書籍詳細
俺様パイロットの極上溺愛
あらすじ
イジワルなパイロットと甘い溺愛飛行!? マーマレード文庫創刊3周年 SS特典付き!
新人グランドスタッフ・心には贅沢な悩みがある。それは、皆が憧れるイケメンパイロット・栄治からの猛アプローチ。甘く誘惑してくる栄治に対し、モテる彼が自分に本気なわけがない、と素直になれない。けれど、心の母を栄治が助けてくれたことをきっかけに、二人は急接近! 彼に抱きしめられ、キスをされ、濃密な求愛に心の気持ちも陥落寸前で…!?
キャラクター紹介
浅見 心(あさみ こころ)
空港で働く新人グランドスタッフ。まだまだ半人前だが持ち前の笑顔で頑張っている。
杉ノ原栄治(すぎのはらえいじ)
心と同じ空港に勤務する、通称「パイロットの王子様」。溺愛猛攻で心を翻弄するが…。
試し読み
本当にこんなに素敵な人が私の彼氏なんだ。そう思えば思うほど、幸せな気持ちで満たされると同時に、やっぱり不安になる。
私は彼に見合っているのだろうかと。杉ノ原さんがあまりに素敵すぎて自信が持てない。
「あの、杉ノ原さん」
「ん? なに?」
歩きながら、帰ってきたら話し合おうと言っていたことを切り出した。
「私だって本当は、杉ノ原さんと付き合っていることを周りに言いたいんです」
「えっ?」
驚いた声を上げると杉ノ原さんは足を止めた。
私も足を止めて、彼を見つめる。
「両想いになれてすごく浮かれていますし、杉ノ原さんが彼氏だって自慢したいです。でも私、自分に自信がなくて。だから待ってもらえませんか? 杉ノ原さんの彼女として恥ずかしくない自分になれるまで」
今の私は仕事も人間的にもすべてが半人前だ。
グランドスタッフとして早く一人前になって、すぐ可愛げのないことを言っちゃったり、素直になれなかったりするところを直して。
そうやってひとつずつ成長することができたら、自分に自信が持てると思う。
「今の私ではきっと、どうしてあの子が杉ノ原さんの彼女なの? って言われてしまうと思うんです。それを言われなくなるまで、待ってほしいんです」
必死に自分の気持ちを伝えると、杉ノ原さんは俯いて深いため息を漏らした。
「えっと……杉ノ原さん?」
怒らせちゃったかな?
表情を見たくて首を傾げると、いきなり腕を掴まれた。
「きゃっ!?」
そのまま引き寄せられ、たどり着いた先は杉ノ原さんの腕の中。
突然のハグにびっくりして声も出ない。すると杉ノ原さんは私を抱きしめる腕の力を強めた。
「なんで心はそんなに可愛いの?」
「え? ……えっ?」
私、可愛いと思われるようなことを言った?
身に覚えがなくてパニックになる私に杉ノ原さんは続ける。
「周りがなんて言おうと、俺は心が一番可愛いと思っているし、素敵な女性だと思っている。それになにかあったら、俺が全力で守ってみせるよ。……でもきっと、心が言いたいのはそういうことじゃないんだろ?」
ゆっくりと身体は離され、大きな手が頬に触れた。杉ノ原さんは私と目線を合わせるように屈む。
「早く一人前のグランドスタッフになって、成長して自分に自信を持ちたいんだよな」
すごいな、杉ノ原さんは。私の気持ちをちゃんと汲み取ってくれる。そういうところも好きだとますます思うよ。
「……はい」
返事をすると、杉ノ原さんは口元を緩めた。
「心のそういうところを好きになったんだ。わかった、待つよ。それまでは親しい人だけに留めておこう」
「ありがとうございます」
私の気持ちが届いて嬉しくなる。よかった、素直な思いをぶつけて。
「もちろん心のご両親には報告したよな? でないと俺、大将の料理を食べに行けない」
「あっ、そうですよね」
杉ノ原さんはうちの店の常連のお客さん。私も時々お店を手伝っているわけだし、彼が来店したら間違いなく母に店に出るよう言われる。
そうなったら両親の前で今までのように振る舞える自信がない。好きって気持ちが顔に出ちゃいそう。
そうなると、照れくさいけど早く両親には言ったほうがいいのかも。
そんなことを考えていると、杉ノ原さんは疑うような目を私に向けた。
「もしかして心、まだご両親に俺たちのことを言っていないのか?」
「えっ!? いや、その……はい。タイミングがなかったといいますか」
苦し紛れの嘘をつくと、杉ノ原さんはすかさず言った。
「ご両親にも隠したいのか? 俺と付き合っていること」
隠したい? ううん、そんなことない。むしろ両親は大喜びするだろう。
「いいえ、隠したくないです。ただ、からかわれるのが面倒なだけで」
両親はきっとなにかと茶化してくるだろうから。
理由を口にすると、杉ノ原さんは目を見開いた後に笑い出した。
「からかわれるって……そっか、心のご両親だもんな。俺はてっきり、俺が彼氏だとご両親に言うのが嫌なんだと思った」
「それは絶対にないです! さっきも言ったように、杉ノ原さんが彼氏だって自慢したいくらいなんですよ? 両親に知られたら、杉ノ原さんも覚悟をしておいてくださいね? うちの両親、ものすごく騒ぎ立てると思うので」
その時の情景が容易に想像できるもの。
「わかったよ、覚悟しておく」
再び抱きしめられ、温かなぬくもりをもっと感じたくて私も彼の背中に腕を回した。
さらに密着する身体に、ドキドキしていることが伝わってしまいそうで怖い。でもそれ以上に幸せな気持ちで満たされていく。
人目も気にならなくなるほど杉ノ原さんのぬくもりに酔いしれていると、頭上からまたため息が聞こえてきた。
「この後、心が喜びそうなレストランに連れていこうと思ったけど、無理そうだ」
顔を上げると、いつになく余裕ない顔で私を見る彼と目が合う。
「今すぐ心に触れたい」
「え? あっ」
ドキッとするようなことを言われた瞬間、視界いっぱいに彼の端整な顔が広がり目を見開いた。
嘘、私、杉ノ原さんとキスしてる?
