、半透明の扉の向こうから東助に声をかけられた。
「入ってもいいかな……いい?」
「どーぞー」なんて、凪沙が答える。
ガラッと扉が開く。私は凝視しちゃいけないと思い目をそらしたのに、双子は東助の姿をめちゃくちゃ見ているらしい。
「すごーい! おなかが、ぱんみたい!」
「ぱん!」
お腹がパンって、どうゆうこと?
「あの、パンってなに?」
「……万里花も見て確かめたらいいよ」
東助の声が、浴室に響く。
ものすごく気になって、ドキドキしながらちらっと東助に視線を移した。
そこには、細マッチョのバッキバキの腹筋が浮き出ていた。まるでギリシャ彫刻みたいな体の仕上がりに、ちらっどころかがっつり見てしまった。
「ママはふわふわぱん」
「ママはねー、そうだね」
凪沙と潮音の、無邪気な表現と冷静なジャッジ。私のお腹はふわふわ……、思わず湯船のなかで自分のお腹の肉をつまむ。
双子が、私以外の裸を見たのははじめてだ。しかも男性、普段見ないものに興味津々で。
湯船からバタバタと出て、体を洗いはじめた東助にまとわりついている。
「ごめんね、双子たちは男の人の裸を見るのがはじめてで」
私が謝ると東助はひょいっと潮音を持ち上げ、お風呂椅子に座った股の間に立たせた。
「子供たち、髪はまだ洗ってないよね?」
「あ、うん」
「では、僭越ながら俺が……じゃあいまからお湯をかけるから、潮音は目を閉じて~」
そう言いながら、背中にぴたりと凪沙がひっついたまま、潮音の頭をがしがし手早く洗っていく。
潮音もその勢いにのせられて、熱いとか目に水が入ったなんて言わず身を任せている。
「つよい、ちからが~」
わはは、なんて潮音が笑う。倒置法で感想を伝えるなんてと、私はおかしくてちょっと笑ってしまった。
凪沙は早く自分も洗ってほしくて、東助から離れない。
泡だらけの潮音をお湯で綺麗にして、位置を凪沙と取り替えた。
細い髪の凪沙の頭は、ゆっくり丁寧に洗っている。
「潮音、俺の背中洗ってくれる?」
潮音は喜んで、ボディソープを三回もプッシュしたタオルで東助の背中をごしごしとはじめた。
東助は凪沙の髪を洗い終わると、自分の頭を差し出して凪沙に洗わせる。容赦なく泡立てる凪沙に文句ひとつ言わず、最後はお礼を言ってくれた。
その様子と、それを眺める私。これが家族団欒なのだと思ったら、涙が出そうになってしまった。
「子供たちの着替えって、脱衣所にセットしてあるやつ?」
「あ、うん。洗濯機の上にバスタオルと一緒になってるの」
「わかった。じゃあ、このままふたりは俺が出しちゃうから、万里花はゆっくり入ってて」
「えっ」
東助は自分と双子揃ってもう一度お湯をまんべんなくかぶり、「じゃ、出よう!」と言って浴室から出ていってしまった。
くもりガラスの向こうで、東助がふたりの体を順番にしっかり拭いてくれている様子が伝わってくる。
「みて~、おしりあおいの」
「しおちゃんも。あかちゃんはあおいんだって。おに~さんは?」
双子が東助に尻を見せろと迫っている。観念した東助は、後ろを向いてお尻を見せたようだ。
「……見えた?」
「しかくいね」
凪沙の返事に、東助が笑っている。
「ねるときは、おしっこしちゃうからこのパンツはくんだよ」
「紙パンツか、いいね」
「ここにおしっこしちゃってもいいんだよ」
してもいいんだけど、トイレに行ける時は自己申告して行ってほしいのが正直な気持ちだ。
そのうちに、三人は脱衣所から出ていった。と思ったら、パンツ一枚の東助だけがすぐに戻ってきた。
手には、薬用入浴剤が握られている。
「わっ、どうしたの」
「コンビニで買ったの、使って。ゆっくりお風呂に浸かって、疲れを取ってね」
突然ちゅっと私にキスをし、手に入浴剤を握らせると風のように浴室から出ていった。
私はヘナヘナと、入浴剤を握ったまま力が抜けてしまった。
お言葉に甘えて、本当に久しぶりにゆっくりとお風呂に入らせてもらった。
いつもはリンスインシャンプーで済ますところを、今日はトリートメントまでしてしまった。
リビングでは、双子は東助にお茶をついでもらい水分補給をしていた。
すでに目がとろとろで、いまにもつむってしまいそうだ。
今日はいろんなことがあったけれど、東助のおかげで怖い思いを夜まで引きずらなくて済んだ。
特に双子は、楽しい気持ちで眠れそうだ。
「……寝室に連れていくの、手伝ってもらってもいい?」
「抱っこしちゃおうか」
「いけそう?」
双子を一緒に抱き上げてくれたので、私は寝室に使っている薄暗くした部屋の扉を開けた。
ダブルサイズのお布団に、双子を下ろす。
「おに~さんもねよう」
もうほぼ目が閉じかけている凪沙が、東助の服を掴む。
双子を真ん中にして、四人で布団に入る。いつもより狭いのが面白いらしく笑っていたが、そのうちに静かになり、とうとう今夜はそのまま眠ってしまった。
ふたつの小さな寝息が重なって聞こえる。
「……寝たみたい。こんなに早く寝ついたのは久しぶりで、びっくりしちゃった」
こそりと、声にする。
「……子供たちは、夜中に起きたりしないの?」
「体力が余ってる時はたまに目を覚ましちゃうんだけど、今日はみんなで踊ったのが良かったみたい」
四人で踊り、みんなでお風呂に入った。昼間は怖い思いをしてしまったが、楽しいことで上塗りされただろう。
