書籍詳細
年の差旦那様と極秘授かり婚~イケオジ社長は幼妻と愛娘を過保護に溺愛中~
あらすじ
愛情全開のカリスマ社長と、秘密の子育て!?
「一生、誰より大事にすると誓う」
七香の14歳上の旦那様・須永倫太郎は、大手不動産会社社長ながら大人気コメンテーターの顔も持つ有名人。ある事件をきっかけに2人で極秘結婚を決め、愛娘も授かり幸せに過ごしていた。ところが倫太郎と娘が盗撮され、隠し子騒動に!?七香は倫太郎のために離婚を覚悟するも、彼が捧げる愛情はさらに急加速し、七香を激しすぎる愛で抱き蕩かして…!
キャラクター紹介
須永七香(すながななか)
苦学生として家族を支えていた時に倫太郎に求婚される。照れ屋で芯の強い一家の太陽。
須永倫太郎(すながりんたろう)
眉目秀麗なカリスマ社長だが家族に恵まれず育つ。七香と出逢い娘を授かって幸せを知った。
試し読み
そしてその晩――。
「ただいま戻ったよ」
玄関から倫太郎の声がする。
いつもより三十分も早い帰宅だ。
お風呂に入ろうと、洗面所で野々花と服を脱いでいた七香は飛び上がった。
野々花はといえば、一瞬、うさぎのようにピンと背すじを伸ばしたかと思ったら、パンツ一枚で廊下へと駆け出して行った。
「あっ、ちょっと、のの!」
そんな格好で出迎えられたら、倫太郎も驚くはずだ。
止めようとしたが、七香も同じくパンツ一枚だ。洗面所から飛び出すわけにはいかず、玄関のほうから聞こえる声に耳を澄ませる。
「ぱぱ、おかえりっ、なさいっ!」
「お、のの、きちんとしたご挨拶ができるようになったのか」
「うんっ。のの、ごあいさつできるっ」
「偉い偉い。見ない間にまた大きくなったな」
抱き上げられたのだろう、野々花はきゃっきゃと笑って喜んでいる。
応えて、倫太郎も嬉しそうに笑う。それだけでもう目頭が熱くなってしまって動けずにいると、「残念だな」とわざとらしい呟きが聞こえた。
「七香は喜んで飛んできてくれないのか?」
それはもちろん、飛んでいきたい。
いきたいのはやまやまだが、なにせ裸なのだ。
急いでバスタオルで体の前を隠し、そろり、遠慮がちに廊下を覗き込む。
「お……おかえりなさい……ごめんなさい、こんな格好で」
この時間に帰ってくるとわかっていたら、入浴時間を遅らせたのに。
恥ずかしさと照れで、七香は視線が定まらない。
倫太郎はまだ玄関にいて、野々花を片腕に抱っこしながら満足げに笑った。
「本当にわかってるよな、七香は」
「え?」
「恥ずかしがられると、俺が余計にぐっとくるってこと」
どきっとした瞬間に思わず見つめ合ってしまい、心臓が止まりそうになる。
優しげな瞳。目尻の笑い皺も、口角の上がった唇も、すべて変わっていない。けれどなんとなく痩せた気もして、すこしの懐かしさに胸がきゅうっとする。
「わざとやってるんだろ? ん?」
「ち、違いますっ」
赤くなって洗面所に引っ込みつつ、それでも七香は泣きそうなくらい嬉しかった。
(やっと倫太郎さんに逢えた。うれしい……)
結婚してからというもの、こんなに長く離れていたのは初めてだ。
実はすごく心細かったのだということを、ようやく自覚した気がした。
「のの、ぱぱとおふろはいる!」
興奮しきって、野々花は脱衣所へ駆け戻ってくる。
「ぜーったい、ぱぱとはいるっ」
「そうだな。そうしよう」
「えっ、ちょっと待って。でもわたし、もうここまで脱いじゃったし。ねえのの、ママとじゃだめ?」
「だめ!」
「じゃあ三人で入るか」とは、倫太郎の言葉だ。
「はっ!? う、うそ、冗談よね?」
倫太郎と風呂に入ったことなど、これまで一度もない。
明るいところで肌を見られるのは恥ずかしいからと、ずっと敬遠してきた。
七香はどうにかして倫太郎を止めようとしたが、倫太郎は手際よくスーツを脱ぎ始める。あらわになる肌から思わず目を背けているうちに、浴室に入ってしまった。
野々花が湯船に飛び込むと、残りは七香だけだ。
「ままー、はやくーっ」
