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マーマレード文庫&マーマレードコミックス > 記事 > マーマレード文庫 > 離婚しようと記憶喪失のふりをしたら、怜悧な旦那様が激甘に愛してきます

書籍詳細

  • マーマレード文庫

離婚しようと記憶喪失のふりをしたら、怜悧な旦那様が激甘に愛してきます

  • マーマレード文庫
  • 著者: 宇佐木
  • 表紙イラスト: 氷堂れん
  • ISBN:978-4-596-77594-8
  • ページ数:320
  • 発売日:2024年4月8日
  • 定価:650+税

キーワード

  • 宿敵・天敵
  • 離婚
  • 記憶喪失
  • 契約結婚
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電子書籍
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あらすじ

「このままこの手を放す気はないよ」ライバル会社の御曹司と期間限定婚!
互いの事情で契約結婚した清臣と紗綾。ところが彼がライバル会社の後継者と判明!御曹司の清臣との身分差に耐え切れなくなった紗綾は、記憶喪失を装い離婚を提案する。その途端に、クールなはずの清臣が過保護な旦那様に豹変し…!?「俺の気持ちを受け止めて」――本当は覚えていると言えないまま、甘すぎる夫の溺愛に翻弄される毎日が始まって…。

キャラクター紹介

椿 紗綾(つばき さや)

空港で働く明るく真面目なグランドスタッフ。実家は老舗呉服屋を経営している。

八重樫清臣(やえがし きよおみ)

