書籍詳細
授かり初恋婚~御曹司の蕩けるほどの溺愛で懐妊妻になりました~
あらすじ
「君とお腹の子は、俺が絶対に幸せにする」
溺愛御曹司に翻弄される初めてだらけの身ごもりラブ
両親が経営する店で知り合った穂花と大会社の御曹司・三樹。互いの想いを知り、身分差に戸惑いつつ付き合い始めたけれど、恋愛初心者の穂花には、甘い囁きもキスも熱い一夜も、何もかもが初めてで…。しかし彼に政略結婚の話があることを知り、やはり自分は釣り合わないと別れを決意。そんなとき妊娠が発覚し、三樹から熱烈求婚で愛を誓われて――!?
キャラクター紹介
逢沢穂花(あいざわほのか)
ロマンティックな出会いにあこがれる恋愛初心者。童顔の25歳。
副島三樹(そえじまみつき)
優雅なしぐさ、優しい笑顔で穂花に迫る御曹司。32歳。
試し読み
熱くなった顔を上げることができず胸に埋めたままでいると、副島さんが私の身体を引き寄せ強く抱きしめた。苦しくなるほど抱きしめられて、彼の胸に手を押し当てる。
「そ、副島さん、苦しい……」
「え? あ、悪い。あまりの嬉しさに、ブレーキが利かなくなったみたいだ。あ~よかった」
副島さんは少しだけ身体を離すと、私のおでこに自分のおでこを合わせる。鼻と鼻がぶつかるような距離に、ドキッと心臓が跳ねた。
キ、キスされるかと思った……。
二十五歳になるまで彼氏がいなかったんだから、もちろん誰ともキスしたことがない。さっきエレベーターの中で初めておでこにキスされたけれど、まだその感触が残っていて、思い出すだけで胸がドキドキと鼓動を速くする。
おでこでこんなことになるのに、唇にキスされたらどうなっちゃうの?
なんて。ついさっき気持ちが通じ合ったばかりなのに、私ったらなにを考えてるのよ。キスは当分お預け。今はまだ抱きしめられるだけでいっぱいいっぱいなのだ。
「穂花」
「はい」
名前を呼ばれて、そろっと目だけ上げる。黒みを帯びた褐色の大きな目が、ゆっくりと弧を描く。
あ、あれ? 何気に『はい』なんて返事をしてしまったけれど、副島さん今〝穂花〟って名前を呼ばなかった? 私の聞き間違い?
副島さんの目をじっと見つめ、眉根を寄せて首を傾げる。数秒前までの記憶を辿っていた、そのとき。
「穂花、好きだよ」
今日何度目かの〝好き〟の言葉と共に贈られたのは、とんでもなく甘い唇へのキス。
穂花〝さん〟の敬称がなくなっただけでも呼ばれ慣れていなくて落ち着かないのに、不意打ちのキスに頭の中は大混乱。思考は完全にマヒして、目を大きく開けたまま動けなくなってしまう。
「ごめん。穂花のかわいい顔を目の前にしたら、欲望に駆られて気持ちが抑えられなくなってしまった。その反応は、もしかして初めて? 顔が真っ赤だ」
副島さんは指先で私の頬に触れ、輪郭をゆっくりなぞっていく。その指が唇に到着すると、副島さんはふっと笑って私の唇を弄び始めた。
「穂花の唇、柔らかくて気持ちいい。もう一回いい?」
「え? もう一回って──」
なにがですか? という間もなく、唇が重ねられる。熱くて湿り気のある副島さんの唇は、一瞬触れると少しだけ離れた。
「穂花。目を閉じて」
そう言われ、ハッとして慌てて目を閉じる。さっきのキスのときも開けっぱなしだったかも……なんて余裕でいられたのもここまで。
一度目とは明らかに違う副島さんの貪るようなキスに翻弄されっぱなしで、息継ぎもうまくできない。かろうじて開いた口の隙間から息を吸い込むと、酸素と共になにかが忍び込んできた。それが副島さんの舌だと気づいたときには私の舌はもう絡めとられていて、初めての感触に身体が震える。
彼の舌が口の中で彷徨っているのを全身で感じるのがやっとで、どのくらいの時間キスされていたのかさっぱりわからない。
ようやく唇が離されたときには全身クタクタで、頭が朦朧として目を閉じるとそのまま意識を手放した。
三樹SIDE
無理をさせすぎたか──。
想いが通じ合った愛おしい穂花が、俺の腕の中で眠っている。でもまさか、キスだけで意識を失うとは思ってもみなかった。
小さく呼吸を繰り返す穂花の髪をそっと撫でる。ぐっすり眠っているはずの彼女の身体がほんの少し揺れたかと思うと、俺の身体に甘えるように身を寄せてきた。
堪らず、穂花の華奢な身体を抱きしめる。なんとも言えない満ち足りた気持ちに、安堵のため息が漏れた。
『穂花の唇、柔らかくて気持ちいい。もう一回いい?』
なにをもう一回なのかわからなくて戸惑い、顔を真っ赤に染める穂花にもう一度口づける。
愛おしい──。
三十二年間生きてきて、初めて感じたその気持ちに胸が締めつけられる。
いい大人だから、今まで恋愛をしてこなかったわけじゃない。それなりに大人の付き合いもしてきた。
でもいつもなにかが満たされない、副島製薬の御曹司、次期社長という重圧からくる心の隙間。それを埋めてくれるような女性と出会えることはなかった。
ましてや、愛おしいと思える女性は皆無といっていい。
こんなことを言っては『なにを偉そうに』と、嫌なやつというレッテルを貼られるかもしれないが、本当のことだから致し方ない。
でも今年の春。満開だった桜が散り始めたころにやっとの思いで穂花に会うことができたとき、彼女が俺に向けてくれた包み込むような柔らかな笑顔に、虚しかった心があっという間に満たされたのを今でも忘れない。
