書籍詳細
御曹司だなんて聞いてません!!~エリートなカレの一途な愛情~
あらすじ
まさか、平凡な私が溺愛されるなんて……。
理想的なカレと、運命の恋!?
周囲の結婚ラッシュに落ち込んでいた、オクテな派遣社員の山本満月。そんな彼女に手を差し伸べたのは、友人の婚約者と同じ会社で働く男・成瀬葉鳥だった。物腰柔らかで完璧な彼と付き合うことになったのはいいけど、なんと彼は大手ホテルグループの御曹司! 立場の差に気後れしっぱなしの満月をなんとか捕まえておきたい葉鳥は彼女をひたすらに甘やかしてくるのだが、ふたりを阻む障害が次々と現れて……!?
※本作品は「エブリスタ」に掲載、公開されている『可愛いの10乗は愛になる』に、大幅に加筆・修正を加えたものです。
キャラクター紹介
山本満月(やまもとみづき)
26才の派遣社員で、年齢=彼氏いない歴。葉鳥と出会い、愛されることを知る。
成瀬葉鳥(なるせはとり)
大手ホテルグループ執行役常務。なにもかも完璧すぎる28才。満月との未来のために力を尽くす。
試し読み
「すみません。……ちょっとだけ、こうしていていいですか」
優しく問われ、満月はドキドキしながらも、「はい」と素直に応じた。
昨日の抱擁よりもその距離はさらに縮まり、ちょうど相手の心臓が自分の頭の横にあって、規則正しく鼓動する心臓の音に、満月は黙って耳を澄ました。
とても緊張するシチュエーションなのに、葉鳥の温もりと匂いに包まれていると心が徐々に落ち着き、満月は自然と、両腕を相手の腰に回していた。
壁の時計が動く音と、互いの心臓の音。
二つが重なって、静かで穏やかな時間が流れる。
どのくらいそうしていたのか。
多分二、三分のことだったが、満月は何だか、一日中でもこうしていられる気分だった。
葉鳥が首を折って満月の頭に口づけ、「柔らかい」と小さく呟く。
満月が顔を上げると、自分を見下ろす優しい眼差しと目が合った。
その瞳は溢れんばかりの愛おしさを湛えていて、葉鳥と見つめ合っているだけで、満月の胸は切なさに締めつけられた。
「……私、あなたが好きです」
思いが勝手に口を伝って、外に出た。
葉鳥は少し驚いた顔をして、そして柔らかく微笑んだ。
「僕も、満月さんが好きです」
葉鳥はそこで、満月の体を軽々と横抱きにした。
びっくりしつつも、慌てて相手の首に手を回した満月を見つめ、葉鳥はその頬に口づけた。
42キロの満月をお姫様抱っこしたまま、葉鳥は器用にリビングのソファに座り、抱えたその体を、また両腕で包むように抱き締めた。
男の腕に抱き締められて、満月はうっとりと広い胸に体を預けた。
「本当に、あなたは可愛い」
弧を描いた瞳に見つめられて、満月は照れながら「でも私より可愛い人や綺麗な人は、沢山いますよ?」と言った。
「だけど僕にとっては、あなたが一番なんです。この柔らかな髪もつぶらな瞳も、白い肌も小さな口も華奢な手足も、全てが魅力的で、可愛らしい」
その言葉に虚飾の色はなく、葉鳥が本気でそう思っているのだと悟った満月は、嬉しさと幸福感に、込み上げてくる感情を抑え切れなかった。
何の前触れもなく涙が溢れ、満月は慌てて両手で目尻を押さえた。
驚いた表情の葉鳥に、「ごめんなさい……」と詫びる。
「男の人にそんな風に言って貰ったのって、初めてだから……。慣れなくて……ごめんなさい」
葉鳥は黙って目を細め、ポケットからハンカチを出し、満月に差し出した。
満月はそれを受け取り、軽く目頭を押さえた。涙はもう、止まっていた。
「……そう言えば、一昨日お借りしたハンカチを、返さなくちゃ。でもまだ、アイロンを掛けてなくて」
「いつでもいいですよ」
「……はい」
照れ臭さに笑って、満月は「返すハンカチが、二枚になっちゃった」と呟いた。
葉鳥が柔らかく微笑み、彼の唇が満月の額にそっと触れた。
相手のそんな仕草一つ一つが嬉しくて、満月は黙って微笑んだ。