「あのね、のの、でもママは」
「はやく、はやくぅ!」
野々花は何度も七香を呼ぶ。
久々の一家団欒に、嬉しさが抑えきれないのだろう。野々花もまた、このときを心待ちにしていたのだ。その気持ちを考えると、拒否できなかった。
「……パ、パパはあっち向いててね?」
こうなったら奥の手だ。
とっておきの濁り湯の入浴剤を一袋引っ張り出し、こそこそと浴室へ。これさえお湯に溶かしてしまえば、浴槽内での目隠しになる。
そう思ったのに。
「だから、わざと煽るなって」
倫太郎は湯船のふちに頬杖をつき、七香をじっと見ていた。
「豊かになったよな、産後、胸もとが」
「やっ、こっち向かないで!」
「その慌てぶり、見せつけてると受け取るけどいいか?」
「よくないぃ」
このところ、テレビの中の清廉潔白なイメージの倫太郎ばかり見ていたから、冗談でも欲を見せられるとどぎまぎしてしまう。そんな状態で入浴剤の袋を破ったら、見事に中身を倫太郎の肩にぶちまけてしまった。
「おゆが、ぎゅうにゅうになるおこな!」
嬉々(きき)として野々花はお湯を混ぜ始めたが、七香は慌てて倫太郎の肩を手で払う。
「ごめんなさいっ。倫太郎さん、肩まで浸かって流してっ」
白い色が残ってしまわなければいいのだけれど。
と、力強い手で二の腕を摑まれ、浴槽の中へと引っ張り込まれた。
「これ以上、焦らすなよ」
低く囁かれたのは、右耳の後ろからだ。
我慢の滲んだ声にぞくっとして、肩が揺れる。
「ずっと逢いたかった。野々花も抱っこしたかったが、七香にも触れたかった」
「り、倫太郎さん……」
「ビデオ通話で顔は見られても、この温もりまでは得られないからな」
確かにその通りだ。
離れていても、顔を見て話すことはできた。それなのに心細かったのは、生身の温かさを感じられなかったから、にほかならない。
腰に腕を回され、甘んじてじっとしていたら、肩に頭をことんと預けられた。
「やっと、帰ってきた実感が湧いた」
野々花が見てる、と言いたかったのだが、野々花はすこしもふたりを気にしていない。背を向けて、おもちゃのコップで遊んでいる。
恐る恐る振り向くと、ちゅ、と唇の先を啄(ついば)まれた。
「ただいま、七香」
「おかえり……倫太郎さん」
野々花を寝かしつけた倫太郎は、二十一時を過ぎて、リビングで待つ七香のもとにやってきた。顔を見るなり押し倒され、戸惑っているうちに声を上げさせられ……。
気づいたときにはソファの上、汗ばんだ肌を寄せ合って横になっていた。
「悪い。久しぶりで……手加減、しきれなかったな」
「……ううん……」
かろうじてかぶりを振りつつ、七香は朦朧としていた。
まだ、ソファが揺れているような錯覚がする。視界がぼんやりと白く、身体の表面の感覚が遠い。しかし内側には、倫太郎が今も留まっているような……。
枕にしている倫太郎の腕にすりっと頬を寄せたら、額に唇を押しあてられた。
「長く留守にして、すまなかった。変わったことはなかったか?」
靄(もや)のかかった頭に、野々花の顔が浮かぶ。
変わったこと。
「受験対策……にね、面接の練習をしてるんだけど、なかなかうまくいかなくて……でも、さっき、倫太郎さんにちゃんと挨拶ができてて、びっくりしちゃった」
ゆっくり言うと、そうか、と応じながら口づけられる。
「ありがとうな、いろいろと、俺の知らないところで頑張ってくれて」
「倫太郎さんこそ、いっぱい……頑張ってたでしょ。ずっと、観てたよ……、っん」
声が漏れてしまったのは、鎖骨にキスをされたからだ。寄り添って横たわっていたはずが、いつの間にか倫太郎は上半身をもたげ、斜め上から七香を見下ろしている。
「そう思うから、俺は踏ん張れたんだ。本当に、感謝してる」
がっしりした肩と首すじ、鎖骨が間接照明に照らされ、芸術品のようにきれいだ。
思わず左の鎖骨に指で触れたら、手首を摑まれ、頭の上でやんわりと捕まえられた。
自然と突き出される格好になった白い膨らみには、鬱血の跡が散っている。
