書籍詳細
極上彼氏と秘密の甘恋~出会ってすぐに溺愛されています~
あらすじ
「もっと、僕だけを欲しがって」
この彼氏、秘密も溺愛も最高に甘い♡
奥手で恋愛経験がないのどかは、あるきっかけで隼人と携帯でのやり取りによるお付き合いを始める。文字や声から溢れ出る隼人の誠実な優しさに惹かれ、初デートをすることに。隼人の完璧なエリートの一面と暴漢から護ってくれた凛々しさにときめく。更に情熱的な瞳で「君のこと、大事にする」と甘く囁かれ…。幸せ一杯の二人だが、隼人には秘密が!?
キャラクター紹介
手塚のどか(てづかのどか)
可愛い癒し系だが、芯は強い。何かを隠している隼人を信じると決める。
新甫隼人(にいほはやと)
仕事もエスコートも完璧なエリート。のどかと出会って本当の恋を知り、彼女を溺愛する。
試し読み
季節は、春へと近づいていく三月。隼人と知り合ってからひと月以上が経過していた。
満月の夜からはメッセージと通話を使い、二人の距離はググッと縮まっている。
これだけ距離が縮んだのだからと、お互いのプロフィールを明かすことにした。
新甫隼人、三十一歳。のどかより六つ年上だという。
落ち着いた大人の雰囲気を醸し出していたのも頷けるというものだ。
彼は、ネット銀行勤めのサラリーマン。ごく一般人だと聞いて、ホッと胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。
メッセージだけを送り合っていたときにも、少しずつだが彼の私生活は見えていたがアプリ通話の方が断然情報量が増えてくる。
隼人ものどかと同様で、インドア派。お家時間を楽しむのが好きらしい。
休みの日は、朝ご飯と昼ご飯を兼用で近くのカフェへと出向いて食べたあと、本屋か図書館に行くことが多いという。
本をゲットしたあとは、すぐさま家に戻って読書をするらしい。
本のジャンルは多岐にわたるらしく、色々な情報を取り込むのが好きなんだとか。
流行の小説にも手を出すし、経済、政治関係の本、時には料理の本にも手を伸ばす。
「本に関しては雑食なんだ」とは、隼人の談である。
少しずつ隼人のことを知っていき、少しずつのどかのことを知ってもらう。
その作業は思った以上に楽しくて、嬉しくて、心が弾んでしまう。
のどかは、部屋の時計に視線を向けた。
短針は十時を指している。そろそろ、隼人から連絡が来るはずだ。
電話で話すのは、毎日ではない。お互い仕事が忙しいときもあるし、お付き合いだってある。
だから、その日の夜が空いているときは、昼間のうちにメッセージを送り合って確認を取るようにしていた。
今夜はどちらも定時帰りだったので、電話をする予定を入れている。
二十二時のアラームと共に、スマホが着信を知らせてくる。隼人からだ。
「こんばんは、隼人さん」
『こんばんは、のどかさん。今日も、お疲れ様』
「ありがとうございます。隼人さんもお疲れ様でした」
『うん、ありがとう。のどかさん』
柔らかく優しい声。隼人の声はヒーリングミュージックを聴いているかのようで癒やし効果があるに違いない。
ウットリとしながら彼の声に耳を傾け、今日の出来事を話し始めた。
隼人と電話で話すのは、今ののどかにとって大切な時間となっている。彼と話すたびに、もっと彼のことが知りたくなる。そんな欲求と戦うのに必死だ。
隼人ものどかと同様で、この会話を楽しんでくれていたらいい。そう願わずにはいられない。
ふと気がついたのだが、どうやら隼人はベランダでこの電話をしている様子だ。時折風の音が聞こえる。
そのことを指摘すると、彼は『のどかさん、当たり』と言って笑う。
「この前の電話で話していた、ベランピングですね?」
『そうだよ。今はウッドチェアに座りながらコーヒーを飲んでいるよ』
「夜はまだ寒くないですか?」
『それが、意外と大丈夫なんだ。囲いもあって直接は風が当たらないし。今夜は日中暖かかったしね』
隼人は基本インドア派なのだが、最近はちょっとベランピングに嵌まっているらしい。
自宅のベランダで行うので、ある意味インドアとも言える。
ベランピングとは、自宅のベランダにアウトドア空間を作るものだ。
