書籍詳細
御曹司の極蜜危険な執着に捕まったら、迸る愛のかぎりを注がれています
あらすじ
「俺のことだけ考えて」絢爛一夜から加速する、次期社長の独占欲
傷心旅行の最中、トラブルに見舞われた早紀子。青ざめる彼女を救ったのは、直樹という美青年だった。極道の幹部である父と名家の令嬢である母を持つ直樹は、事情により父親の下で働いていた。自分を好奇の目で見ることなく、まっすぐ向き合う彼女に、直樹は強く惹かれていく。早紀子も、彼に甘く癒やされながらも熱く掻き抱かれると、愛欲に抗えず…。
キャラクター紹介
高良早紀子(たからさきこ)
控え目な優等生タイプ。結婚間近と思っていた彼に捨てられてしまうが、一大決心をして出た旅で直樹に出会う。
小林直樹(こばやしなおき)
極道の父、大企業の創業者一族の母のもとに生まれる。早紀子のおかげで愛を知り、自身の生き方も見つめ直していく。
試し読み
メインロビーに入れば見事な装花に迎えられ、どこからともなくアロマの香りが漂う。インテリアは重厚でありながら麗しく、世界中のセレブたちに選ばれるのもよくわかる。
「俺の部屋は最上階なんだ」
直樹が早紀子の腰に手を回した。自然でエレガントな動作は、彼が女性の扱いに慣れていることを教えてくれる。
ただ直樹の真意は、わからなかった。
身体を支えてくれているだけなのか、関係を先へ進めるという合図なのか――。
早とちりはしたくないが、肌は火照り、頬は染まる。
直樹に動揺が伝わるのを心配しながら、早紀子はエレベーターに乗った。音もなくかごが上昇し、彼女の緊張も高まっていく。
扉が開くと広い廊下が真っ直ぐに続いていた。上品に照らされた空間は、降り立った時から特別感を漂わせている。
「さぁ、どうぞ入って」
直樹が部屋の扉を開け、早紀子は静かに足を踏み入れる。
桁外れの広さ、とはこのことだ。寝室や書斎、ドレッサールームはふたつあり、浴室にはジェットバスのほかに、蒸し風呂まで備え付けられている。
国土の狭いモナコだからこそ、広い客室は凝縮された贅沢の証。最高の癒やしを提供するために、温浴施設も充実しているのだろう。
「私の暮らすアパートの、三倍はあるわ」
早紀子がつぶやくと、直樹がさっとカーテンを開いた。
窓の外は絶好のロケーションで、その迫力ある眺めは、モナコの夜景を独り占めしたかのようだ。
ダイナミックな光景に息をのむと、直樹が早紀子を見て微笑んでいる。
「この景色を、見せたかったんだ」
「なんて、美しい、の」
早紀子は窓に近づき、そっとガラスに指先を添えた。この素晴らしい光景を目にしていると、自分の存在の小ささを思い知らされる。
日本を出発するときに、早紀子は生まれ変わると誓った。
モナコに行きさえすれば何かがあると思い込んでいたけれど、それがいかに楽観的だったか今ならわかる。
もし直樹との出会いがなければ、早紀子は失意のまま日本に戻っただろう。
直樹が見せてくれた、想像を絶する世界。それは早紀子のこれまでの価値観を壊し、視野を大きく広げてくれた。
失恋の悲しみなど一時的なものに過ぎない。この世はこんなにも広く、可能性に満ちているのだから。