びっくりして瞬きもできない間に、ゆっくりと彼の唇が離れていく。
初めてキスしちゃった。それも杉ノ原さんと。
初めてのキスに思考が停止。
なんか、初めてのキスはもっとこう、ロマンチックな場所や雰囲気を想像していたから、気持ちが追いつかない。
茫然としていると杉ノ原さんは私の手を取り、足早に歩き出した。
「行こう」
「行くって? あの」
「俺の家。近くなんだ」
杉ノ原さんの家!? ちょっと待ってください。さっきのキスといい、家に行くということは、つまりそれ以上の行為に及ぶんですよね!?
急展開に慌てふためく。だけど杉ノ原さんも余裕がないのか、そんな私にいっさい気づいていない。
私に触れたくて、そうなっているの? いつも落ち着いていて、余裕があって、些細な変化にも気づいてくれていたのに。
そう思うと胸が熱くなる。
決して杉ノ原さんに触れられるのが嫌なわけじゃない。むしろ嬉しい。ただ、緊張しちゃうだけ。それに怖いって気持ちもある。
でも繋いだ手から伝わってくる熱を通して、もしかしたら彼も同じ気持ちなのかも……と思うと、私も杉ノ原さんに触れたいって思う。
私の自宅から近い距離にある高層マンション。急ぎ足でエントランスを抜けると、豪華なロビーが広がっていた。
カウンターにはコンシェルジュと思われる人物がふたりいて、通り過ぎる私たちに深々と頭を下げた。
想像以上に杉ノ原さんはすごいところに住んでいるようだ。
エレベーターホールでボタンを押すと、すぐに扉が開いた。
乗ると杉ノ原さんは私を壁に追いやり、最上階のボタンを押しながら性急に唇を塞いだ。
「んっ……」
さっきの触れるだけのキスとは違い、貪るような荒々しいキスに声が漏れてしまう。
「心、口開けて」
「そんなっ……無理です!」
「俺も無理。もっと心を味わいたい」
背中のラインを撫でられ、ゾクリとなる。
もしかして杉ノ原さんは、私が恋愛初心者だって知らない? それもそうだ、だって彼に話していないもの。
その間も杉ノ原さんは額や瞼、首筋と至る所にキスをして、再び唇を塞ぐ。
「心、早く口開けて」
だめだ、もう色々と容量オーバーだよ。
「無理です、無理です! だって私、さっきのキスが初めてですもん!!」
羞恥心を捨てて打ち明けると、杉ノ原さんの動きはピタッと止まり、目を丸くさせた。
そうですよね、驚きますよね。この歳になって経験がないなんて。
「キスだけじゃありません。恋をしたのも初めてなんです。……杉ノ原さんが私の初恋なんです」
きっと杉ノ原さんは経験豊富だろうし、いつかはバレること。だったらと思い、ヤケになってすべて打ち明けた。
ちょうど最上階に着き、扉が開く。すると杉ノ原さんはなにも言わず私を抱き上げた。
「きゃっ!?」
突然宙に浮いた身体。怖くて咄嗟に彼にしがみつく。杉ノ原さんは軽々と私を抱き上げたままエレベーターから降りた。
「あの、杉ノ原さん?」
「黙って。今、必死に理性を保っているんだから」
「えっ?」
ある部屋のドアの前で足を止めると、数字を打ち込み、最後に指紋認証をすると鍵が開いた。
広々とした玄関に入ると、器用に私のパンプスを脱がせて廊下を突き進んでいく。
寝室に入ってベッドに私を下ろすと、すぐに彼が覆い被さってきた。
月の光が差し込む室内に目が慣れてきた頃、杉ノ原さんの大きな手が私の頬を包み込んだ。
「全部俺が初めてなの?」
どこか震える声で聞かれた言葉。
恥ずかしいけど、全部杉ノ原さんが初めて。
コクリと頷くと、苦しいほどに抱きしめられた。
「なにそれ、すごく嬉しい」
「嬉しいんですか?」
思わず聞き返すと、杉ノ原さんは「当然だろ?」と言う。
「心も身体も、全部俺のものってことだろ? そんなの嬉しいに決まってる。もちろんこの先も俺ひとりだけのものだからな」
「んぁっ」
耳朶を甘噛みされ、自分のものとは思えない甘い声が漏れて恥ずかしくなる。
「可愛いな、今の声。もっと聞かせて」
「そんなっ……!」
恥ずかしいのに、無理だよ。
首を横に振って訴えるものの、どこか彼は嬉しそう。
「心がそうやって恥ずかしがると、ますます意地悪したくなる」