だが、ベランダにある程度の広さがないと、さすがにベランピングはできないはず。
よほど広いマンションに住んでいるのだろうと隼人に聞いたら、笑って教えてくれた。
「僕が住んでいるマンションは、叔父夫婦の持ち物なんだ。賃貸に出していたんだけど、なかなか住み手が見つからなくて。勿体ないから貸してやると言われてね。ありがたく貸してもらっているんだ」
なんでもファミリーサイズのマンションらしく、ベランダはまあまあの広さがあるらしい。
叔父夫婦は隼人とは反対でアウトドアが好きらしく、キャンプ道具が色々と揃っているという。
それを引っ張り出して、隼人がベランダで使っているようだ。
夜、ランタンの明かりをつけて、ウッドチェアに腰掛けながらビールを呑むのに嵌まっているという隼人。なかなかに、そそられる趣味だ。
それにしても、それほど広いベランダがあるのなら、家庭菜園をするのもいいだろう。
のどかが住むマンションでは、プランターを二つ置くだけで精一杯だ。
そう隼人に話すと、彼はどこか探る様子で聞いてきた。
『一度……ベランピングをしに、僕の家に来てみませんか』
まさか、という気持ちになったのどか。ドクドクと心臓の音がうるさい。だが、同時に嬉しさでいっぱいになる。
隼人の声を聞くことが日常となり、彼の声が聞けないと寂しくて辛い。
そんな心情になるようになった今、目と目を合わせて隼人と話したい。そう強く思っていた。
それはきっと、隼人も同じ気持ちだったのだろう。だからこそ、こうして緊張した様子で会わないかと打診してきたのだと思う。
ここ最近、のどかと隼人は打ち解けてきて敬語が抜けてきていたのに、久しぶりに敬語を使っていて、声もどこか硬い。彼が、緊張しているのがよくわかる。
隼人が息を呑んだ。それをスマホ越しに聞き、のどかは胸がキュンと切なくなった。
『のどかさん、聞こえている?』
「聞こえています……」
『どうかな……? まだ、僕と会うのは怖いかな? それとも、会いたくない? 二人きりで会えないなら、真凜を誘おうか?』
切なそうに、そして苦しそうに言う隼人に、のどかは慌てて首を横に振る。
「そんなこと思っていません!」
『のどかさん?』
「会いたい……です。隼人さんに、二人きりで」
必死に訴えたあと、ジワジワと恥ずかしさが湧き上がって顔が熱くなった。
自分がとても大胆なことを言っていることを自覚し、ますます羞恥に苛まれる。
今が通話でよかった。実際に会っていたら、この真っ赤に熟れ上がっている顔を見られてしまっただろう。
男性に対して、こんなふうに会いたいなどと懇願したことは一度もない。
それだけ、のどかの中で隼人は特別な存在になっているのだ。
のどか自身、そんな自分の心境の変化がこそばゆくも感じるが、喜びでいっぱいになる。
電話越しでも、のどかが照れまくっていることがわかったのだろう。
隼人は小さく笑ったあと、「じゃあ……」と切り出してくる。
『明日、予定がないようだったら遊びにおいで』
「……はい」
詳しいことはあとでメッセージを送るからと隼人に言われ、通話は切れた。
のどかは力が抜けて、ポスンとクッションに顔をつける。この数分のやり取りが、あまりに濃密すぎて放心状態だ。
何も考えられなかったのどかだったが、手にしているスマホが震えてディスプレイを確認する。
送信者はもちろん隼人。メッセージを確認すると、明日の待ち合わせ場所や時間などが記載されていた。
それを見て、だんだんと嬉しさが込み上げて胸が躍る。
「リアル隼人さんに、会うんだ……私」
会ったことがない男性。真凜――会社の後輩の従兄ということだけしか知らなかった人と一度も顔を合わせることなく、メッセージアプリを使ってのやり取りをし続けるという間柄だった二人。
そんな二人がメッセージのやり取りから好意を持ち、もっと相手のことを知りたいという欲求が加速していった。
声が聞きたいという欲求が叶ったら、今度は会いたくなる。
プロフィールや趣味、考え方。そういったものはメッセージや通話でも得ることはできる。だが、やっぱり会いたい。その欲求は、日ごと増えていく。
