書籍詳細
御曹司の罠はスイーツよりも甘く
あらすじ
イケメン御曹司からの突然のプロポーズ?
ぽっちゃり女子が溺愛されて……
ぽっちゃり体型のせいで自分に自信を持てない由紀のもとに、お見合い話が舞い込む。気乗りせずに向かった先には、お気に入りのスイーツビュッフェで出会ったイケメン御曹司・篠宮の姿が!「由紀は俺のものだから」と一途に愛情を向けられ、胸はドキドキしっぱなし。だけど、異性とのつき合いになれない由紀は、篠宮との釣り合いに悩んでしまい……!?
キャラクター紹介
藤ヶ谷由紀 (ふじがや・ゆき)
スイーツ大好きOL。明るい性格だけど、ぽっちゃり体型がコンプレックス。
篠宮拓人(しのみや・たくと)
篠宮コーポレーションの御曹司。いじらしくてかわいい由紀に惹かれる。
試し読み
緩やかな曲線を描くレンガ造りの道。その奥からは柔らかな明かりが漏れている。
「ここは、フレンチをベースにした創作料理の店でね」
足を踏み入れた店内は、木肌の美しいトネリコを中庭に植え、それを個室で囲む造りらしい。
まるでここが都会の真ん中だということを忘れてしまいそうな、心地よい静謐が漂う店だ。
白いクロスが掛けられたテーブルに、ふたりは向かい合って座る。
食前酒とアミューズを楽しむと、前菜に春野菜のゼリー寄せが、スープに伊勢海老のビスクが出される。そのどれもが繊細で、舌鼓を打つほどに美味しい。
「どう? 由紀の口に合うかな?」
感動のあまり無言になっていた由紀の顔を、篠宮がそっと見つめてくる。
「はい、とっても」
「それはよかった。由紀が楽しんでくれるのが一番だからね」
「でも、今日はどうして一緒に食事を?」
由紀としては、ちょっとした世間話のつもりだった。
──時間が急に空いたから。
とか、
──ちょっとフレンチが食べたくなったけど、ひとりで行くのは嫌だったから。
とか。
しかし、篠宮は珍しく黙り込む。
ややあってから、
「……好きな人と食事をするのに、理由がいるかい?」
「ごほっ!」
いきなりの口説き文句に由紀は喉を詰まらせてしまう。
あまりにストレート過ぎて、どう受け止めていいのかわからない。
「ああ、大丈夫?」
「大丈夫じゃ、ありません……」
咽ながら言葉を返し、落ち着いたところでグラスに注がれた水を飲む。
「し、篠宮さん、とつぜんどうしたんです?」
「とつぜんて? 君は本当にそう思ってる?」
困ったように眉を下げて、篠宮は苦笑を浮かべている。
「俺は、もう何度も君にアプローチしているはずだけど?」
(……そ、それは、付き合ってほしいとか、プレゼント攻撃とか、他にもいろいろされてきましたけど……)
なにかのおふざけだと信じ続け、相手にしない自分がいる。今だって「冗談ですよね?」という言葉が喉元まで出かかっているのだ。
「俺、人一倍忍耐強いって自負してるから。だからもっと君に俺のことを印象づけられないか、真剣に検討中」
どんなに好意を寄せても躱され続けた篠宮は、彼のテリトリー、かつ、人目のつかない別荘地的な場所に由紀を連れ込み、逃げられないようにしたうえで「諦めないよ」と宣言したのだ。
(仁美の予想が当たっちゃった……)
ひとりの男性にお見合いを申し込まれ、スイーツアドバイザーも申し込まれ、さらには食事にも誘われて──。
そんな話を親友にされたら、由紀だって「それ、絶対好かれてるよ!」と答えるはずだ。
なのに、自分のことになるととたんに憶病になってしまう。できることなら恋愛ごとから距離を置き、平凡な毎日に引きこもりたくなってしまう。
……テーブルの上のキャンドルが、ゆらゆらとやさしく揺れている。
「どんなに時間がかかっても構わない。早急な返事も求めない。ただ、君のことを真剣に思っている男がいることだけは覚えていて?」
無理強いをすれば逃げてしまう。そんな由紀の性格をよくわかっているからこそ、ゆっくりと時間をかけて、安心させようとしているのだろう。
「……というわけで、この話はおしまい」
ベルエポックで見せるような、いつもの笑顔に戻って篠宮が言う。