書籍詳細
溺甘パパな幼馴染みドクターは、婚約破棄を選んで秘密のママになった私を執着愛で逃がさない
- 【初回分限定‼】書き下ろしSSペーパー封入
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- 【書泉限定‼】有償アクリルコースター付き特別版
- 【電子書店限定‼】巻末に書き下ろしSS収録
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あらすじ
「俺の重たい愛を教え込んでやる」別れたはずが、S系エリート医師の熱烈愛に赤ちゃんごと捕まって…!創刊5周年マーマレード文庫初回分限定SSペーパー付き!
天涯孤独のちづるは、大病院の御曹司・大我に世話を焼かれつつ、身分の違いから恋心を隠してきた。しかしちづるの縁談を発端に、彼も抑えていた激愛を溢れさせ…!?婚約し、妊娠も発覚して幸せの中、ある事情で大我と別れ姿を消すことに。ところが彼は執愛でちづるを捜し出し、「俺は諦めない。おまえを嫁にする」と熱情&子どもへの愛を注いできて…!
キャラクター紹介
雛木ちづる(ひなきちづる)
幼い頃に母が失踪するも、強く健気に生きてきた。大我への恋心は隠していたものの、ある夜をきっかけに…!?
斯波大我(しばたいが)
ちづるの年上の幼馴染みで、医師家系のエリート。一見クールだが、ずっとちづるに過保護な独占欲を向けてきた。
試し読み
日も暮れた頃、アパートに大我くんが迎えに来た。病院からの帰りにそのまま寄ったようだった。
「荷物、先に積むぞ」
「うん」
私の腕の中で眠る守の顔を一瞥し、六畳間に用意してあったオムツや布団などをどんどん車にのせていく。コートを着て、守をおくるみに包み家を出た。
車の後部座席にはすでに新生児用のチャイルドシートが取りつけてあった。この子を乗せるのを生まれる前から想定していたのだろう。
「足りないものは言ってくれ。俺が買い足す」
「うん。ありがとう」
守の隣の席に座り、運転席の大我くんに答える。駅前のマンションは、カルチャースクールのある方とは逆サイドだが、車なら五分ほどの距離だ。
「昼と夜は配食サービスを頼んである。当面はそれでどうにかなるだろ」
「助かるよ。大我くんは?」
「仕事が不定期だから、俺の分は頼んでない。自分で調達できるから問題ない」
産後は炊事なども最低限がいいと言われている。私ひとりならともかく、大我くんと住むのに食事を用意してあげられないのは申し訳ないと思っていた。今は大我くんの言葉に甘えた方がよさそうだ。
「俺が作ってやれれば一番いいけどな。まだ研修医の身、まあやることは多い」
「頼りになるって評判だよ」
「一日でも早く外科の戦力になれるよう、やれることは全部やる。そうそう、夜勤もあるし出勤も退勤も日によって違う。食事以外も、俺に世話を焼くなよ」
一度は外科医としてスタートしておきながら、あらためて外科の後期専門研修医になった大我くん。私のこともあるし、色眼鏡で見られることもあるのではないだろうか。
それでも彼はまったく平気そうだ。私の前だからなのか、そもそもメンタルとフィジカルの強度が高いからなのか。
「病院、母子同室だったから感じるんだけど、この子結構夜中に起きるの。一時間おきとかで。昼間の方が寝てるくらいで」
「生後間もない頃はまだリズムが整ってないからな」
「だから、忙しい大我くんの睡眠を邪魔しないかちょっと心配なんだ」
すると、運転席で大我くんが噴き出す声が聞こえた。
「え? 何?」
「いや、ちづるは守と一緒に俺と同じ部屋で眠ってくれるつもりだったんだな、と」
その言葉に私は頬がかあっと熱くなるのを感じた。