一度、仕事で失敗してしまって落ち込んでいたとき、隼人はただ静かに話を聞いてくれた。情けなくて悔しい思いをしていたのどかに、慰めるでもなく、かといって説教めいたことを言うわけでもなく。ただ、包み込むような優しさで話を聞いてくれた。
何も言わない隼人に、「どうして何も言わないんですか?」と聞いたのだが、彼は柔らかい声で言ったのだ。
『のどかさんは、どうすればよかったのか。これから、どうするべきか。誰かに言われなくてもわかっている。だからこそ、僕からアドバイスすることはないかなって思ったよ。ただ、一つだけ言わせてもらうとしたら……僕はいつでものどかさんの味方でいたいし、話を聞くことはできる。それだけは忘れないで』
と言ってくれた。慰めるでもなく、同情するでもない。ただ、のどかを信用して見守ってくれているのがわかって嬉しかった。
隼人は、常にのどかの気持ちを大事にしてくれている。そして、のどかが困っているときは、すかさずアドバイスをして新しい視点で物を見ることを教えてくれた。
そういうことの積み重ねが、のどかの中で隼人の信頼度を高めていったのだ。
しかし、会わなければわからないことはたくさんある。容姿だってそう、その人の持つ空気感だって大事だ。
何より、相手の熱量を知りたい。そう願ってしまっていた。
隼人がこうして会いたいと誘ってくれたということは、のどかと同じ気持ちを抱いてくれていたのだろう。それがまた嬉しい。
のどかの願いが届いたように感じて、ますます顔がにやけてしまう。
約束をしたときには思いつかなかったのだが、心配もある。面識がない男性の家に遊びに行っても大丈夫だろうか。
隼人を信じてはいるし、彼は真凜の従兄で身元はしっかりとしている。だけど、もしのどかが思い描いていた人ではなかったらどうしようかと不安が押し寄せてきた。
「ううん、大丈夫だよ。隼人さんは、怖い人じゃない。それに、真凜ちゃんの従兄だって聞いているし。うん、大丈夫」
少々の不安はあるものの、やはり隼人と会えるという嬉しさには勝てない。
嬉しくなってゴロゴロとラグを転がっていたのどかだったが、ハッと我に返って飛び起きた。
「そうだ……どうしよう」
隼人と会えることに高揚していたが、不安は募るばかりだ。
送られてきたメッセージに、しっかりと目を通す。
明日の午前十一時に、隼人のマンション最寄りの駅が待ち合わせ場所に指定されていた。
のどかのマンションと同じ路線の駅で、意外に近くに住んでいたことが判明。だが、今はそれどころではない。
外で待ち合わせなどをしたら、良之助に見つかる可能性が高くなる。
今まではメッセージアプリを駆使して隼人と連絡を取り合っていたから、良之助に見つからずに済んでいた。
だけど、外で二人一緒のところを見られでもしたら……いつもと同じ残念な結果になってしまうだろう。
だからと言って、隼人と会うことを止めたくはない。
少しずつ距離を縮めてきて、リアル隼人に会いたいと願うほどになったのだ。それも、男性に苦手意識があるのに。
のどかにとっては、天地がひっくり返るほど大きなことだ。
良之助のことがあるとはいえ、隼人と会わないなどという選択肢は選びたくない。
「どうしよう……」
隼人から送られてきたメッセージをジッと見つめる。
とにかく良之助に見られなければ、隼人との仲を知られることはないはず。
良之助は、のどかがまさかこんなに大胆な行動を取るとは想像さえしていないだろう。
極力二人一緒にいるところを見られなければいいのだ。
待ち合わせは駅になっていたが、隼人にマンションの住所を聞いてマップアプリを使って直接行けばいい。
お昼ご飯は、のどかが持っていけば外に出る必要もない。
のどかは隼人にメッセージを送り、住所を聞く。
すぐに住所とマップデータを送ってくれたが、『それでも迎えに行くよ』という隼人を必死に説得をする。
この近所にちょっと用事があるので寄ってからお邪魔したいと言うと、隼人はようやく折れてくれた。
嘘をつくのは心苦しいが、それでも隼人との縁を潰されないためには必要な嘘だ。
頑なな姿勢を崩さないのどかだが、隼人は優しい言葉をかけてくれる。
『もし、迷ったりしたら必ず連絡をしてくれる?』
後ろめたさはあるが、隼人の心遣いが嬉しい。