たとえ明日、日本に戻っても、早紀子は以前の彼女とは違う。
直樹が最初に言った、絶対に後悔はさせないという言葉。あれは紛う方なき真実だった。彼は約束を守ってくれたのだ。
早紀子は振り返り、直樹を見つめて言った。
「ありがとう、直樹。私、変われたと思う。モナコに来てよかった」
感謝を込めて笑いかけるが、直樹はなぜか早紀子から目をそらす。彼女と距離を取るかのように、電話の置いてあるデスクへ向かった。
「直樹?」
早紀子が呼びかけると、彼はそれには答えずメニュー表を開いた。
「何か飲む? ルームサービスでも取ろうか?」
気を遣ってくれるのはありがたいが、急によそよそしい気がして、早紀子の胸がきゅっと締めつけられる。
「何も、いらないわ。直樹とふたりでいられるだけで」
早紀子の答えを聞いて、直樹は眉間にしわを寄せた。精神統一するかのように、ゆっくりと目を閉じる。
「そんな風に言うなよ。勘違いする」
「勘違い? どういうこと?」
突然の変化に戸惑いながら、早紀子は直樹に近づく。彼は目を開き、彼女を見つめ、困った笑顔を浮かべる。
「そろそろ、帰ったほうがいい」
部屋へ誘っておいて、帰宅を促す。直樹の気持ちがわからなくて、早紀子はためらいがちに尋ねた。
「……まだ夜は、終わってないんでしょう?」
直樹は困惑した様子で、項垂れてしまう。
「ごめん。俺が軽率だった」
「どうして? この部屋からの夜景を、見せたかっただけでしょう?」
早紀子が質問するたび、直樹は返答に迷っているようだった。何かを口にしようとして、別の言葉を選んでいるみたいに見える。
「そう、なんだ。すごく気に入ってて、仕事でもプライベートでも、モナコに来るたび、この部屋に泊まってる」
「だったら、何が問題なの?」
直樹はついに早紀子に背を向けてしまった。腕を組み、苦悩するように答える。
「そこから先を、考えてなかった。部屋でふたりきりは、よくない」
早紀子が勝手に想像していた甘い官能を、直樹はほんの少しも想定していなかった。彼の純粋さが可愛らしくて、クスッと笑ってしまう。
「なぜ、笑うんだ?」
直樹が振り返って、早紀子をなじる。彼女はまだ笑いながら、彼の手を取った。
「俺の部屋で飲み直そうなんて言われたら、普通はそういうこと考えるわ」
「だから、謝ってる。本当にそんなつもりじゃなかった」
弱り切った直樹を見ていると、彼の優しさが伝わってくる。早紀子は彼の手を離し、悪戯心で尋ねた。
「今、も?」
直樹はそっと手を伸ばし、早紀子の頭をくしゃっと撫でる。
「正直に言えば、昼間のレストランでも、ドキッとしたんだ。直樹の望むことをしたいなんて、言うから」
「ぇ、ぁ、ごめん、なさい」
無自覚だったのは、早紀子のほうだ。自分の大胆な発言に今更ながら、赤面してしまう。
恥ずかしくて顔も上げられなくなった早紀子を見て、直樹は彼女の頭から手を離した。受話器を取り上げ、どこかに電話をするようだ。
「わかってるよ、俺は早紀子の望まないことはしない」
直樹が数字のボタンを押しはじめた。車の手配をするつもりらしい。
「今夜は帰るといい。明日、空港に見送りに行くから」
このままサヨナラで、いいの?