本当だ。同居というから、以前半同棲状態で暮らしていた頃を思い出し、当たり前のように同室で眠るつもりでいたのだ。
「あ、あの、勘違い! それは!」
「安心しろ。おまえと守用に寝室を作ってある。あと守が夜寝ないなら、よく眠る昼間に一緒に寝ておけよ」
「はい……」
先走った勘違いに恥ずかしくなりながら、私は唇を噛み締めうつむいていた。思い込みとは恐ろしい。
大我くんの住むマンションは、外観と立地こそ知っていたけれど、中に入るのは初めてだった。
十階の角部屋のドアを開けると、新しい住居の木の香りがする。リビングはコンパクトだけれどとても綺麗で、大きな窓から駅とこの町の中心部が見えた。
「まだ、新しいのね」
「去年の新築だったかな。賃貸で駅前だから、ファミリー向けというより独身者か夫婦世帯向けだろうな。間取りも1LDKか2LDKだ」
この部屋は2LDKのようだ。それは大我くんがひとりで住むために選んだのではないとすぐにわかる。
地方都市とはいえ、県内で二番目に大きな町。この規模の駅前マンションなら、それなりの家賃がかかるのではないだろうかと心配になってしまった。
「守が部屋を欲しがる年齢になったり、子どもが増えたら引っ越そう」
「ちょ、待って! 一時的な同居でしょ!」
慌てた私を、大我くんは面白そうに眺めて答えた。
「いずれは俺の言う通りになる」
「傲慢な言い方……」
ぼそっと言った文句を無視して、大我くんはリビングに面した部屋のドアを開けた。
中はカーペット敷きの部屋で厚いマットレスが二組とシングルの布団が一組。大我くんが運んでくれた赤ちゃん用の布団を合わせると、私と守の寝床が出来上がった。
「リビングにも長座布団やブランケットを用意してある。どこでも好きに使ってくれ」
「何から何までありがとう、大我くん」
私をこの家に招きたいと言ったのは今朝だ。その前から靖世さんに相談し、ひとりでこれらの準備をしてくれていたのだ。
腕の中でまだ眠っている守を見つめ、他にどうお礼をしたらいいかわからない。
大我くんがふっと笑った。
「陣痛の前に話したこと、覚えてるか?」
「うん……」
「ちづるは俺が好きなんだろう?」
その傲慢なまでの表情に、思わず苦笑いしてしまう。
「うん、好き。大好きだよ」
「じゃあ、今のところはそれで満足だ。ちづるにはまだ俺と一緒になれない理由があるんだろうが、そんなのは知らない。俺はおまえがここにいる間に、じっくりおまえを口説くよ」
「本当に、大我くんはいつも自信満々だなあ」
すると、大我くんが私の身体をぐいと腕で引き寄せた。守を抱いているので、腕で突っ張れないままに彼の胸の中に飛び込んでしまう。
「大我くん」
「おまえがこの家に来てくれてよかった。久しぶりに一緒に暮らせる。今、噛み締めてんだよ」
髪にかかる吐息、優しい声音。抗いたくなくて、私はその胸に頬を寄せ目を閉じた。
しかし、腕の中で守が「ふああ」と声をあげたのはちょうどそのタイミング。
「あ、そろそろ授乳かも」
「おう、守にメシをやってくれ」
「大我くんもお腹空いていない? そこのテーブルに置いたの、靖世さんが作ってくれたお赤飯と煮物と豚の角煮なの。授乳が終わったら用意するから食べよう」
「俺が準備するから、ちづるは守に授乳だ」
大我くんは私から離れ、ダイニングテーブルの包みを開け始めた。
同居初日、私たちは食卓を囲み、別々の寝室で休んだ。夜間何度も授乳で起きたけれど、隣の部屋に大我くんがいるのはほっと心が温まるような安心感だった。
こうして私たちの同居生活は始まった。
大我くんとの暮らしに期待とも不安ともつかない感情があったのは最初だけ。私は初めての育児に忙殺される日々となった。