のどかは『わかりました。明日楽しみにしています』とメッセージを送ったあと、すぐさま冷蔵庫を覗き込んだ。
隼人が「外に出かけてご飯を食べよう」と言い出さないように、前もってお昼ご飯を持っていく算段である。
会社帰りにある程度買い物をしてきてよかった。簡単ではあるが、なんとかお弁当は作れそうだ。
下ごしらえをし、あとは朝仕上げをすれば大丈夫だろう。ようやくホッとしたのどかだったが、やっぱり緊張は継続中だ。
どんな人なんだろうか、と想像しただけで気もそぞろになる。
隼人のことも気がかりだが、その前にまずはのどか自身がどう見えるかが気がかりだ。
少しでもいい印象を隼人に持ってもらいたい。そのためには、どうしたらいいのだろうか。
明日着ていく服を決めるためにクローゼットの服をひっくり返してコーディネートをしたあと、お風呂に入って念入りに身体を磨く。
ちょっと疲れ気味の肌に気合いを入れるべく、奮発して買った美容液シートを使ってパックをした。
やれることはやったつもりだが、明日のことを考えると眠れそうにもない。ドキドキしすぎて、どうしたらいいのかわからないほどだ。
何度も寝返りを打ち眠れぬ夜を過ごしたのどかだったが、朝の光が部屋に差し込んだことで目が覚めた。
寝足りない感じも否めないが、身体はシャッキリしている。これから隼人に会うから、緊張しているせいだろう。
お弁当を作り終えて身支度を済ませたのどかは、冷静になれと自分に言い聞かせつつマンションを出た。
あまり浮かれた様子でいたら、神出鬼没な良之助に見つかって不審がられる。
尋問されたら、どうしたって逃げることはできない。何もかもが終わってしまう。
今までは泣き寝入りをしていたが、今回だけはそんなことにはさせない。
良之助に楯突いたとしても守りたい縁。それを、隼人に感じているからだ。
持っていた大きめのトートバッグの持ち手をギュッと握りしめ、のどかは決意する。
「何があっても、絶対に諦めない!!」
今までにない自分を見つけ、のどかは意気揚々と隼人のマンションへと急いだ。
「……ここ、なんだよね?」
想像以上のマンションに度肝を抜かれたのは、良之助の監視にひっかからないように気配を消して――と、言っても気持ちだけで消えてはいないのだろうけど――辿り着いたマンションを見たからだ。
スマホを取り出し、昨夜隼人が送ってくれたマップを確認する。
場所も間違っていなければ、マンションの名称も間違っていない。ここに隼人が住んでいるのだ。
何階建てなのだろう。所謂高層マンションというやつだ。
中をチラリと見てみる。そこにはコンシェルジュもいる様子で、とにかくラグジュアリー感が半端ない。
一瞬、頭に過ったのは、隼人がハイソサエティな育ちではないかということ。のどかが敬遠している上流社会の人物の可能性が浮上してきた。
だが、その考えを払拭するように頭を大きく横に振る。
このマンションは、彼の叔父夫婦の持ち物だと言っていた。もしかしたら、彼の叔父がお金持ちだという可能性が高い。
隼人は、そのマンションを借りているだけ。彼は、ごく普通のサラリーマンだと言っていた。だから、大丈夫だ。
のどかは、自分にそう言い聞かせた。失いたくなかったのだ。隼人との穏やかな時間と、そして、この胸のときめきを。
「私……隼人さんに、恋しちゃっているんだろうな」
彼に会ったことはない。ただ、メッセージアプリで他愛のない話をしていただけ。
それに通話も加わり、彼の声を聞いて心をときめかせていた。
彼からメッセージや通話が来るのがとても楽しみで、毎日がキラキラと輝いていたのはきっと……彼に恋をしてしまったから。
大丈夫だ。隼人はごく普通のサラリーマンだ。のどかと同じでインドアを好み、ごく普通の生活をしている成人男性に決まっている。隼人がそう言っていたのだ。間違いない。
のどかは大きく頷いたあと、ラグジュアリーなマンションへと足を踏み入れた。
「ああ、間違いない。それで通しておいて。……ああ、そうだ。うん、いいね。それで作成しておいてくれるかな?」
少し離れたところで男性が電話をしているようだ。時折、声が聞こえる。
