書籍詳細
身代わりで結婚したのに、御曹司にとろける愛を注がれています
あらすじ
「君を俺の独占欲で染めてやりたい」政略結婚なのに愛し尽くされて!?
姉の身代わりでお見合いをした春奈。大企業の御曹司・亘と夫婦になるも、優秀な姉のようにはなれない後ろめたさから、自分では彼に釣り合わないと感じていた。しかしいざ結婚生活が始まると、「言葉で信じられないなら、態度で示そうか」と亘が情熱的に迫ってきて…!?寂しさごと心を溶かされた春奈は、彼からの容赦ない溺愛を刻み込まれていき――。
キャラクター紹介
真貴田春奈(まきた はるな)
代々政治家を輩出する家系の次女。控え目な性格で、奔放な姉の頼みを断り切れず、代わりに行事に出ることも。
菱川 亘(ひしかわ わたる)
巨大グループを束ねる大手商社の後継ぎ。恋愛に対しては冷めていたが、春奈に出会って情熱的に変わっていく。
試し読み
両家への挨拶を済ませ、残りの休日はふたりでのんびり過ごした。
近場だけれど、亘さんの運転でドライブしたり、映画を見に行ったり、新しくできたショッピングセンターで買い物など、それまでできなかったデートを楽しんだ。
休みの最終日には、亘さんとお見合いをしたレストラン、グロワールを訪れた。
美味しい食事を味わってから、美しい薔薇の庭園をふたりで散歩していると、本当に幸せで、彼への想いが募っていく。
「春奈、写真を撮るからそこに立って」
亘さんが私を薔薇のアーチの前に立たせて、カメラを構える。
彼は写真が趣味のようで、沢山の風景を写真に収めていく。
ふと気付くと、彼のカメラが私に向いている。
「あー、またぼんやりしてるとこ、撮られた!」
きっと油断しきった締まりのない顔をしているはず。
「撮る前に教えてくれたらいいのに」
私がちょっと膨れて言うと、亘さんが小さく笑う。
「自然な表情がいいんだよ」
「でもぼけっと口を開けてたかも」
「大丈夫。春奈は何をしていても可愛いから」
「亘さん揶揄ってるでしょ?」
むっと眉をひそめると、亘さんが楽しそうに目を細める。
「本心だって。綺麗な景色に目を輝かせている春奈は本当に綺麗だから」
「……いいように言われすぎると信憑性がなくなるんだよ」
私に綺麗だなんて言ってくれるのは亘さんくらいだから、お世辞か贔屓目だと分かってる。
それなのに結構嬉しくなってそわそわしてしまうのは、褒められることに慣れていないからだ。
亘さんは私が内心喜んでいることに気付いているのか、再びカメラを向けてきた。
「ほら、機嫌直してこっち向いて」
「機嫌が悪い訳じゃないけど」
私は亘さんに体を向ける。すらりとした長身の彼がカメラを構える姿は、すごくかっこよくて様になっていて、むしろ私がスマホを取り出して撮りたいくらいだ。
「春奈、笑って」
「……笑ってるけど、目を瞑っちゃいそう」
撮る前に教えてくれと言ったのは自分なのに、いざカメラを向けられると、顔が強張ってしまい、上手く笑えない。
私が写真写りに自信がないのは、自然な笑顔になれないせいかもしれない。
ということは、知らない間に撮って自然な表情を記録してくれる亘さんのやり方は、私にとって正しいのかも。
「亘さんのことも撮りたいな」
彼の高級カメラを借りるのはちょっと緊張するけれど、せっかく来たのだから思い出に残したい。
亘さんにレクチャーを受けて、一枚パシャリ。
レンズ越しでも美しい亘さんの姿と背後に広がる鮮やかな庭園。
楽しかった今日の思い出の一部を切り取ったようで、嬉しくなった。
夫婦になって初めてゆっくり過ごした休日。
亘さんも大切な思い出にしようとして、私を沢山撮ってくれたのかな。
帰宅してから写真を確認すると、本当に幸せそうに笑う私が何枚も映っていた。
亘さんの夏季休暇が終わり、九月に突入した。
彼は仕事に行き、私は家事や用事をこなす毎日。
結婚してそろそろ三カ月になり、生活リズムが整ってきた。
特別なことがない日は、朝の八時に亘さんを見送り、九時過ぎまで掃除と洗濯。
その後は買い物に出て、帰宅後ひとりランチと、実家にいた頃には考えられないくらいゆったりと過ごしている。
「お帰りなさい」
亘さんが午後八時過ぎに帰宅した。玄関で出迎える私に、彼は嬉しそうな笑顔になる。
「ただいま、春奈」
「先にシャワーでしょ?」
「ああ」
「出るまでにご飯の用意しておくね」
「ありがとう」
こういう会話をしていると、夫婦なんだなって実感する。
亘さんがバスルームに向かい私はキッチンに。
あらかた作り終えた料理の仕上げをする。
今日のメニューは、五目炊き込みご飯と、鮭のホイル焼き、他はお味噌汁や副菜が二品ほど。私なりに栄養バランスを考えて作ってはいる。
亘さんは、シャワーと着替えとヘアドライを三十分くらいで済ますから、ちょうどよい時間になるようにトースターに入れたホイル焼きを加熱する。
思った通りの時間にまだちょっと濡れた髪をした亘さんが、ダイニングにやって来た。ヘアセットしていないと、雰囲気が変わって年齢よりも若く見えて、ちょっと可愛い。亘さんはあまり喜ばないので、言わないけれど。
亘さんはダイニングテーブルに並ぶ料理を見ると、笑顔になった。
「今日も美味そうだ。毎日ありがとう」
「亘さんも毎日お仕事ありがとう」