大手航空会社のイケメン御曹司。一見クールだが、内に情熱を秘めている。

試し読み

「あの。ごちそうさまでした……」
 結局、彼の言う通り、恋人のつもりになってお礼を伝える。彼は「うん」とだけ返して、エントランスへと歩き出した。自動ドアをくぐり、外に出た直後、清臣さんが私を振り返る。
「い、いかがされましたか?」
 なにか言いたげな気がしておずおず尋ねると、清臣さんは凛々しい顔つきで言う。
「いつまでも、お互い堅苦しい雰囲気や話し方をしていたら周囲から奇妙に思われる。俺たちは今、結婚秒読みの間柄という設定になるんだろう?」
「そうですね、すみません」
 彼の指摘は至極もっともだ。とはいえ、彼と会うのは二度目。自分よりも歳は上で、さらには若いながら大企業に所属し、役職がついているなんて相手に易々と砕けた対応は取れない。
 事の発端は自分がこぼした非現実的な願望からだっていうのに、今や彼の勢いに引き摺られている。だけど、彼は彼で理由があってこんなありえないことを受け入れたのだから、私が足を引っ張っちゃいけない。
 気持ちを改め、握りしめた両手をこっそり見つめて気合いを入れる。
 そのとき。
「――紗綾」
 それは紛れもなく私の名前だ。
 これまで友人や家族にそう呼ばれてきた聞き慣れた名前が、急に別物に感じて立ち呆けた。周囲の音が一瞬消えて、自分の心音だけがやたらと大きく聞こえる。
「行こう」
 彼はそう言って、さながら長い付き合いの恋人のように私の手を取り、繋ぐ。
 こんなの……心の準備してきてない。
 思い詰めて信じられない方法を考えて、それを実行することになって。今日はただ、不安と緊張でいっぱいで……。〝結婚〟して目的は達成できるとばかり――私は無意識に……単純にそれだけしか考えていなかった。
 繋がれた手の感触とリズミカルな鼓動を感じる中、覚悟を決める。
 これは、確かに必要なこと。私の考えが足りなかった。私たちは、期間限定とはいえ、本当に夫婦になるのだから。
 こそばゆい気持ちをグッと押し込め、平静を装う。
「どこへ行きましょ……行くの?」
 お互いのことで知っている内容は、名前と年齢と家族構成、勤務先くらい。趣味や好きなものや苦手なものなど、ひとつも知らない。
 異性と交際した過去は五年以上前の話。それも半年くらいの付き合いで、あっさり別れてしまった。初めてのデートのときは、どうしていたっけ?
 記憶を探っていると、清臣さんが言う。
「まずは定番のデートスポットってことで、あれは?」
 視線を上げた先には、水族館の広告。
 そういえば、この近くに水族館があったかも。
「水族館! いいですね! ……あっ」
 咄嗟に敬語が飛び出し、口を噤む。
 彼はそれに気づき、こちらを一瞥して柔らかな声で答える。
「徐々にね」
 私は、こくこくと頷く。清臣さんはその場でスマートフォンを操作し、すぐにチケットを購入してくれた。
 数分歩き、水族館に到着する。私たちは緩やかなスロープを下り建物の中へ入った。その先で清臣さんが窓口でチケットを交換してくれている間、私は年甲斐もなくわくわくして待つ。
 水族館、いつぶりだろう? 学生の頃、友達と行ったきりかもしれない。
「お待たせ。はい、どうぞ」
「ありがとう」
 チケットを受け取り、入場ゲートを通る。トーンダウンした照明の中、歩みを進めていくと、すぐに広い空間に出た。
「う、わあ……。綺麗」
 そこには、壁一面に映し出された水の中のグラフィック。ゆらめく水の動きと、テレビ番組で見るような魚群が端から端へ、悠々と泳いでいく様に圧倒される。自分が小さくなって水槽の中に迷い込んだみたい。
 平日だからか、館内はあまり混んでいない様子。おかげでゆっくりと鑑賞できて得した気分だ。
 大きな映像に意識を吸い込まれ、その場に数分とどまったあと、はたと気づく。
「ごめんなさい。まだ先があるのに」
「時間はあるんだから先を急ぐ必要はないだろう? 俺はこの映像をもう少し眺めていたいと思ったけど」
 彼の反応に驚いて、思わずグラフィック映像から視線を外し、隣の清臣さんを見た。
 清臣さんは『もう少し眺めていたい』と言っただけあって、映像をジッと眺め続けている。
「じゃあ、もう少し」
 私は小さく返し、再び煌めく水槽グラフィックに目を向けた。
 その後、順路に従って進み、イルカのショーを見終えた頃には、すっかり緊張も忘れて楽しんでいたことに気づいた。同時に、この人となら一定期間を夫婦として過ごせる気がすると、漠然と感じられた。
