書籍詳細
なぜかエリート御曹司に求愛されました~甘すぎる花嫁修業~
あらすじ
「君が、かわいすぎてつらい」
情熱的なプロポーズ攻撃にとろかされて
叔父の工務店で働く明花里に、大手ゼネコンの御曹司・雅臣とのお見合い話が舞い込む。会社のパーティーで明花里の行動に一目惚れをしたという。戸惑いつつも雅臣の情熱にときめく明花里だが、なぜかそのまま花嫁修業として同居をすることに!? 「俺をもっと知ってほしい」と甘く抱きしめられるが、彼の婚約者だというライバル会社の令嬢が現れて……。
キャラクター紹介
佐脇明花里(さわきあかり)
明るく元気。住む世界が違う雅臣の求婚に戸惑うが、惹かれていく。
東間雅臣(とうままさおみ)
完璧な御曹司。恋愛は苦手だが、真っすぐな明花里に一目惚れ。
試し読み
だが、雅臣は覆い被さるように明花里に近づいてきた。より二人の距離が近づいたように感じて、明花里の胸はドクンと一際高く鳴る。
「やはり、明花里さんは、俺の運命の人だ」
「え?」
「こうして、会話が成り立っている」
「会話っていうか……ただの言い合いというか、なんというか」
「そうだったとしても、俺にとっては新鮮なんだ」
困ったように、だけどどこか嬉しそうにほほ笑む雅臣は、なんだかあどけなくてかわいかった。
竣工祝賀会で明花里に見せた、あのかわいらしい表情と同じで、明花里の胸はキュンと鳴ってしまう。
そういえば、二人きりになった途端、雅臣は自分のことを〝俺〟と言い出した気がする。これが彼の素顔なのだろう。
明花里が特別だと言われているように感じ、ドキドキしすぎて胸が苦しい。息ができない。
どうすればいいのかわからず、明花里は途方に暮れた。だが、目の前の雅臣は未だに明花里に覆い被さるように近づいたままだ。
先ほど注文を聞きに来たギャルソンは、どこに行ったのだろう。
この微妙な雰囲気を感じ取ったのか。ギャルソンは、いつまで経っても注文の品を持ってくる気配がない。
頼りの綱が当てにならないのなら仕方がない。明花里は、雅臣から少しでも離れようと努力しながら彼に問いかける。
「えっと、あの……!」
ジッと明花里を見下ろしている雅臣の視線に耐えき切れず、そっと視線をそらして抗議する。
「ち、近すぎませんか?」
「そうか?」
「そうですよ。ほら!!」
明花里が視線で訴えると、ようやく雅臣も納得してくれた。
「……確かに」
「そうでしょ? 離れてください!」
顔が熱くて火照ってしまう。きっと、真っ赤に染まっているはずだ。
こんなに至近距離にいる雅臣も明花里の顔が真っ赤に染まっていることに気がついているはずである。
明花里に同意してくれたはずの雅臣が、まだ体勢を変えない。
気になった明花里は、そらしていた視線を彼に向けてみる。
「え……?」
すると、雅臣は口に手を当てて顔を真っ赤に染め上げているではないか。
もしかしたら、明花里より恥ずかしがっているのかもしれない。
勢い余って明花里に近づいたものの、ようやく自分が何をしているのか気がついたのだろう。
恥ずかしさを必死に堪えているように見える。
明花里が雅臣を見ていることに、気がついたのだろう。今度は雅臣が明花里から視線をそらした。
「やっぱり……俺にはハードルが高すぎたか」
「え?」
雅臣の言葉の意図がわからず、疑問の声を上げる。
雅臣は小さく首を横に振ったあと、ようやく身体を起こして明花里から離れてくれた。
話をする状況になったことに安堵した明花里は、ソファーに背を預けて頭を掻いて困り果てている雅臣に抗議する。
「あの! お見合いの話なんですが。なんだか飛躍しすぎていて、ついていけないんですけど」
「……そうか?」
「そうです!!」
しらばっくれようとする雅臣に対し、明花里は自分の両手を握りしめて言い切った。
雅臣は顔を明花里に向け、真剣な表情で聞いてくる。
「じゃあ、どうすればいい?」
「え?」
そんな返しをされるとは思っていなかった明花里は、目を丸くする。
パチパチと瞬きをしていると、彼はソファーに右手をついて身体を支えながら、再び明花里に近づいてきた。
今度は、顔と顔が異様なほど近くなってしまった。
その瞬間、ドクンと胸を高鳴らせた明花里に、雅臣はズイッとより顔を近づけてくる。
キスでもしてしまいそうな距離感に、明花里の頬はだんだんと熱くなってしまう。
明花里の羞恥の理由にも気がつかない様子の雅臣は、真面目な顔で言い切る。
「一応、俺は正攻法で攻めたつもりだ」
「正攻……法?」
「そうだ」
深く頷く雅臣を見て、明花里は大いに慌ててしまう。
「どこが正攻法なんですか?」
「どこが違うというんだ?」