「そういえば今日、白井が訪ねてきただろう」
「あ……うん。スーツを取りに、来てくれたとき?」
「ああ。スーツくらい、本当は俺が取りに来たかったんだが、このところ毎日、あの時間は副社長との会議にあてていて……身動きが取れなかった。ごめんな」
「副社長? 何か重要な話し合いでもあるの?」
尋ねると、倫太郎は考え込むように天井を見た。
「俺が冠番組にかかりきりでも社を纏めていけるよう、いろいろとお願いしてあるんだ。ひいては、俺が引退しても安泰なように、と思ってさ」
「引退って、まだ定年には早いでしょ」
「まあな。それで? 白井から嫌味のひとつやふたつ、言われたんじゃないか?」
「あー、えっと、それは……」
思わず、苦笑いしてしまう。
もちろん嫌味は言われたが、あれは完全に相討ちだ。白井ばかりに非があるわけではないし、七香もそれなりにやり返してしまった。
倫太郎には知られたくない。
「大丈夫。それより、お花、ありがとう。野々花も喜んで、子供部屋に飾ったの」
「……誤魔化すなよ」
疑わしそうに言って左胸の先をちろりと舐められたら、甘ったるい声が漏れてしまった。摑まれた腕を振り払う力もないのに、勝手にくねる体がおかしい。
「も、これ以上、は」
触れられ続けていたら、また火がついてしまう。
厚い胸を押して退けようとしたが、今度は右胸の膨らみに頬を摺り寄せられた。
「素直に言わないと、もう一度啼(な)かせるけど、いいのか?」
「え、あ」
もう一度。嫌ではないから、返答に困る。
「白井に、何を言われた? ちゃんと話してくれ」
本気で心配している顔だ。倫太郎のもとに戻った白井が、何か言ったのかもしれない。でなければ、様子がおかしかったとか。胸もとをくすぐる黒髪に身悶えつつ、すこし考えたものの、七香は「実は」と打ち明けた。
白井に嫌味を言われて、しっかりやり返してしまったことを。
「く、くはっ……七香らしいというか、くくく、くくくく」
途端に突っ伏して肩を揺らす倫太郎に、ごめんなさいと七香は詫びる。
「あとでちゃんと、お詫びの品でも用意するね……」
「いや、気にするな。白井は自業自得だ。野々花はどう見ても俺の子なのに、未だにそんなふうに言うなんて。ああ、しかし、それで、だったんだな。スーツを持って帰ってきた白井が、やけに不機嫌だったのは」
納得した、という口調だった。
真上から鼻先をちょんとくっつけ、倫太郎はしみじみ言う。
「七香は強いな」
「……そりゃ、母ですから」
「それだけじゃない。出逢った頃から、七香は強かった。タフで、肝が据わってて、人生を悟っているようなところが、十四も年下には見えなくて」
そんなふうに思っていたのか。初耳だ。
見上げた瞳は瞼の向こうにあって、今ではないどこかを見ているかのよう。
「そんな七香だから、甘えてほしいと思った」
「え……」
「俺の前では、強がらなくていい。弱音だって、ちゃんと聞かせてくれ。と、言ったら余計に強がらせるだろうから、できれば言わずに瓦解(がかい)させてやりたかったんだけどな」
なかなか動物園のときのようにはいかないな、という呟きに、離れていてもどれだけ想われていたのかを実感して、動けなくなる。
「留守を預かってくれてありがとう、俺の奥さん」
囁いた唇が近づいてくるだけで、意識が飛びそうだった。
触れ合う寸前で瞼をぎゅっと閉じると、くすっと笑われる。
「素直に言わないともう一度抱くって話、撤回していいか?」
返事をするより先に、唇の先に柔らかいものがそっとあたった。
ゆっくりと、左右に擦り付けられる。羽のようなくすぐったさに、顎が震える。
「いい、よな」
上唇をチュ、と啄まれたら、つま先が空を掻いていた。触れ合っているのは唇なのに、体の奥のほうがもっと落ち着かない。
縋るもの欲しさに倫太郎の首を抱き寄せると、耐えきれない様子で唇を割られた。
膝の間に入り込んでくる腰は強気で、朝までこうしていたいと密かに思った。