「また順路を戻って見たいところはある?」
 移動しながら尋ねられ、私は首を横に振る。
「もう十分! ショーもすごく楽しかった。そういえば、今住んでいる場所の近くにも水族館があるんだけど、一度も行ったことないなあ」
「そう。なら、そこもいつか行こう」
 途中からひとりごとのつもりで口にしていた言葉に対し、清臣さんから意外な反応をもらい驚いた。
 彼は出口へ向かう階段を私と並んで下りながら、さらに言う。
「そういえば、海外で人気のあるアクアリウムもいくつか行ったことはあるが、向こうは向こうのよさがあって楽しめるから、今度一緒に――」
 うっかり、清臣さんを見すぎていたかもしれない。
 私の視線が気になったのか、彼が話の途中でこちらを見た。
 私はドキリとして、咄嗟に顔を戻す。
「なに?」
「あ……いえ。水族館、お好きなんだなあ……と」
 本当は、一番に頭に浮かんだのはそれではなかった。
 清臣さんが、当たり前のように『いつか行こう』とか『今度一緒に』とか誘うものだから。
 出口のゲートを通り抜け、外に出た直後、彼は足を止めた。
「嫌いじゃないけど、すべて仕事で行ったことがあるだけって話。プライベートでは、これが初めて」
「お仕事……そうなんですね」
 言われてみれば、航空会社にお勤めなら、観光業のほうと繋がりはあるだろう。
 納得していたそのとき、眩しい光が射してきた。自然と顔を上げ、目を細める。夕陽だ。
 水族館を堪能しているうちに、空はすっかり美しい橙色に染まっていた。
 普通に楽しんじゃった。こんなふうにデートするのは、本当に久々で……。
 充足感でいっぱいになっていたところに、清臣さんに顔を覗き込まれる。
「まだ時間はある?」
「ええ。実は明日も休みなので」
 質問に答えたあとも、彼はなぜかこちらをジッと見続ける。
 綺麗な顔立ちの人は、これまで何度か仕事中に対面した経験はある。だけど、ここまで見つめられることはないからドキドキする。
「なら、食事に行こう。好きなものはなに?」
「えっ。あ……大抵なんでも美味しくいただきます」
 急に食事にも誘われ、どぎまぎする。それでもどうにかシャキッと背筋を伸ばし丁重に回答したら、清臣さんはなにか言いたげな視線を送ってきた。
 私は首を傾げ、ひとこと聞き返す。
「なにか?」
「いや。やっぱりいい。今日が初日だし、〝徐々に〟って話だったから」
 彼の言葉にはっとし、口を押さえる。
「ごめんなさい、つい」
 どうにも、よそよそしい受け答えが抜けきれない。といっても、まともに過ごすのは今日が初めてなのだから仕方のないこととは思うのだけれど。
 清臣さんを窺えば、どうやら怒ってはいなさそう。
 内心ほっとして、彼の行きつけだというレストランまでタクシーで移動することになった。
 タクシーの後部座席に乗り、隣に座る清臣さんをこっそりと見る。
 水族館を見て回っていたときも、一度も笑った顔は見せなかった。
 そうかといって、つまらなそうだとか私に付き合って仕方なくだとか、そんな雰囲気ではなかったと思う。観覧するペースは常に合わせてくれていたし、私に関係なく、清臣さんも水槽を興味深く見ている場面もあった。
 まともに彼と関わるのは今日が初めてだけれど……ただ笑わないだけで、言動の端々から丁寧な気遣いを感じられた。
 元々表情の変化が少ない人なのかな。それとも、仲のいい友人や本当の恋人相手なら、笑顔を見せるのだろうか。うん、きっと見せるよね。
 容姿はとびきりカッコイイから、きっと笑ったらもっと魅力的に……。
「住まいはどうするか、考えてる?」
 清臣さんの笑顔を勝手に想像しかけたときに、運転士に聞こえないくらいのささやかな声で尋ねられた。
 私はやや不自然な動きをして、しどろもどろになる。
「全然考えてなかった……。そっか……住むところ」
 普段、仕事ならすべて先回りして考えられるのに。当たり前だけど、こんな状況初めてで、なにからどうすべきかまだ把握できていない。
 彼は現実的にやらなきゃならないこと、考えなきゃならないことをすでにきちんとタスク化してるみたい。それに比べて私……。なんだかずっと、だめなところしか見せていない気がする。
 居た堪れなくなって視線を落とす。
「そんな顔しなくていい。責めてるわけじゃない」
 彼が言った通り、彼の口調は責めるようなものではなかった。冷静で聞き取りやすい声色で、自然と清臣さんの顔に目を向けた。
