書籍詳細
イケメン社長と甘い溺愛生活
あらすじ
自信がないなら俺が変えてやるから
地味な私が専属モデル? カリスマ社長に磨かれ愛されスイートライフ
有川花緒は憧れていた元モデルの池内遼一が社長を務める会社に入社できたものの、不真面目な女性社員のフォローで残業続きの毎日。だが遼一はそんな花緒に目をかけ、新企画の社内モデルに大抜擢! さらに遼一に恋人としても求められ――「俺は惚れた女を大事にしてじっくり楽しむタイプだから」戸惑いながらも、ドキドキの愛され生活が始まり……!?
キャラクター紹介
有川花緒(ありかわ かお)
真面目で、頑張り屋。恋愛は二十歳まで禁止と言われ育ってきて、男性が苦手。
池内遼一(いけうち りょういち)
花緒の勤めるアパレルブランド社長で元モデル。花緒の憧れの人。
試し読み
「手、つないでみようか?」
びっくりして立ち止まると、耳の奥から心臓の音が聞こえてきた。
「誰かに見られてしまっては……」
「まあ、そうだよな。外では気をつけないとな。二人きりの空間限定か」
頭を撫でられた。あまりドキドキさせないでほしい。
「でもさ。ただの友達同士のお出かけじゃないって、意識してくれているか?」
「……あ、あの」
「俺は花緒ともう一歩進んだ関係になってみたい」
真剣な眼差しを向けられると、瞳をそらせなくなってしまった。
口をパクパクさせているだけで、言葉が出てこない。
私だって池内社長に近づいてみたいけれど……。どうして、私なのかどう考えてもわからない。
自然と会話がなくなり歩いていると、こぢんまりとした雑貨屋があった。
「ここ、入ってみるか」
「は、はい」
入店するとおさげヘアーの可愛らしい女性の店員さんが「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた。
店内にはオルゴールの音楽が流れており、陶器の食器やハンドメイドのアクセサリーが売られている。温かみのある空間にほっこりとした。
「このお皿で食事をしたら美味しく食べられそうですね」
「花緒の手料理でもご馳走になろうかな」
「……っ」
言葉に詰まっていると深めのお皿を手に取る。
「これ買おうか」
私が返事をする前に、池内社長はレジに向かって精算をしてしまった。
「さ、帰ろうか」
「は、はい」
車に乗ると池内社長がこちらを向いている。
「……せっかくだから、この食器で夕飯食べたくない?」
「えっ」
それは、私にご飯を作ってもらいたいというサインなのかな。でも、家にお邪魔して作らせてもらうなんて勇気がない。
私の答えを待っている池内社長の眼差しに、負けてしまう。
「も、もしよければ……、お作りしましょうか?」
「いいのか? 大歓迎」
私が断れないことを知っていて……ずるい。
そう思うけれど、私も、もう少し池内社長と一緒にいたかった。
明日は日曜日だし、帰るのが多少遅くなるのは構わない。
「買い物をして帰ろうか」
車が走り出すと、池内社長は嬉しそうにしてくれていた。
池内社長の家に行く途中で、スーパーに寄る。
並んでカートを押してくれる。
横を見ると背が高い池内社長が穏やかな笑みを浮かべていた。こうして二人で歩いていると、若い夫婦だと思われるかな。
もし、恋人になったらこうしていつも温かい空気感に包まれて、きっと、辛いことがあっても、池内社長がプラス思考に変えてくれて頑張ろうと思えるのだろう。
二人きりになれば長い腕で抱きしめてくれて……。
私ったらなにを妄想しているの。妄想を振り払うように頭を横に動かす。
「花緒?」
「は、はい」
「どうかしたか?」
「あ……いえ……。食べたい物のリクエストはありますか?」
「花緒の手作り弁当はいつも美味しそうだよな。和食がいいかな」
「わかりました」
和食といえば煮物かな。
今日購入してくれた陶器のお皿には煮物がぴったりだ。
「大根の煮物と、あとは冷しゃぶのサラダなんてどうですか? 暑い日にはさっぱりした物がいいかなと」
