書籍詳細
再会してしまったので、仮面夫婦になりましょう~政略花嫁は次期総帥の執愛に囲われる~
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あらすじ
「どんな手を使っても逃がさない」策士な御曹司の重すぎる愛で妊娠発覚!?
兄の会社が経営の危機に陥った理子の前に、昔ある事情で別れた御曹司・深雪が現れる。彼の提案は、会社の提携と引き換えに自分と結婚することで…! 昔と違い強引な深雪に戸惑いつつも、熱情を隠さない彼に激しく求められる理子。「君は未来永劫、俺のものだよ」――やがて深雪の子どもを授かった彼女は、加速する十年ごしの独占愛にからめとられて―。
キャラクター紹介
山根理子(やまね りこ)
著名人の両親が離婚し、兄とふたり堅実に生きてきたしっかり者。初恋の深雪のことをずっと忘れられずにいる。
天沢深雪(あまさわ みゆき)
巨大グループの御曹司。昔は穏やかな紳士だったが、再会した理子に「君への復讐」だと告げて結婚を提案し…!?
試し読み
「あまり飲んでいないね。苦手な味だった?」
理子はふるふると首を横に振る。
「逆です。すごくおいしくて、飲みすぎてしまいそうだから」
『軽め』のリクエストどおりに口当たりはライトだけれど、アルコール度数そのものは結構高いお酒だ。特別強いほうではない理子としては、酔っぱらうのが心配だった。
「酔ったほうがいいんじゃないか?」
妖しいまでの笑みに、理子の背筋がぞくりと震える。魔法をかけられてしまったみたいに、身動きひとつできなくなる。
「そのほうが、このあとの時間が極上になる」
長い指先が理子のグラスを持ちあげ、桜色の液体は彼の口に吸い込まれていく。続いて彼は理子の肩を抱いた。スローモーションのようにゆったりと見えるのに、どうしてか抵抗できない。唇が合わさって、アルコールが理子の喉を流れる。シャンパンは彼の口内で媚薬へと変化したようだ。喉が、身体の芯が、燃えるように熱くなる。
絡みつく舌が理子の本能を揺さぶり、目覚めさせた。
「んっ」
思わず漏れた吐息は官能の色を帯びている。
「いい声だな」
低くささやかれる声も、男の色香があふれる流し目も、理子を翻弄して頭のなかを真っ白にさせる。角度を変えながらたっぷりとキスを堪能したあとで、彼はようやく理子を解放してくれた。親指で自身の唇を拭う仕草がセクシーで、直視できない。紅潮した頬を両手で包み込んでいる理子に彼は言う。
「さっき公園でキスしたときも思ったけど、意外と初々しい反応をするんだな」
「そ、それは……下手だと言いたいのでしょうか」
(仕方ないじゃない。唇が触れ合うだけのキスすら未経験だったんだから)
抗議の意を込めた瞳で彼を見あげる。彼はニヤリとして理子の背中を抱き寄せた。急に引かれたので彼の胸元に顔をうずめる形になる。
「いや」
深雪は理子をすっぽりと抱きすくめ、耳打ちする。
「かわいいなと思っただけだ」
(うぅ、絶対に馬鹿にされてる)
十年前よりもっと子ども扱いされていて悔しいけれど、経験のなさはごまかしようもない。理子は消え入りそうな声でぼやく。
「全部、初めてなんです。だから不慣れなのは大目に見てください」
深雪が目を丸くする。
「初めて? キスも?」
大人の余裕で受け流してくれることを期待したのに、彼らしくない対応だ。理子は半ばやけくそではっきりと告げる。
「そうです。この年になるまでキスすらも経験がなかったので」
「俺と別れて付き合った男は?」
ほんの一瞬、なんのこと?と思ってしまった。
(そうだ。私、ほかの人に心変わりしたって嘘をついたんだった)
「えっと、色々と事情があって。結局、付き合ったりはしなかったので」
「ふぅん」
深雪の頬がわかりやすく緩んだ。
「そんなに堂々と馬鹿にしなくても……。普通は心のなかにとどめませんか?」
今の彼は、昔の彼より大人げない気がする。
「馬鹿になんかしてない。そう、俺が初めて。それはとてつもなくいい気分だな」
「なんですか、それ」