このとき俺は心に誓った。絶対に彼女の心を手に入れる──と。
少し時間がかかってしまったことについては不徳の致すところで、焦りから見合いの席に無理やり乱入する形になってしまったことは弁明の余地もない。
でも、どうか許してほしい。それだけ君のことが大切で、今後の俺の人生に必要不可欠な人だからこその行動だったと。
それにしても、いくら気持ちが抑えられなかったとはいえ気早に唇を奪ったのは大人げなかった。穂花も俺と同じ気持ちでいてくれたことは嬉しかったが、嫁候補のことについての誤解はいまだ解けていないような気もする。
心の中のわだかまりと不安を早く取り除けるよう彼女のことを一番に、どんなときでも寄り添い考えていくつもりだ。
「穂花……」
何度呼んでも呼び足りない穂花の名前を耳元で囁き、抱きしめている彼女の背中を撫でる。その瞬間、穂花の身体がピクッと反応を見せた。
優しく撫でたつもりだったが、起こしてしまったようだ。
もそもそと動き出す穂花をさらに強く抱きしめると、「え?」と声を上げ一瞬で目覚めた彼女が目を大きく見開いた。
「な、なんで私、副島さんに抱きしめられているんですか? ここは……」
まだ寝ぼけているのか穂花はそう言って起き上がると、部屋の中を見回す。その姿がまるで親鳥を探す雛のように見えて、プッと笑いがこみ上げた。
「俺のマンション。なに、覚えてない?」
起き上がると穂花の横に座り、少し意地悪く話しかける。すぐに思い出すだろうと思っていたが、案の定数時間前のことを思い出した穂花が顔を赤くして両手で覆い隠した。
キスだけで、その反応なのか! かわいい、かわいすぎるじゃないか……。
日ごろの接客態度や言葉の端々から初心な女性だとはうすうす感じてはいたが、まさかここまでだったとは想定外で、俄然やる気が出てくるのは自分だけだろうか。
なんとなく悪いことをしたような気にもなってきて、穂花から離れるとソファーを立つ。
「なにか飲む? お腹も空いたよね。なにか作るか……」
「え? 今何時……わあ、もう外は真っ暗。私、どのくらい寝てたんでしょうか?」
「う~ん。三時間ぐらい?」
「えぇ!? そんなにも。なんか、すみません」
立ち上がった穂花は表情を曇らせ、そう言って頭を下げた。こちらにしてみれば役得というか、幸せな時間を過ごさせてもらったのだからなにも謝ることはないと思うが、そういうところが彼女らしい。
「そんなに気にすることないのに。なんなら泊まっていく?」
「え?」
「嘘、冗談。穂花のことは大事にしたいからね、性急なことはしない」
「副島さん……」
ホッとしたのか、それとも残念と思ったのか。どっちともとれる表情をした穂花を見て、思わず頬が緩む。
本当のことを言えば、帰したくない。別に変な意味じゃなく、朝までふたりで過ごしたい。健全な大人の男なら、誰もがそう思うんじゃないだろうか。
好きな女性を前にして手を出さずにいるのは、相当な我慢を強いられるだろうが……。
そして、さっきから気になっていることがもうひとつ。
「お互いに好きなことがわかったんだ。今日から付き合いが始まるわけだし、俺のことも三樹って名前で呼んでくれないかな?」
「副島さんを名前で!?」
名前で呼ぶことぐらい造作もないことだと思ったが、どうやら穂花は違ったらしい。瞬きひとつもできないほど驚き、ピタリと動かなくなってしまった。どれだけ純情なんだ、かわいすぎるだろう。
「穂花?」
キッチンから名前を呼ぶ。ハッと我に返った穂花が、恥ずかしそうに顔を赤くしている。
「み、三樹さん……」
今にも消えてしまいそうな声で、穂花が俺の名前を呼ぶ。
女性に名前を呼ばれるのは初めてのことではない。それなのに、雷にでも打たれたように激しい衝撃が身体を貫いた。さっきの状況からみてすぐに名前で呼ぶのは無理だろうと思っていただけに、今度は俺のほうが驚いて金縛りにでもあったように動けなくなってしまった。
「穂花」
かろうじて動いた口で名前を呼ぶと、穂花が照れたように微笑んだ。でもそれも一瞬のことで、すぐに表情が曇る。瞳はどこかあやふやに揺れ出して心配になる。
一体、どうしたというんだ。
不安を感じながらゆっくりと彼女に近づき、わずかに涙がにじむ目を見つめた。
「三樹さん、本当に私でいいんですか? 迷惑にならない?」
まさかの予想すらしていない穂花の発言に、自分でも信じられないくらいの素早さで彼女を引き寄せ抱きしめる。もうそれ以上はなにも言わせないと、唇を塞ぐように口づけた。
最初こそ驚いて目を大きく見開いていた穂花も、俺の気持ちを感じ取ったのかその目を徐々に閉じる。彼女の強張った身体がほぐれたのがわかると、チュッと音を立てて唇を離し、そのまま潤む目を覗き込む。
「なんて言えば信じてくれる?」
「それは……」
「穂花じゃないと意味がない。迷惑どころか、幸せしかない。君以外、欲しくないんだ」
嘘偽りのない本当の想いが届くように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。ずっと不安げに揺れていた穂花の瞳に柔らかい光が灯り、いつもの笑顔が戻った。
その笑顔を絶やすことは、絶対にしないと誓う──。
だからずっとそばにいてほしい。これからふたりで最高な恋をしよう。
そんな気持ちが届くように、そっと唇を重ねた。