「いいじゃないか」
「池内社長は、自炊はされますか?」
「自分一人だと、フルーツだけとか、ドリンクだけで済ませてしまうことが多い」
酔っ払って池内社長の家にお世話になった時に朝食を用意してくれたのは、レアだったのかな。食材を選んで、レジへ向かうと池内社長がカードで支払いを済ませてくれた。
マンションに到着し、部屋に入る。足を踏み入れることに躊躇していると、背中をそっと押してくれた。
「お、お邪魔します」
「どうぞ」
綺麗に片付けられている玄関を抜けて、リビングに行くとミラクがお出迎えしてくれる。
「ミラク、こんにちは。お邪魔します」
しゃがんで喉を撫でると気持ちよさそうにうっとりとしている。可愛くてたまらない。
ちらっと池内社長を見ると、上着を脱いでネクタイを緩めているところだった。
あまりにも色気があり、ついフリーズしてしまう。
高い鼻、喉仏が美しくて、芸術的。
「花緒、どうかした?」
「い、いやいや、なんでもありません! お台所、お借りします」
慌ててキッチンへと逃げた。
モデルルームかと思うほどの広くて綺麗な台所だ。調理器具がどこにあるのか確認すると、包丁を取り出して野菜を切りはじめた。
「包丁の使い方、上手だな」
すぐ後ろで話しかけられてビックリする。
「あ、ありがとうございます……」
「お皿ここに置いておくから」
味がしみやすいように隠し包丁を入れ、野菜を煮込む。その間に冷しゃぶサラダを作り、冷奴に梅干を刻んで乗せた。お米を素早く研いでセットする。
「もう少しかかるのでゆっくりしていてください」
「ありがとう」
料理が出来上がる間に使った調理器具を洗っていく。
「いい匂いがしてきた」
ふたたび池内社長が様子を見にやってきた。
「あともう少しで終わるので……」
「わかった」
完成した料理を盛りつけて、ダイニングテーブルに並べると、関心したように眺めている。
「短時間でここまでよくできたな?」
「お口に合うといいのですが……。なにか飲み物をお出ししますか?」
「冷蔵庫にビール入っているから出してもらおうかな」
グラスと缶ビールを取り出してテーブルに置いた。
「花緒は飲まないの?」
「……わ、私は遠慮しておきます」
「残念だ」
椅子に腰をかけると、池内社長は手を合わせた。
「いただきます」
池内社長の育ちのよさがわかる。
好みに合いますように……と、祈るような気持ちで見つめた。
「美味い」
「よかったです」
「本当に美味しいよ。お袋の味というか、ほっとする味だ」
「池内社長のお母様と似たような味付け……ですか?」
「ああ、似ていて驚いている。家政婦さんが常にいたけれど、母は子供への手料理は欠かさない人だったんだ」
「そうだったんですね」
池内社長の小さい頃を想像する。きっと、ものすごく可愛かったんだろうなぁ。
こんなに素敵な池内社長を産んでくれたお母様にいつか会ってみたい――と、考えていると、目が合った。
「最近、忙しくてなかなか行けなかったから怒ってるんじゃないかな」
ははっと笑うと、次から次へと料理を口に運んでくれた。本当に気に入ったように食べてくれるから、作ってよかったと安心する。
食事を終えると、私は食器を急いで洗うと、終電がなくなる前に帰らなきゃと思いリビングに戻ってバックを手にした。
「花緒、どこ行くの?」
「そろそろ帰ります。今日は楽しい時間をありがとうございました」
「……もう、二十二時だし泊まって行ったらどう? アルコールを飲んでしまったから送っていけないし」
そうは言われても泊まるなんて無理。
「一度は泊まったことがあるんだから、警戒することない。俺は紳士だぞ?」
口元をクイッと上げて笑っている。池内社長が立ち上がって近づいてくるので、後ずさると背中が壁にくっついてしまった。おそるおそる視線を向けると、前髪を人差し指で避けられる。顔がゆっくりと接近してきて額に唇が押しつけられた。
ドキンと心臓が止まりそうになり、その場で固まってしまう。
「花緒」