早紀子は直樹に夢を見させてもらった。人生観が変わるほどの出来事を、体験させてもらった。なのに彼女は何も返していない。
「待って」
早紀子は直樹から受話器を奪い、カチャッと電話を切ってしまった。
「私まだ、今日のお礼をしてないわ」
直樹は当惑しているのか、何度かまばたきをして言った。
「俺は早紀子が、話を聞こうとしてくれただけで、満足してるよ」
「それじゃ私が納得できないの」
……本当は、少し違う。
直樹と離れたくない。少しでも長く一緒にいたかった。
けれどそんな風には言えなかった。ほんの数時間共に過ごしただけで、心が揺れ動いているなんて、言えるはずがない。
早紀子は失恋の痛手を癒やすために、ここまで来た。
それはつまり、史郎への想いを引き摺っていたからで、直樹に会って急に気持ちが変わった自分に混乱してもいた。
ただ直樹の存在に、安らぎを感じたのは間違いない。傷ついていたからこそ、彼の温かく包み込むような優しさに慰められたのだ。
でもその感情が愛だという、確信があるわけではなかった。ふたりに与えられた時間は、あまりにも短すぎるから。
ここが日本なら、早紀子はまた今度と言えただろう。来週の約束だってできただろう。本当ならもっと、ゆっくり距離を縮められたのだ。
しかし早紀子と直樹は、住んでいる国さえ違う。
もう二度と会えないのだと思うと、大胆にもなれる。いや、なるしかないのだ。このまま別れるのは、あまりにも寂しすぎるから。
自分でもらしくないとわかっている。会ったばかりの男性、それも恋人でもない人と一夜を共にするなんて、普段なら考えられない。
それでも直樹との思い出が欲しかった。この身体に刻みつけておけば、今日のこの日を忘れないでいられる。何度だって思い返し、幸せに浸れるはずだ。
「自分の言ってること、わかってる?」
直樹は幼い子どもに尋ねるような言い方をした。どこか諭すような響きは、早紀子に思いとどまらせようとしているのかもしれない。
「部屋に誘ったのは、直樹だわ」
「それは誤解で」
「本当に?」
早紀子の質問に、直樹は答えなかった。彼女の側から離れ、ソファに腰掛ける。
「こんな会話はやめよう。俺は早紀子が大事だし、先を見据えた付き合い方をしたいんだ」
直樹の言葉に、早紀子は驚く。彼が将来のことを考えているとは、露ほども思わなかったのだ。
「嬉しいけど、難しいと思うわ」
「わかってる。それでも俺はやり遂げたいんだ」
強い決心が感じられるのに、迎えに行くとは言わない。直樹は早紀子を束縛するつもりはないのだろう。
どれほど困難な道か、直樹はよく知っているのだ。
それでも直樹は決めた。早紀子が彼にその決意をさせたのだ。
「だったら、約束しましょう?」
早紀子は精一杯の提案をするが、直樹は首を左右に振る。
「待っててくれなんて、言えないよ」
「そんなの、ズルいわ。未来があるなら、待ちたい」
「ダメだ。俺の意志では、どうにもならないことがたくさんある。早紀子の人生を縛りたくないんだ」
直樹の優しさだとわかっていても、早紀子には納得できなかった。約束しないことが彼の誠意なのだろうが、それで彼女の心が自由でいられるわけではない。
「じゃあ、この夢に結末をつけて」
早紀子は直樹の隣に腰掛け、彼の腕に手を添えて続ける。
「一夜の恋でいいの。幸せな思い出にできるなら」
「俺は」
その後の言葉は続かなかった。直樹は葛藤しているらしく、早紀子と顔を合わせることもできない。
「思い出にしたくないんだ」
やっと絞り出した声は、追い詰められた獣の咆哮みたいだった。早紀子も気持ちは同じだが、希望を残したまま別れることこそ残酷だ。
「私は区切りが欲しい。でないと直樹を、待ち続けてしまうわ」
早紀子がつぶやくと、直樹が出し抜けに彼女を抱きすくめた。
「そんなこと言うなよ。早紀子を手放せなくなるだろ」
直樹のぬくもりが伝わってきて、胸が熱くなる。彼の腕の力強さがそのまま、早紀子への想いの強さにも感じられる。