守はよく泣き、あまり寝ない子のようだった。他の子と比べたわけではないから、あくまで育児書やネットの情報と比べてだけど、睡眠が短く、授乳も頻回だった。
まとめてたっぷり寝てくれる日もあれば、泣いては起きるの繰り返しの日もある。当然、昼夜も問わない。
私は悪露が多く、胸は張って痛く、まだ体調が思わしくない。寝ない我が子をけだるい身体で必死にあやし続けた。
睡眠を取りたいけれど、なかなか取れない。昼夜問わず気絶するように眠ってしまい、守の泣き声で目覚めるのが毎日だった。ふと目を離したら死んでしまうのではないかと小さな命を見つめる私は、緊張感と疲労でいっぱいだった。
幸いだったのは、大我くんと靖世さんの存在だった。大我くんは家事をほぼ完璧にこなしてくれ、守が寝ないときは夜中でも部屋を訪れ、抱っこを代わってくれた。哺乳瓶を受け付けない守に根気強くミルクを与えようと苦心し、私を少しでも休ませようとしてくれる。
彼が手配した配食のおかげで、食事は充分にとれているため、睡眠不足ではあるものの栄養は足りている。
靖世さんは、日中たまに煮物や和菓子を手に様子を見に来てくれる。私と同じく育児経験はないので、最初の頃はふたりそろっててんやわんやだった。
オムツひとつ換えるにも、ふたりで角度やテープの締め具合を確認するので、それはそれでちょっと楽しかった。そして、教室の奥様たちの話などを聞かせてくれ、私の話し相手になってくれた。
ふたりがいなければ、私はこの大変な時期を乗り越えられなかったと思う。育児は想像以上に苦労の連続で、孤独で、途方もないものだったから。
守が生まれて三週間、十二月に入った町はいよいよ冬が本格化してきた。
窓から見える景色は冬枯れ。根雪にはならないものの、雪が降る日が増えた。そうでない日は芯から冷えるような寒さだ。
やはり東京とは寒さの質が違うと感じながらも、住居自体に断熱材がしっかり使われているせいか、室内は暖かく、私が厳しい冬を感じるのはベランダで外の風を浴びるときだけだった。
「寒いから中に入ったら?」
靖世さんがベランダに顔を出す。私は「はあい」と言いながら、なんとなくベランダにいたかった。今日は昼過ぎから少し晴れている。雪が降るかどうかという時期は曇天が多いので、貴重な晴れ間に感じられた。
守は散々ぐずって先ほど眠りについた。私もこの隙に休んでおいた方がいいと思うけれど、冷たい風が心地よくて、澄んだ空をいつまでも眺めていたいと思った。
いつだったか、母と散歩した記憶とだぶる。母はいつもお酒を飲んでいたし、二日酔いや男の人と別れたあとは機嫌が悪かった。
だけど、たまにこんな晴れた日に散歩に連れ出してくれた。住宅街を延々歩いて、疲れたらバスに乗って、ある私鉄駅に向かう。駅前デッキで私に電車を眺めさせ、本人は喫煙所じゃないところで勝手にタバコを一服していた。
なぜあの駅だったのかわからない。徒歩で行くには結構遠く、実際にあの路線を使ったこともない。でも、あの駅から眺める空と夕日は鮮烈に美しかった。
『帰りに大判焼き買って帰ろっかぁ』
母の間延びした声が耳の奥に残っている気がする。不意に古い記憶を思い出すのは私も母親になったからだろうか。
「はい、ちづるさん」
靖世さんが温かな玄米茶を手にベランダにやってきた。私は湯呑を受け取り、ふうふうと息を吹きかける。
「いい天気ね」
「こんなに平和でいいのかなって感じます」
「あら、育児は日々戦争じゃない。たまには平和でもいいでしょう」
育児は確かに戦争なのだけれど、総じて見て、今まで生きてきた中で一番穏やかな時間を過ごしている気もするのだ。世界から逸脱したような変な感覚がする。
「なんでしょうね。しみじみ思います。大事な人たちがいて、守るべき存在がいて、青い空の下でお茶を飲んでいる。私、幸せなんだって」