困惑する理子を、彼はどさりとソファに押し倒した。大きなソファなので、まるでベッドのように理子の身体を受け止めてくれる。四つん這いになった深雪が理子の逃げ道を封じる。こちらを見おろす視線には熱い劣情がにじんでいた。
「世界中の男に優越感を覚えて、気持ちがいいってこと」
彼の手がグレージュの座面に広がる理子の髪をひと房すくう。そのままチュッと軽いキスを落とした。髪の毛に感覚などないはずなのに、おなかの奥がキュンと疼く。
「君が関わると、俺はどうもおかしくなるな。タガが外れてコントロールがきかなくなる」
深雪の顔がゆっくりとおりてくる。
経験はないけれど、理子もそこまで世間知らずではない。部屋についてきた以上、こうなる覚悟はしていた。けれど実際に、自分よりずっと大きな男性にのしかかられると本能的な恐怖が忍び寄ってくる。
「いいの? 拒みたいなら、ここが最後のチャンスだよ」
彼が理子を見据える。
「大丈夫です。もう、あなたの妻になる覚悟を決めましたから」
気丈に答えたけれど、身体は小刻みに震えていた。
深雪が漏らしたかすかな笑い声が聞こえてくる。
「昔の俺なら、震えている理子になにかしようなんて絶対に思わなかった。けど」
白い首筋に彼の唇が押しつけられる。きつく吸われて痛いほどだ。
「残念ながら〝優しい雪くん〟はもういないんだ」
切なげな彼の笑みが目の前にある。鼻先が触れる距離でふたりは見つめ合った。
「今から君を俺のものにする」
「――はい」
返事とともに、理子は自ら手を伸ばし彼の首をキュッと抱いた。
優しい雪くんはもういない。そう言ったくせに、彼の手は優しく、まるで宝物を扱うように理子に触れる。
「俺を嫌いになって、憎んでも構わない」
ひとり言のようなつぶやきが耳に届く。
(嫌いに……私はこの男性を嫌いになれるだろうか)
ピンクベージュのボウタイブラウス。リボン結びにしていたタイはしゅるりとほどかれ、上から順にボタンも外されていく。彼がブラウスの前を開くと、なめらかな素肌とレースの下着に隠された膨らみがあらわになる。
「綺麗だ」
鎖骨のくぼみを彼の舌が這う。腰がビクリと浮きあがって、その自分の反応に理子は頬を染める。
「恥ずかしがることないのに。もっと、乱れる理子が見たい」
大きな手が下から持ちあげるように胸を揉む。やわやわと形を変えられるたびに理性が薄れていく。
いつの間にかブラのホックが外されていた。さらに、たくしあげられたタイトスカートからは太ももの半分ほどが露出している。あられもない姿を隠そうとする理子の手を、彼はグイッと頭上で固定してしまう。
「それはダメ。見たいと言っただろう」
脇、おなか、内ももの際どいところ……彼は理子の羞恥心を煽るような場所ばかり執拗に攻めてくる。
「んっ、はぁ」
理子の瞳はしっとりと潤み、しどけなく半開きになった口からくぐもった喘ぎがこぼれる。深雪の喉仏がググッと上下する。
「理子。そのまま、舌を出して」
彼の声音にはあらがえない魔力が宿っている。理子はもう言われるがままだ。差し出された舌をからめとって、深雪は赤く色づく唇をむさぼる。甘く、激しく、キスだけで意識が遠のきそうになってしまう。
「キス、下手じゃないよ」
吐息交じりに彼がささやく。
「むしろ俺をこれでもかと昂らせる。魔性の女だ」
「ん、んんっ」
より深まるキスとともに、深雪が胸の頂を爪弾く。びくんと大きく肩が跳ねて、大きな声をあげてしまった。
「俺ばかり興奮させられていては、プライドが傷つくからね。理子も……覚悟して」
「あっ、ひゃあ」
彼の舌が、指先が、理子の敏感なところに火をともしていく。焦らされて、煽られるたびに身体が切なく疼いた。脳がグズグズに溶けて、下腹部からとろりとした蜜があふれる。
「ダ、ダメ。これ以上はおかしくなりそう」
自分が自分でなくなっていくみたいだ。ありえないほど恥ずかしいことをしているのに、本能が「もっと欲しい」と訴える。それが怖くてたまらない。
妖艶にほほ笑む深雪が理子の頬に甘いキスを落とす。キスは信じられないほどに優しいのに、ささやく言葉は残酷だ。
「やめないよ。俺に溺れて、心も身体もめちゃくちゃになってよ」
「もしかして、それが復讐?」
愉快そうに目を細めて彼は答える。
「――かもね」