全部、東助のおかげだ。
「……起きて、少し話をしない? お酒はないけど、双子には秘密のお高いアイスをご馳走するよ」
「ちょうど、甘いものが食べたかったんだ」
そろり、そろりと布団を脱出するために同時に身を起こす。
双子はぐっすり眠っていて、起きる気配はない。
「凪沙も潮音も……ぐっすり眠る時はこんな顔をしてるんだな」
凪沙の長いまつ毛がぴくっと動く。
「おでこがまる出しで、可愛いよね」
ふふっと笑い合い、そうっと抜け出した。
リビングで東助にスプーンを手渡し、アイスをふたつ見せる。
「バニラと苺、どっちがいい?」
「先に、万里花が好きなのを選んで。俺は残ったほうで」
「じゃあ、半分こにしよ」
なんだか気恥ずかしくなってきたのを隠したくて、わざとふざけたふりをして東助の隣に座る。
アイスをひと口すくって、東助の口元に運ぶ。
「あーん」
東助はぱくっと、アイスを食べた。それからすぐに、お返しとばかりに私にも食べさせてくれた。
久しぶりの、ゆっくりとしたふたりきりの時間。三年前とはたくさんのことが違っているのに、いまだけは昔に戻ったみたい。
私は素直に甘えるようにして、東助に寄りかかった。
「お昼のことも、お風呂のことも、本当にありがとう。東助がいなかったらって想像したら、すごく怖くなっちゃった」
大きな手が私の肩を抱いたと思ったら、ひょいっと膝に横抱きにされてしまった。
心臓は爆発しそうにドキドキしているし、恥ずかしい。だけどそれを上回る嬉しさでいっぱいになる。
ひとりですべてをどうにかしなくちゃと考えながら生活をしていたから、変わらない東助の優しさや、私を甘やかそうとしてくれる行動に胸が高鳴る。
「……今日、偶然だとしても、あの場に居合わせられて良かった。俺はいないことのほうが圧倒的に多いし、すぐにはここに駆けつけられないから……」
東助が私の首元に、ぐりぐりと頭を押しつけてくる。
もし今日、東助が来られない日だったら。結果はどうあれ東助はものすごく後悔して、自分を責めるのだろうと安易に想像ができた。
ただでさえ、東助は毎週末無理をして栃木まで来てくれている。
それは、私が双子に急激な環境変化で戸惑ってほしくない、双子の気持ちを優先したいと言ったからだ。
東助は、それを最優先にしてくれている。
「東助は潮音の『助けて』っていうサインにすぐ気づいてくれたじゃない? 潮音にとってあれはすごく勇気がいったことで、それを東助が察知して凪沙を助けてくれたの……あの子にとって、大きな自信になったと思うんだ」
「潮音は、観察力がすごいよ。きっと、たまたまチャイルドロックが外れていたところに、ベランダの外から音がしたか、声をかけられたんだろう。不思議に思った凪沙が確認しようと網戸を開けてうっかり出てしまって……潮音はそれを見ていて、異変を知らせにきてくれたんだろうな」
潮音が必死だったのが、時間が経つほどにわかる。
ぎゅっと不安げにTシャツの裾を握っていた小さな手を、私は一生忘れない。
「あの時に潮音が私じゃなくて、東助に助けを求めたのは……東助ならきっと助けてくれるって思ったんだね」
その選択に間違いはなかった。
「俺さ、潮音が頼ってくれて嬉しかった。抱きついてくれた時、じわーって涙が出そうになったんだ」
「潮音も、もう東助に人見知りはしないと思う。頼りにしていいんだってわかったはず……だから」
私は東助に抱きつく。手の熱がアイスのカップに伝わって溶かしてしまっているけれど、構わない。
「万里花……?」
「私たち、神奈川に帰ろうって考えてる」
抱きついた東助から、嬉しい気持ちが伝わってくる。東助は私からアイスとスプーンを取り上げて自分のアイスと一緒にテーブルに置いた。
強く東助から抱き締め返されて、決断を口にして良かったと心から思えた。
「本当に、帰ってきてくれる?」
「うん。潮音も大丈夫そうだし、今回あんなことがあったからね。双子たちも、すぐ東助に会えるほうが安心するだろうし……私もだけど」
最後の言葉は勇気がいったけれど、本当の気持ちだ。
「万里花、大好きだよ。俺も万里花と子供たちと、一緒にいたい」
「私も……」
軽い口づけが、次第に深いものに変わっていく。さっきまで食べていた甘いバニラと苺が、ふたりの舌の上で混ざり合う。
「……これ以上すると、歯止めがきかなくなる。一緒に風呂に入った瞬間から、もうだめだったから……」
たしかにいま、私のお尻の下でなにか硬いものが当たっている。
「勃起しないように、風呂ではなるべく万里花を見ないようにしてたんだ」
「ええっ、腹筋見せてきたよね」
「あの時は、頭のなかで仕事のことを考えて、気をまぎらわせてた」
東助はいろんなことを考えて、強い意志をもってどうにか一緒にお風呂に入ってくれたのか。
その気持ちがとても健気で紳士的に思えて、ますます大好きな気持ちを抑えられなくなってきた。
「私も、意識しなかったわけじゃないよ。それにいまだって心臓がドキドキしてる……触って確かめてみて」
「……ああー……万里花が可愛くて、下半身が爆発しそう」
大きな東助の手が、ゆっくり傷つけないようにと遠慮しながら私を背中からまさぐる。
その優しさに身を委ね、じりじりと焦らされながら、東助の理性が焼ききれる瞬間を待った。