祖母の言葉がよぎる。私の幸せを望んで亡くなった祖母に、私は何度も『今が一番幸せ』だと心で呼びかけてきた。だけど、『今が一番幸せ』は、どんどん更新されていく。私はまだ幸せを知れるのだと思うと、心が柔らかく緩み、ほっこり温かくなる。
「それ、斯波さんに直接言ってあげたらいいわよ。一緒にいられて幸せって」
靖世さんが微笑み、私も笑う。
「もちろん、彼の存在もですが、靖世さんがいてくれるのも幸せですよ」
「嬉しいことを言ってくれるのね。ありがとう」
玄関の開く音が聞こえた。大我くんが夜勤明けで帰宅してきたのだ。本当はもう少し早く帰れる予定だったけれど、緊急でミーティングが入ったと連絡があった。
「大我くん、おかえりなさい」
長座布団で寝ている守を起こさないように、彼はベランダにやってくる。私と靖世さんが並んでお茶を飲んでいる光景に目を細めた。
「寒いぞ」
「斯波さん、私はもう帰りますよ。お邪魔しました」
「いえ、岩名さん、いつもありがとうございます」
念のため、靖世さんにはこの部屋の鍵を預けてあるそうだ。彼が戻れないとき、私と守に何かあったときのためらしい。
靖世さんを見送ったあとは、さすがに冷えてきたので、ベランダから撤収した。
「よく寝てるな」
大我くんは長座布団で眠る守の横に胡坐(あぐら)をかき、寝顔を見つめている。
「うん。午前中はぐずってたんだけど。疲れたのかな」
大我くんはスマホを取り出し、ソファにいる私に向かって画面を見せてくる。画面には赤い屋根と大きな鳥居の神社が映っていた。
「このあたりでお宮参りに行くならどこか聞いてきた」
「お宮参り……考えてもみなかった」
無事に産むことばかり考えていて、そのあとの行事をほとんど考えていなかった。母親になったのに、こういうところは子どものままだと焦ってしまう。子どもの通過儀礼を私はいくつ知っているだろう。
「寒い時期だしな。無理してやることもないだろ」
「ううん、やりたい。教えてくれてありがとう」
この地域のテレビのCMで見かけたことがある大きな神社だ。申し込みや、着せる服、玉串料はあとでネットで調べてみよう。
ちらりと彼の顔を窺う。
「一緒にお祝いしてくれるの?」
「やるなら、参加する。車を出した方がいいだろうしな」
当然とばかりに言われた。私だって、子どもの行事に彼を参加させないなんて、もう考えられない。
「あと、これ」
大我くんは鞄から手帳サイズの封筒を取り出した。中から出てきたのは小さなフォトブックだ。
開くと、生まれてから今までの守の写真がずらりと並んでいる。私のスマホで撮ったものではなく大我くんが撮ったものだ。中には私が守を抱いている姿も写っている。
「作ってくれたんだ……」
「新生児期は一瞬だ。せっかく写真を撮ったのに、形にしないのはもったいないと思ったんだよ」
「こんなに撮ってたなんて知らなかったなあ」
笑った私を照れくさそうに見て、大我くんはうなずいた。
「まあ、俺も親になったってことだろ。守は可愛い」
少々ひねくれたところのある大我くんが、守に対しては自然に愛着を言葉にする。赤ちゃんという存在はすごい。彼が我が子に深い愛情を持っているのが嬉しかった。
「大我くん、私幸せだよ」
靖世さんに直接言ってあげてとは言われていたけれど、本当にそのままの言葉で口から飛び出してしまった。
「何を今更」
はにかんで笑う大我くんを愛しく思う。
話すなら今だ。三週間に及ぶ同居生活も私が床上げを迎えれば終わる約束。だけど、大我くんをこの家に残し、私と守が離れていいとはもう思えない。
私はソファに腰かけ直して、大我くんを見つめた。
「ちゃんと話しておきたい。これからのこと」
大我くんが静かにうなずいた。彼もまた、私たちの今後をはっきりさせたいと思っているだろう。
