書籍詳細
いきなり婚約者~強引社長と溺愛同棲~
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あらすじ
「俺はもう、我慢しない。」
朝から晩まで愛されスイート生活
OLのあずさは、ひょんなことから社長の笠野美弦に弱みを握られてしまい、黙っている代わりに……と同棲&婚約者のふりをするよう命じられる。美弦は望まない縁談を避けたいらしい。希望部署への異動もちらつかされて渋々引き受けるあずさだが、イケメンで有能な美弦に四六時中、甘く強引に迫られドキドキの毎日! 婚約はあくまで契約のはずなのに!?
キャラクター紹介
佐々木あずさ(ささきあずさ)
スイーツ会社につとめるOL。恋愛育成ゲームが好きで特定キャラに入れ込んでいる。恋愛には奥手。
笠野美弦(かさのみつる)
あずさのつとめる会社の若社長で笠野財閥の御曹司。人との「縁」を大事にする。強引だが優しいところもあるイケメン。
試し読み
「美弦さん……もう……ンっ……」
「もう少し」
「ンンッ……でも、もう、……五回はしてますよ……ッ……」
「じゃ、最後にもう一回だけ」
「そんな、……ん、ンンッ……」
美弦さんと同棲を始めてから、数日が経つ。
美弦さんはいつも手料理を作ってくれて、そして……キスをする。一日に何度も。
一日に最低一度はキスを、ということだったから、何回もするのは理屈上おかしいことではないかもしれない。
でも、ほんとにこんなにたくさんするなんて……。
美弦さんは、ベッドにわたしを横たえ、その隣に寝転がり、わたしを抱きしめながらキスをするのが好きだ。ごはんを終えてシャワーもお互い浴び終えたら、だいたいベッドに横になってこのパターンだ。
美弦さんのキスはきもちがいい。だけど、いつまで経ってもそのきもちよさに慣れない。
ドキドキして、唇がジンジンして……頭がふわふわする。
いまもとろんとしながらキスを受けていると、ようやく美弦さんは顔を離してくれた。
そして、ぽんぽんとやさしく頭を撫でてくれる。
「ようやく週末だな。明日と明後日休みだし、たくさん一緒に過ごそうな。デートもしよう」
「えっ……で、デート、ですかっ?」
免疫のないわたしには、デートという単語だけでも慌ててしまう。
「今度の休みは一緒に過ごすって約束しておいただろう」
「で、でもデートっていうのは初めて聞いたんですけど……」
「まあ、こうして一緒に過ごしてるだけでも、俺にとっては充分デートなんだけどな」
その台詞に、トクンと胸が鳴る。
それは……わたしのことを大事に思ってくれていないと、出てこない発言だと思う。それが伝わってくるから、こんなに胸がときめいてしまうんだ。
「あの……でも、わたし、デートに着ていくような服、持ってないんですけど……あ、スーツでいいんでしたらありますけど……」
もそもそと申し訳なく思いながらそう言うと、美弦さんは、自信満々に言った。
「安心しろ。そのへんも考えてある。おまえはなにも心配せずに、予定だけ開けておいてくれ」
それとも、と、美弦さんはふいに不安そうな表情になる。
「それとも、もう予定が埋まっているか?」
「いえいえ、それはないです! 前もって美弦さんに、休日は一緒に過ごそうって言われてましたから」
「そうか……なんだか強引に話を進めてしまったみたいで、申し訳ないな」
「いえ、かえってはっきり先に言っておいてもらえて、予定が立てやすいです」
美弦さんが安心してくれますように。
そんな思いをこめて笑顔をつくると、美弦さんも、ようやくまた笑顔に戻ってくれた。
「そうか。……ありがとう。やさしいな、あずさは」
「そ、そんなことないですよ。……美弦さんが、わたしのことを大事にしてくださるから……わたしもそれに応えないと、と思っているだけです」
「──そんなこと言うと、歯止めが利かなくなる」
「ひゃっ!」
ぎゅっと抱きしめられ、ちゅっと首筋にくちづけられた。キスともまた違う強い快感に、甘い声が上がってしまう。
次いで、耳元で熱くささやかれた。
「首、弱いんだな」
「そ、そんなこと……っ……ぁんっ……」
ちゅ、ちゅっと立て続けに首の筋に沿ってキスを落とされ、そのたびにびくびくっと身体が震えてしまう。
なにこれ……きもちいい……!