翌朝。彼の寝室で理子は目を覚ました。洒落た木製のブラインドから差し込む光はまぶしいほどで、自分がすっかり寝坊したことを悟る。
瞳だけを動かして彼の姿を捜すと、奥のデスクでノートパソコンを開いている背中が見えた。だらしなく眠っていた自分とは違い、彼はきちんと身だしなみも整え終えていた。注がれる視線に気づいたのか、キィと音を立てて彼の座る椅子が回った。
「起きた? おはよう」
「はい、おはようございます」
理子は裸のままの身体にシーツを巻きつけて上半身を起こす。情事の翌朝、というシチュエーションも初めてなので気恥ずかしくてならない。
彼はデスクを離れ、理子の隣に腰をおろした。
「身体は平気?」
深雪の手が理子の腰に添えられる。「ちょっと無理をさせたかな」という彼の台詞で、ゆうべの出来事が生々しく蘇ってきて理子の頬は真っ赤に染まった。
一度きりじゃなかった。
寝室に場所を移してからも深雪の熱は少しも冷めやらず……。
「なにか、想像してる?」
「べ、別に! なにも」
バレバレの嘘に、深雪は白い歯を見せて笑う。
「どこか痛んだりしないか」
情熱的ではあったけれど、彼は理子の身体をとても気遣ってくれていた。だから問題ない。そう答えようと思ったけれど、動こうとすると下半身に鈍いだるさが残っているのがはっきりとわかった。理子の表情の変化で察したのだろう。
「加減できずに悪かった。おわびに介抱するから、今日はゆっくりしていって」
「いえ、そんな!」
慌てて首を左右に振る。
「天沢さんはお忙しいでしょう。こんなに寝坊して、すでに迷惑をかけているのに」
枕元にある、綺麗に整えられた自分の衣服を理子が引っ張ろうとすると、彼はにっこりしてそれを制する。
「あぁ、君の寝坊は俺のもくろみどおりだから」
「え?」
「そうすれば一緒にブランチができるだろう」
冗談とも本気ともつかない口ぶりに理子は戸惑うばかり。でも結局「今後のことも相談したいし」というひと言に押され、一緒にブランチをとることになってしまった。
白い大理石のダイニングテーブルにベビーリーフのサラダとフレンチトーストが並ぶ。作ったのは理子ではなく深雪だ。理子はのんびりとシャワーを浴びて、着替えをしただけ。
「座って」
彼が椅子を引いてエスコートしてくれる。
「お料理、上手なんですね。いつの間に……」
フレンチトーストは難しいものではないけれど、完璧な出来栄えで盛りつけも美しい。手慣れている人間の料理だ。
(昔はたしか『料理はほとんどしたことない』と言っていたのに)
「アメリカの食事は日本人にはカロリーが気になって。健康のために覚えたんだ」
「向こうの暮らしが長くなると太るとよく聞きますけど、天沢さんはそんなことなかったんですね」
「渡米直後は、むしろ痩せたくらいだったよ。食事に慣れるまで結構苦労した」
そんなふうに言って柔らかく笑む。こういう表情には以前の面影があって、甘酸っぱい懐かしさが込みあげた。
「ところでさ」
サラダを口に運びながら彼が言う。
「敬語はともかく、『天沢さん』はやめてほしいな」
「え?」
「今は業務時間じゃなくプライベートだろう」
そう言われても、『天沢さん』以外になんと呼べばいいのか。
(昔みたいに『雪くん』とは呼べないし)
そんな呼び方をしたら、あの頃の気持ちがあっという間に蘇ってきてしまいそうで怖い。彼は『復讐』だと言った。抱かれている感情は憎しみだときちんと自覚して、遠い昔の恋心を掘り返すようなマネをしてはいけない。ビジネスとしての結婚を貫くべきだ。
「もう『雪くん』って年齢でもないし『深雪』でいいよ」
「えぇ⁉」
「大丈夫。ほら、呼んでみて」
さすがは天沢家の御曹司だ。物腰は穏やかなのに相手に有無を言わせない圧がある。
「み、深雪……さん」
美しい瞳が甘く細められた。
「まぁ、及第点かな」
ブランチのあとはリビングのシアターセットで一緒に映画を観る。彼は理子が好きだった映画をきちんと覚えてくれていて、ほんの少しときめいてしまった。
(いやいや、ドキドキするところじゃないし)
この結婚は仕事の延長。それどころか、自分は彼に復讐をもくろまれている立場なのだ。なのに……。