「あらためて言わせてほしい。勝手にあなたを置いて、東京からいなくなったこと、ごめんなさい」
「親父の頼みだったんだろ」
「私と母は、和之おじさんには本当にお世話になった。だから、和之おじさんの頼みを断れなかった。……あのね、房江おばさんとの関係を見つめ直してほしいんだ」
房江おばさんの名前に、大我くんが眉を上げる。それから、ふうと嘆息した。
「母親がちづるを一方的に嫌っている限りは無理だ」
「私、守を授かったときに思ったの。これほど大事な存在を失えない。この子に嫌われたら、どれほど悲しくつらいだろうって」
親になっていっそう思う。私がこの子に抱く思いと同じものを、きっと房江おばさんは大我くんに感じている。そして、同じく親になった大我くんにその気持ちがまるっきりわからないとは思えないのだ。
「房江おばさんは大我くんの幸せを願ってる。それは間違いないと思う。大我くんに拒絶されてつらいはずだし、今だってあなたを捜してると思う。お願い。和之おじさんと房江おばさんと対話を持ち続けて。このまま断絶してしまわないで」
それは、元の家族を失った私の精一杯の願いだ。私は大我くんと家族になりたい。だからこそ、彼に家族を諦めてほしくないのだ。
「それが一緒に生きていく条件か?」
私は深くうなずいた。それから顔を上げ、まっすぐに彼を見つめた。
「私も頑張る。私たちを認めてもらえるように、守を精一杯育てるし、対話の機会を持てるなら逃げずに話をしたい」
大我くんはしばらく黙っていた。それから、わかったというようにしっかりとうなずいた。
「近いうちに父親に連絡を取ってみる」
「ありがとう! ……それとね、これは一番大事な告白になるんだけど、私も自分の行動に責任を持ちたいと思ってるんだ」
「どういうことだ?」
「結果として、私は大我くんの人生を歪めてしまった。ご両親から引き離し、病院の跡継ぎの座も全部捨てさせてしまった。その責任を取りたい」
ソファから下り、大我くんの横に膝をつく。その手を両手で取り、固く握った。
「私が大我くんを幸せにする。家族として、どんなことからも守るし、安らげる場所であり続ける。あなたの一生の幸福を約束するし、保証する」
もう逃げない。この愛は誰にも消せないし、捨てることもできないと痛感した。
半年前、去ることしかできなかった自信のない私はもういないのだ。大我くんを守り、一生隣にいる。それこそが一番の望みだ。もうぶれたり迷ったりしない。
「私と一生一緒にいてください!」
やっと宣言できた。
愛の結晶を授かり、産み落とし、たくさんの優しさに触れ、ようやく私に向かい合う勇気が戻ってきた。
「大きく出たな」
大我くんがにやっと笑った。
「この町に来たことも、親とのこともすべて俺の選択だ。そして、俺はどんな環境でも必ず成果を残せると自負がある。だけど、ちづるが責任を持って俺を幸せにしてくれるっていうなら、喜んで受けて立つ」
その傲岸なまでの笑顔は強気な彼らしくて、懐かしさと愛しさとで涙がにじんできた。
顔をくしゃくしゃに歪める私を、大我くんが抱き寄せた。
「いいか? もう離れるな。おまえがいなくなったら、俺は不幸だ。俺を幸せにしたいなら、隣でずっと笑ってろ。守と一緒にな」
「うん、絶対に離れないよ」
答えると、顎を持ち上げられた。
重なった唇。久しぶりのキスはひたすらに優しい。
涙が止まらないから塩辛いキスになってしまうけれど、私も彼も構うことなく何度も唇を重ね合わせた。
「大我くん、愛してる」
「馬鹿、俺もだ」
何度も髪と背を撫でてくれる彼の温かな手に甘えながら、守が起きるまでのわずかな間、私たちは寄り添って過ごした。
もう離れない。私が大我くんを幸せにするのだから。