 清臣さんは人の気持ちを察する力に優れている。それだけ相手をきちんと見ているのだろうな、とつくづく感じた。そして、さらに思う。
 清臣さんは不思議だ。物腰は柔らかなのに、そのブラウンの瞳は揺らぎを知らずまっすぐで、つい引き込まれてしまう。立派な肩書きを持っていても、決して威圧感があるわけではないから、つい彼の立場を忘れさせられて――。
 清臣さんは進行方向に顔を向け、話を続ける。
「そこで提案。うちに来るのはどう?」
「え? 私が、清臣さんのおうちに?」
 人差し指を自分に向けながら聞き返すと、彼は一度頷いて答える。
「別居婚も、今やめずらしくはないかもしれないけれど……俺としては、こんな結婚だからこそ、きちんとして見せたいと考えてる」
 こんな結婚だからこそ……。
 清臣さんの言わんとしていることは、なんとなく伝わった。
 私たちの間には、〝本物の愛〟があるわけではない。なら、せめて外側だけでもそれらしく取り繕ったほうがいいに決まっている。
「今より少し通勤に時間かかるけど、五分か十分程度の違いだと思うよ」
 今日、私が自己紹介した内容を踏まえ、具体的に通勤時間を試算してスマートに提案をしてくれるあたり、彼は本当に敏腕だとわかる。
「明日の予定は?」
「予定は特にありませんが」
「じゃあ、食事のあと、うちを見に来る? そのほうが現実的にいろいろと考えられるだろうし」
 即座に返ってきた言葉にぎょっとした。
「清臣さんのお宅を……見に? 今夜?」
 予定外のデートだけでもびっくりしたのに、さらにお宅訪問まで。
 それって、普通? ……ではない気がする。ううん。中には出逢ったその日にデートする人もいるとは思うけれど、一般的ではなさそうというか。って、そんなふうに考えている私が一番普通じゃないことを考えて実行している最中だ。
 だったら、こんなふうに訪問することを躊躇えば、『今さら純情ぶって』って思われるだけなんじゃ……。
「ふっ」
 陥ったことのない状況に頭を抱えていると、清臣さんが小さく笑った。
 私は数秒前の悩みなど全部吹き飛び、彼に注目する。
 だって、今日二度目の笑顔だったから。笑顔を見せる清臣さんはめずらしくて、つい意識してしまう。
 ふいうちの出来事に、ただ彼を凝視するだけで言葉がなにも出てこない。
 清臣さんはすらりとした手で口元を覆い、視線を逸らした。
「ああ、悪い。今さら? って思って」
 彼はすぐに元通りのクールな印象に戻る。
 それはさておき、やっぱりそう思われたんだと感じ、大きな羞恥心に襲われる。私が俯きがちになって話せなくなっていると、彼はさらに一度咳払いをした。
「いや、でも安心した。ちゃんと警戒心あるんだな。あの日は、なんだか危なっかしい感じだったから」
 あの日……展望デッキで嘆いていたときのことだよね。
 危なっかしいと言われたら確かにそうだったと思う。なんなら、今も危ないことをしているとも言える。見知らぬ男性と、結婚を前提にこんなこと……。
 今一度、清臣さんを見る。
〝あの日〟清臣さんは、すぐさま身元を証明する書類を見せてくれた。だからもう、見知らぬ男性ではない……なんて、こじつけが過ぎるかな。
 それでもやっぱり、自分を擁護しているだけと揶揄されるかもしれないけれど、誰が相手でもよかったわけではなかった。
 この人は信用してもいいと、直感を抱いた。今日、数時間一緒に過ごしてその部分は覆っていない。
 私は膝の上の手をきゅっと握り、ひとこと答える。
「行きます。清臣さんのおうちに」
「うん。おいで」
 瞬間、ドキッと胸が鳴った。
 なんだろう、これ。清臣さんはすでに笑顔を封印していて、単調な声で答えただけなのに。
『おいで』っていうのが、私にとってパワーワードだったのかな。考えてみたら、ここ数年恋愛どころか男の人との交流さえ、業務中くらいしかなくて免疫もないもの。
 この程度で動揺してどうするの。本番はこれからなのに。
「ちなみに、あなたの部屋はちゃんと用意できる。プライバシーは守られるから安心して」
 気持ちを強く持ち、改めているときに、清臣さんはそう補足してくれた。
 具体的な想像もできず、ただ混乱していた自分が再び恥ずかしくなり、首を窄めて小さく返す。
「あ……そうですよね。ありがとうございます」
 その後どうにか心を落ちつけたものの、普段私が足を踏み入れないような高級なレストランに連れられて、結局終始そわそわし続けたのだった。


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