亘さんは些細なことでも感謝を口にしてくれる。その気遣いが嬉しくて、私も同じようにありがとうと言うのを忘れないよう心掛けている。
夫婦になると言葉がなくても分かり合えるという人もいるけれど、私たちはまだ言葉が必要だし、この先もこういった思い遣りは大切にしていきたいなと思っている。
「この炊き込みご飯最高だな」
「本当? 沢山あるからお代わりしてね」
心を込めて作った料理を喜んで食べてもらうのは幸せだ。
美味しいと言ってくれると、もっと頑張ろうとやる気が出る。
私は褒められて伸びるタイプだと、結婚してから気が付いた。
「亘さん、今日も忙しかったみたいだね。ちゃんとお昼ご飯食べられた?」
彼は忙しいと休憩なしで働くこともあるそうなので、妻としては心配だ。
「ああ。今日はランチミーティングだったからな。春奈は何をしてたんだ? 変わったことはなかったか?」
「私はいつも通り。あ、でも薫さんから電話を貰ったの。盛り上がって三十分くらい話しちゃった」
「すっかり仲良しだな」
亘さんが優しい表情になる。私と薫さんの関係が上手くいっていることに、ほっとしているみたい。
「薫さんのサロンに招待してもらったの。近いうちに行ってこようかと思って」
彼女が経営しているエステサロンは、ラグジュアリーさと高品質が売りで、料金がかなり高いものの常に予約でいっぱいの人気店だ。
顧客には女優や、経営者など世間への露出が多い人たちが多く、私では場違いではないか不安があるが、薫さんが気にせず来るようにと気さくに誘ってくれた。
「もしかして無理やり誘われてないよな?」
亘さんが少し心配そうに言う。あいつは強引だから、と小声で呟いているところを見ると、私が断りきれずにいると思っているのかもしれない。
「無理やりなんてことないよ。私これまでエステに行ったことがなかったんだけど、ブライダルエステで興味が出て、しっかりした施術を受けてみたいと思ったんだ」
「そうか。それならよかった」
「うん。薫さんのサロンで、少しは綺麗になれるといいな」
「春奈は今でも十分綺麗だろ?」
「そう言ってくれるのは亘さんだけだよ」
初めはお世辞だと思っていたけれど、最近本気で言ってるのだと感じるようになってきた。
亘さんは私にだけ、判断が甘くなるのだと思う。
それでも大好きな夫に綺麗と言われるのは嬉しくて、私はいちいち浮かれてしまう。
食後の後片付けの後は、亘さんが淹れてくれたコーヒーでひと休み。
私がシャワーを浴びて、寝る準備をしてから寝室に行く。
部屋の灯りを落とすと、亘さんに抱きしめられた。
私も彼の広い背中に腕を回す。
キスを交わし、ベッドになだれ込んだ。
室内は薄暗いけれど、私を組み敷く亘さんの目に欲情が宿っているのはよく分かる。
もう何度も体を重ねているけれど、この瞬間に感じる胸の高鳴りがなくなることはない。
「亘さん……」
朝からずっと働いて疲れているはずなのに、彼は頻繁に私を抱く。
寝不足にならないか心配だけれど、「春奈を抱くと元気が出る」なんて言われてしまったら、断れない。私が彼を本当に癒やせるならこんなに嬉しいことはない。
けれどそんな想いも、体中に巡る熱で曖昧になっていく。
亘さんが私の中に入ってくる頃には、もう何も考えられなくて、ひたすら求め合うだけだった。
濃密な夜を過ごして体に怠さが残っていたけれど、朝はやって来る。
アラームを止めてベッドから出て、まずはシャワーをささっと浴びる。
朝食の準備を進めていると亘さんも起きて出社準備を始める。
ダイニングテーブルに朝食を並べ終えてそう時間を置かずに亘さんがやって来た。
今朝のメニューは、バタートーストとベーコンエッグとコンソメスープ、それからフルーツサラダ。
夕食と違ってゆっくりはできないから、会話は大抵今日の予定を報告し合うくらいしかできない。
「今日は静岡に出張なんだ。帰宅時間が読めなくて遅くなるから夕食は要らない。春奈は先に寝ててな」
今日は寝不足だろうからと付け加える亘さんは、朝なのにやけに色っぽい。
私が昨夜のことを連想してしまうからかもしれないけれど。
「静岡……結構遠いのに、日帰り出張なんだ」
向こうで一泊できないのかな。新幹線を使ってもなかなかのハードスケジュールだから、体調が心配になる。
「スケジュール的には一泊してもよかったんだけど、春奈が家にいると思うと帰りたくなるんだよな」
「え……それなら起きて待ってるよ」
私は亘さんの言葉に、ときめきを覚えながら言う。
彼が私と少しでも一緒にいようとしてくれているのだと実感して嬉しかったのだ。
「いや無理しないで休んでくれ」
「でもせっかく帰って来てくれるんだから、少しだけでも話したいし」
「話は朝食のときにしよう。俺も春奈の寝顔を見て癒やされたらすぐに休むから」
「そんなことを言われたらますます寝られない」
寝ているときの自分がどんな顔をしているかは分からないけれど、油断して間抜けな顔をしているに決まっている。
それを亘さんに見られるなんて恥ずかしい。
「夫婦なんだからいいだろ? 春奈だって俺の寝顔を見てるじゃないか」
「そうだけど、亘さんは美形だから寝顔もかっこいいんだもの」
「春奈の寝顔も可愛いよ。夫の特権なんだから許してくれ」
亘さんに甘く微笑まれてしまうと、それ以上何も言えなくなった。