「どこもかしこも、ですよ! お見合いっていうのは、顔合わせみたいなものなんです。ご趣味は? とか、お仕事は? とか。お互いのことを知るための第一歩みたいなものなんですよ」
「ああ」
必死に説明をする明花里を見て、雅臣は短く返事をする。
見合いの内容はわかっているようなので、明花里はさらに言い募った。
「そんな場所に、結納品が置いてあるなんておかしいでしょう!! 結納は婚約するときにするものであって、お見合いの席でするものじゃありません」
ハァハァと息を切らしながら力説すると、雅臣は神妙な顔つきで深く頷く。
「確かにその通りだ」
「そうでしょ!!」
ようやく話が通じたことに喜びを感じてしまう。
雅臣が納得してくれたのなら、話は早い。さっさと先ほどの料亭に戻り、両親たちの説得を試みよう。
明花里は雅臣に提案しようとしたのだが、その声は彼の真剣な声に遮られてしまう。
「結納の件については君の言うことが正しいのだろう。では、どうしたらいい」
「え?」
明花里を情熱的な目で見つめてくる雅臣に胸が高鳴ってしまい、それ以上は何も聞けなくなってしまう。
目を見開いたまま固まる明花里に、雅臣は懇願するように続けた。
「君に結婚を申し込むには、どうしたらいい?」
「で、ですから!」
「見合いのあと、すぐに結納をして婚約にこぎ着けたいと必死な俺はどうしたらいい?」
「そ、そんなこと……!!」
こちらに聞かないでほしい。なんと答えていいのかわからないじゃないか。
先ほどの逆。今度は雅臣の方が言い募ってきたのだ。
「君に一目ぼれした俺は、あのあとどうしたら君に近づけるか。側にいるためにはどうしたらいいのか。そんなことばかりを考えていた」
「っ!」
「竣工祝賀会で、ふと漏らしてしまった自分の弱みを笑いもせず、それどころか励ましてくれた。そんな君が好きだ」
息が止まるかと思った。
こんなふうに気持ちを正面からぶつけてくる人に、初めて会った気がする。
それも、好きだと異性から告白されるのは初めてだ。
バクバクとあり得ないほどの心音に、すぐ側にいる雅臣に聞こえはしないか。そんな的外れな心配をしてしまうほどに、明花里は頭の中が真っ白になってしまった。
ただ雅臣を見つめることしかできない明花里を見て、彼はもう一度噛みしめるように告白してくる。
「君が……明花里さんが、好きだ」
「雅臣……さ、ん」
震える唇で彼の名前を紡ぐと、雅臣はフッと表情を和らげてくる。
「俺がこんなに夢中になったのも、どんな手を使ってでも側にいてほしいと願ったのも……君だけだから」
「っ!」
「なりふり構わずで申し訳ない。しかし、俺にはこれしか……できない。ただ、君が欲しい。そして、君に俺の気持ちが伝わってほしいんだ」
何も言えなかった。彼の気持ちが、スッと胸に溶け込むように入り込んできて切なくなってくる。
それと同時に、頬がますます熱を帯びていくのが自分でもわかった。
明花里が何も言えず固まったままなのを見て、雅臣は気を取り直したように告げてくる。
「今日の見合いが正攻法ではないと言うのなら、何が正攻法なんだ?」
「え?」
「教えてくれ」
「教えてくれって……」
そんなの明花里だってわからない。
明花里は今まで男性とお付き合いしたこともなければ、こんなふうに異性に告白されたことは皆無だからだ。
雅臣の言う通り、恋の正攻法とは一体なんだろう。どんなものだろうか。
恋愛初心者である明花里には、口に出して雅臣を諭すことはできない。
返答に困っていると、雅臣は何かを思い出したように明花里に聞いてくる。
「それでは、これならどうだろう?」
「な、なんです……っんん!!」
目の前には、雅臣の長い睫が見える。彼が目を瞑った顔は、妙に色気が醸し出されているように思う。
だが、今の明花里はそれどころではない。唇に当たる、柔らかく温かい感触。これは、雅臣の唇ではないだろうか。
「ふっ……んん」
雅臣は何度も何度も啄むように唇を重ねてきて、明花里は甘い吐息を漏らしてしまう。それがまた、自分の羞恥心をかき立てていく。
その間も目を閉じることができず、そして身を捩ることもできず。ただ、雅臣からの口づけに翻弄され続けていた。
ようやく雅臣が視界から遠のくと、甘く淫らに身体が震えていることに気がついた。 そこでハッと我に返ったのだが、言いようもないほど恥ずかしい。
同時に、どうして雅臣が急にキスをしてきたのか。理解できなかった。
今のキスが、明花里にとってのファーストキスだ。
まさか、こんな形でファーストキスのタイミングがやってくるなんて思ってもみなかった。
ファーストキスを返せ! そんなふうに叫びたいのに、明花里の唇は震えているだけで声が出てこない。