だけど、これ以上身を任せていたら危険な気がする、いろいろと……!
わたしは、必死に美弦さんから離れようと、美弦さんの厚い胸板に手を突っ張った。
「み、美弦さんっ……これ以上は、ちょっと……っ……」
「ダメか?」
ダメかって……!
「ダメですっ!」
勢いよく突っぱねると、美弦さんは淋しそうに笑った。
「そうか。残念だな」
だけど、その次には悪戯っぽい笑みに変わり、続けた。
「でも、いまに自然に俺に身を任せるようになる。おまえは必ずそうなる」
「な、なんの根拠があって……っ……」
「俺が、そう努力するからだ。全力でおまえを振り向かせてみせる」
その瞳は真剣で。そんな美弦さんは、とてもとても魅力的で……わたしは思わず魅入ってしまった。
言われた内容と美弦さん本人とにドキドキしながら指一本動かせないでいると、美弦さんは、今度はやさしく笑ってくれた。
「無理強いは絶対しない。だから、いまは安心して眠ってくれ」
「……はい……」
「明日が楽しみだな。おやすみ」
「はい、わたしも……楽しみです。……おやすみなさい」
顔がこれ以上なく熱くなっていることに気がつき、わたしはシーツを頭からかぶった。
美弦さんって、なんて紳士なんだろう。強引だけど紳士だなんて、反則すぎる。
明日のデートは、いったいどんなものになるんだろう。
ちょっと楽しくなってきながら、わたしは目を閉じた。
***
翌日、昼食を食べたあと、ちょっとゆっくりしてから美弦さんはわたしを連れて家を出た。
車に乗って行く先は、たぶん街かな?
「美弦さん、どこに連れて行ってくださるんですか?」
「おまえ、服のことを気にしていただろう。まずはそこからだな」
「え?」
ちょうど赤信号で停まっている車内で、美弦さんはちらりとわたしを見る。
「俺としてはおまえのそのスーツ姿でも、一緒にデートできるだけでじゅうぶんなんだけどな。おまえはどうだ?」
そう言われてみると……。
「……わたしは……ちょっと、恥ずかしい、です」
「うん。俺としても、おまえの気持ちも準備万端じゃないと、楽しめない。だから、見た目からいくぞ」
「は、はい。でも、あの……貯金を下ろしたいので、その前にATMに寄っていただきたいのですが……」
「もちろん、服の代金は俺がもつからな。デート代もだ」
「いえいえ、そういうわけには……! 服はわたしが、デート代は割り勘です!」
美弦さんは、はぁ、とため息をついた。
「そう言うと思った。この前家具やら日用品やらを買ったときにも言ったが、おまえはもう俺の婚約者だ。婚約者には一流のものに囲まれて過ごしてほしい。身に着けるものも、俺が買う。これは俺のわがままだ。これ以上デート代とか服の代金とか言い出すなら、今日は家でいちゃいちゃデートに変更するが、いいか?」
いちゃいちゃデート……?
「それは、つまり……」
「まだ日も高いが、そんなことは関係なしにおまえを抱く」
「洋服代もデート代もすべてお任せいたしますっ!」
即座に答えてしまったわたしだった。
美弦さんは、苦笑する。
「それだけはっきり拒絶されるのも複雑だけどな。まあ、それもいまのうちだけだ。絶対に振り向かせてみせる」
前を向いて運転しながら、またまた真剣な瞳で宣言する、美弦さん。
そんな顔でそんなことを言われたら、やっぱりドキドキしてしまって仕方がなかった。
美弦さんは、街中の、とあるブティックの駐車場に車を停めた。
助手席から降りたわたしは、ブティック名を見てびっくり。
「あの……ここって、『TUSCANY』……海外にも店舗を出してる有名なブティックとおなじ名前なんですけど……」
だけどわたしの驚きもよそに、美弦さんはさらりと答えた。
「そのとおり。おなじ名前もなにも、ここがその『TUSCANY』の本店だからな」
「ええっ!?」
どうりでいつもはわたしが来たことのない、区を越えた街中にきていると思った……!