「でも明日になったら、帰るしかないわ」
「嫌だ……っ」
ようやく直樹の本心が聞けた気がした。彼は熱っぽく潤んだ瞳で、早紀子を焦がすほどにじっと見つめる。
「本当は今すぐ早紀子が欲しい」
直樹が頬に触れた。早紀子への想いが溢れ出して制御できないのか、彼の指先がわずかに震えている。
「傷心の君につけ込んでも、無責任の誹りを受けても構わない。そんな最低なことさえ考えてる」
早紀子を抱く腕に一層力が込められ、胸が苦しくなる。
これほどの愛情を抑え込んでいたのかと思うと、直樹の精神力がいかに強靱か思い知らされるようだった。
「私はもう傷ついてなんてないわ。直樹が彼を忘れさせてくれたのよ。それだけで十分責任を取ってる」
早紀子は直樹の身体に腕を回し、誘うように目を閉じた。
しかし、唇に触れたのは直樹の指先だった。目を開くと彼は切ない顔でささやく。
「やっぱりひとつだけ、約束してもいいかな?」
「いい、けど……」
「唇にキスをするのは、再会したときにしよう。俺は早紀子の唇を奪うまで、絶対に死ねないから」
いつになるかわからない。でもその日を夢見て、生きていきたい。
直樹のひたむきな決心が感じられて、早紀子は微笑む。
「とても、素敵な約束だわ」
ふいに直樹が顔を近づけ、頬に口づけをした。首筋から鎖骨にかけて、舌先でじっくりと愛撫される。
「っ、ぁ」
甘い痺れが全身を駆け巡り、はしたなく身体が震える。直樹の堪え切れない愛が、舌先の挙動からも伝わってくるのだ。
「ちょ、待っ、て」
「まだ何もしてないよ」
直樹に笑われて恥ずかしくなるが、身体が驚くほど敏感になっているのだ。彼に触れられたすべてを、忘れまいとしているからかもしれない。
「わかってる、けど」
「早紀子は感じやすいね」
背中に回された直樹の手が、ドレスのファスナーを下ろした。締め付けが緩み、彼の指先が素肌に触れる。
「あの、ここ、で?」
「嫌?」
「だって」
早紀子は眼前に広がるパノラマに、視線を向けた。夜景は素晴らしいけれど、これではふたりの秘め事を見せつけているようだ。
「冗談だよ。俺も早紀子を独り占めしたい」
直樹は早紀子をふわっと抱き上げ、寝室に向かう。
「今夜だけは、俺のものになって」
ふわりとベッドに下ろされ、ふたりの視線が甘く絡み合う。ただ見つめ合っているだけで胸が苦しく、直樹に触れるため、手を上げることもできない。
「ごめんなさい、どう振る舞っていいか」
「早紀子が俺を誘ったのに?」
「誘ってなんて」
早紀子が否定しようとすると、直樹が体重を預けてきた。彼の重みと共に、激しい鼓動が伝わってくる。
「わかってるよ。紳士でいられないのは俺のほうだ。気持ちが昂ぶって、我慢できない」
直樹は早紀子の耳元に唇を寄せ、吐息も荒く尋ねた。
「ドレスがしわになるのは嫌だろ?」
「っ」
早紀子が答える前に、直樹はファスナーを最後まで下ろした。彼の手さばきは鮮やかで、驚くほどスムーズに下着姿にされてしまう。
「や……ぁ」
思わず胸を掻き抱き、足を曲げて身体を縮こめた。直樹の眼前に淫らな姿を晒していると思うと、堪らなくなってしまったのだ。
「嫌なら、やめるよ?」
直樹は狂おしいような瞳で、早紀子を見た。彼が葛藤しているのに気づいて、彼女はやっと手を伸ばす。
「違うの、少し照れくさい、だけ」
早紀子が直樹の首に腕を回すと、彼は彼女の背中に触れた。大きな手のひらが、ひたりと添えられ、指先がジリジリと背筋を這うように上ってくる。
「ぁ、ん」
直樹は早紀子の首筋に唇を押しつけ、甘くささやいた。
「そんな声聞かされたら、もう後戻りできないよ」
その言葉通り、直樹の指先がストラップレスブラのホックを外した。胸元に回った手は、ゆっくり外側から、ふんわりと膨らみを包み込む。
一瞬組み敷かれることを想像したけれど、直樹の手つきは繊細だった。触れるか触れないかの柔らかさで、いかに愛おしく思われているかが伝わってくる。