どうやら仕事の話をしているようだ。とても素敵な男性で尚且つ声が魅力的。そして、仕事がデキる男性といった様子である。しかし、どこかで聞いたことがある。もしかして――。
なかなか男性から視線をそらすことができないのどかと、電話を終えた男性と視線が絡み合う。
一瞬不思議そうな表情をした男性だったが、柔らかい笑みと共に口を開いた。
「のどかさん?」
その男性はのどかの元までやってきて、嬉しそうに目尻に皺を寄せた。
「こうして会うのは初めてですね、のどかさん」
「隼人さん、ですか?」
「はい、隼人ですよ。のどかさん」
ニッコリとほほ笑む彼は、極上の男性だった。想像以上のかっこよさだ。
百八十センチはあるであろうスラリとした体躯に、甘いマスク。柔らかくほほ笑む彼に、誰しもが視線を向けてしまいそうだ。それほど、隼人は魅力的な男性だった。
艶がある黒髪は緩やかなウェーブがかかっていて、前髪は少し長めでサイドに流している。王子様のような隼人に、のどかは目が釘付けになってしまう。
不躾に見つめ続けてしまっていたのどかだったが、隼人の心配そうな声でハッと我に返った。
「のどかさん? 大丈夫ですか?」
「えっと、はい。大丈夫です」
大丈夫だと自分に言い聞かせる。そうでもしていなければ、どうなってしまうかわからなかったからだ。
のぼせ上がって動けない自分を叱咤し、のどかは緊張しながら隼人と向き合う。
「こんにちは、隼人さん。えっと……初めまして」
メッセージアプリや通話でのやり取りなら普通にできるのに、こうして会うとなかなか上手くいかない。
いや、隼人が思った以上に素敵な男性だったからだろう。これはもう、不可抗力だ。仕方がない。
ドキドキしすぎて叫んで逃げたくなる自分を抑え込み、のどかは顔を赤らめた。
すると、目の前の隼人もなぜか頬を赤らめて視線を泳がせている。
「隼人、さん? どうか、されましたか?」
一歩彼に近づいて顔を覗き込むと、より顔が真っ赤になった。
「……ごめん、のどかさん」
「え?」
「メッセージアプリでやり取りするうちに、のどかさんに会いたくて仕方がなくなって」
「えっと、はい」
コクコクと頷く。のどかも同じ気持ちだったからだ。
そんなのどかを、隼人はまっすぐに見つめてくる。その目がとてもセクシーで、のどかの胸は一気に高鳴ってしまった。
視線をそらしたくても、なぜか見つめてしまう。隼人の目を見つめ続けるのどかに、彼は口をモゴモゴとさせながら言葉を発した。
「会うまでは、色々と想像していたんだ。穏やかでしっかりとした人だから、楚々とした雰囲気なんだろうか。髪はショートか、ロングか。背丈はどれぐらいとか。服の趣味はどんなだろうか、と」
「はい」
これも、のどかと一緒だ。
隼人はどんな人なんだろう、と色々と想像していた。だが、その想像より遙か上をいくかっこよさに度肝を抜かれてしまっている。
しかし、隼人はのどかを見てどう思ったのだろう。想像していた女性像ではなく、がっかりしていないだろうか。
今日の装いは、極めてシンプルだ。デート服といった感じではない。
ベランピングをするために、隼人のマンションにやってきたのである。
動きやすい格好がいいだろうと、カーキカラーのショート丈トレンチコートに小花模様が入ったワイドパンツ。インナーは白のカットソーだ。
足元はレース柄のスニーカーで、とにかくカジュアル路線である。
本当は、もっとかわいい格好で隼人の前に立ちたかった。だが、それだと良之助に見つかったときに言い訳の一つもできなくなると思ったのだけれど……。
もっとかわいらしい格好をしてくるべきだっただろうか。いや、年上の隼人に合わせて大人っぽい格好をするべきだったか。
子供っぽいからと自分の趣味ではないと言われてしまったらどうしよう。
ビクビクしつつ隼人を見上げると、視線が絡み合う。ドキッと一際高く胸が鳴って息苦しいほどだ。
隼人は、のどかの顔を見て一瞬息を呑んだあと、小さく呟く。
「めちゃくちゃ……かわいい」
小さな声だったが、しっかりと隼人の声が聞こえた。それと同時に、のどかの顔が一気に赤く染まる。
それを見た隼人は、自身の発言でのどかが真っ赤になったことを自覚したのだろう。彼まで顔が真っ赤になってしまった。