改めて気がついたけど、ここは渋谷。当然というか、わたしが住んでいる北区よりもっと都会的だ。おなじ東京でも、全然違う。
美弦さんの家も、わたしが前に住んでいたアパートとおなじ北区にあって、だから引っ越しも楽だったのだけど……。
「美弦さんだったら、もっと都会に家を建てられたんじゃないですか?」
あるときふと疑問に思って聞いてみたら、
「会社が近いところにしたんだ」
と答えられて、納得した。
確かに、社長なんだし、いまの会社には長く勤務するだろう。だとしたら、通いやすい場所に家を建てるのは当たり前のことかもしれない。
笠野財閥の本社は、起業した代の社長が北区に会社を興したのを、ずっと引き継いでいる。もちろん何度もビルを改築したりもしているから見た目も社内もピカピカだけれど、本社はあくまで北区。
だから、美弦さんも北区に家を建てたんだろう。
それはいい。それはいい、のだけれど……。
『TUSCANY』というブティックは、頼めば頭のてっぺんから足の先まで全身コーディネートしてくれる。
ただしもちろんというか会員制で、一般のわたしには無縁のもの。
服を買うという目的だけでも、一流のブランドものしか置いていないし、もうこのブティック自体がわたしとは異次元のものだ。
なのに美弦さんは、わたしを連れて臆することなく、むしろ慣れたふうに店内に入った。
すぐに、四十代くらいの品のいい女性が、にこにこ笑顔で「いらっしゃいませ」と挨拶をする。
店内にはほかにもお客様がいたのだけれど、みんな紳士淑女といった感じのオーラを醸し出していて、一気に緊張した。
スーツ姿のわたし、すごく浮いてる……! しかもこのスーツ、ブランドものでもなんでもない安物、というのが一目瞭然だし……恥ずかしい……!
美弦さんはといえば、Tシャツにジャケットというラフないでたちではあったけれど、ブランドものだというのがわたしでもわかる。
だからさっき車内でも、美弦さんの隣を歩いてデートするにも、わたしだけこのスーツ姿というのは恥ずかしい、と言ったのだけれど……。
美弦さんはその女性に向けて、言った。
「薩摩さん、お久しぶりです。この子をコーディネートしてもらいたいんだけど、いいかな?」
すると女性は微笑ましそうに笑った。
「まあまあ、ついに笠野さまがそう仰るときが来ましたか。全身お任せしてくださってかまいませんか?」
「ああ、かまわない。ただ、髪型については彼女の希望もあるだろうから、そのへんも頼んだよ」
「もちろんでございます」
薩摩と呼ばれた女性は、改めてわたしのほうに向き直って、きれいなお辞儀をした。
「初めまして。薩摩と申します。本日、全身コーディネートをさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「は、初めまして……佐々木あずさと申します……って、全身コーディネートっ……!?」
わたしは、慌てた。
「あの、わたし会員じゃないし予約も取ってないんですけど、大丈夫でしょうか……っ……?」
すると、薩摩さんはふふっとまた微笑ましそうに笑った。
「笠野さまの言いつけですから、ご心配なさらずに。さ、まずはいろいろとそろえましょうか」
「は、はい……」
背中に手を添えられてうながされ、わたしは恐縮しながらも薩摩さんについて歩いた。
こんなことが突然できちゃうなんて、さすが美弦さん、笠野財閥の御曹司だなぁ。
デートを決めたときから予約をしていたのかもしれないけれど、それにしても全身コーディネートの予約は会員でも一ヵ月は待つ、という噂なのに……。そういえばこの『TUSCANY』も笠野財閥と提携していた、とふと思い出して、改めて笠野財閥のすごさを痛感した。