書籍詳細
お前はただ愛されてろ~俺様CEOは初心な彼女を極上愛で堕としたい~
あらすじ
エリートCEOと大人の秘めごと契約!?ただの恋愛指導のはずが、求愛が激しすぎて…
男性が苦手で、接客に悩むアパレル店員の六花。「俺が男を教えてやる」――CEO・煌一朗の命令で、秘密の”恋愛指導”を受けることに!? 彼の甘さ全開な溺愛レッスンは、会うたびに刺激的にエスカレート。初心な六花は翻弄されつつも、煌一朗の虜になっていく。さらに、かりそめの関係のはずなのに独占欲を露わにした彼に、六花の理性は蕩かされて…!
キャラクター紹介
笠森六花(かさもりりっか)
一流ブランドのアパレル店員。男性恐怖症を治すため、煌一朗に甘い手ほどきを受ける。
梁瀬煌一朗(やなせこういちろう)
六花の上司で若きCEO。彼女を優しく甘やかし、時には大胆に翻弄しながら愛情を注ぐ。
試し読み
食事の後は近くの海が見える公園がライトアップされていたので、少し散歩をすることにした。涼しい海風が髪を撫でる。
「夜景もきれいですね……!」
「……昼とは違った絶景だな」
海沿いの道では、何人ものカップルが海を見ていた。手すりを持って海を眺めていても、両隣からは男女の楽しそうな話し声が聞こえてくる。また急に隣の存在が気になり始めた。梁瀬さんは黙っているので、余計に気になって仕方がない。
ふと隣を見ると、梁瀬さんの向こう側にいるカップルがキスをしていた。
「わっ」
慌てて目をそらす。いけないものを見てしまった。
「どうした?」
「い、いえ。なんでも……」
カップルのいる方向を見ないようにと、私は正面に視線を移動する。でも気になってしょうがない。こんな人の多い場所で、あんな堂々と。
「……ああ。六花には刺激が強すぎたか」
梁瀬さんもカップルの存在に気づいたのか、くすりと微笑んだ。彼からしたらなんてことのない光景なんだろう。
「そっ、そんなことないですけど!」
思わず強がっていた。いい年をして、あんな場面を見て恥ずかしがっていると思われたくなかった。見栄を張るのは今さらだとしても、だ。
「そんなことないのか?」
「ないです!」
からかうように言われて、さらにムキになってしまう。あんなの平気だ、と思い込むようにした。梁瀬さんは納得したのかよくわからない表情で私を見つめた。
「じゃあ、俺たちも」
手すりを掴んでいた手に、梁瀬さんの大きな手が重なる。ドキリと胸が鳴る。
「……そろそろ、こういうこともしてみるか」
「え? ……きゃっ」
腕を引かれ、よろめいたところですっぽりと梁瀬さんの身体に包まれていた。私の背中に彼の手が回る。
「あの、梁瀬さん」
梁瀬さんの身体は大きくて温かい。ただ支えているだけではなく、しっかりと抱きしめられている。それを実感するほど身体が密着している。
「ん?」
「えっと、その」
「嫌か?」
ドキドキはするけれど、嫌じゃない。私は緩く首を横に振った。梁瀬さんは私の男性恐怖症を治すために協力してくれている。それを無下にはしたくない。私もいいかげん逃げてばかりではだめだ。
「じゃあ、これは……?」
梁瀬さんは私の肩を掴み、身体から少し離す。私をじっと見つめながらかがんだ。
「っ!」
顔が近づいて唇が触れそうになって、私は思わず梁瀬さんの身体を両手で押し返す。恥ずかしさから、うつむいていた。
「あの、さすがにそこまでお願いするわけには」
胸が苦しくて、こんなに鼓動を乱されているのは初めてだった。動揺しすぎて梁瀬さんの胸を押した手が震えている。
「……そうか」
彼の静かな声が頭上に落ちる。怒っているのかと恐る恐る見上げると、苦しげに眉根を寄せていた。
「まだまだ六花には荒療治が必要らしい」
「えっ」
顎をくいっと片手で引き寄せられる。真正面には梁瀬さんの真剣な瞳。
「手は押さえない。三秒だけ待つ。嫌ならさっきみたいに俺の身体を押すか、ひっぱたいてでも逃げろ。嫌じゃないならこのまま……」
宣言通りに三秒。もしくはそれ以上の時間が流れた後に、熱い唇が、私の唇に重なった。
「ん……っ」
梁瀬さんに、キスをされてる――。
触れるだけのキスが離れ、目が合う。呆然としている間にもう一度唇が重なった。さっきは一瞬だったのでわからなかったけれど、今度ははっきりと感触がわかるくらいに押しつけられている。
角度を変えて何度か触れて、離れていった。唇が触れていただけなのに、私は胸の苦しさから呼吸を乱していた。
「……は……あの、やなせさ――」
「煌一朗だって何度言ったらわかる」
「煌一朗さ……んぅ」
会話をする隙を与えずに、煌一朗さんの舌が唇をぺろりと舐(な)め、中に入ってくる。ぬるりとした感触にびくんと身体が震えた。
こんなキスしたことない。というか、ファーストキスだ。
男性恐怖症の私はもう一生こんなことはできないと考えていたので、嫌悪感がないことに驚いた。きっと気持ち悪くて恐ろしいものだと想像していたから、身体の力が抜けていくほど気持ちがいいものとは思わなかった。
「ふ、あっ」
足の力が抜け、煌一朗さんの身体にしなだれかかる。彼の逞しい腕が私の腰を支えてくれた。
「どうした? そんなに気持ちいいか?」
「……そんな」
肯定も否定もしづらい。だって煌一朗さんは恋人ではなく、CEOの指導としてこんなことまでしてくれている。私がただ気持ちよくなったらだめな気がする。しかも、人が多いこんな場所で。さっき見たカップルのようになっているみたいで、認めたくない。
「こんなところで、恥ずかしいです」
「……それなら、移動するか」
煌一朗さんは私の手を取った。彼の手は熱があるんじゃないかと思うほどに熱い。
「や、梁瀬さんっ」
「いいかげん名前に慣れろ」
「煌一朗さん、どこに行くんですか」
「……もっと、男ってやつを教えてやる」
険しい表情の煌一朗さんの熱い視線が突き刺さった。
煌一朗さんの車に乗り、連れてこられたのは、以前一緒に宿泊したホテルだった。
車の中ではずっと緊張していて落ち着かなかったし、何度か『帰ります』と言おうか悩んだ。煌一朗さんだってこんなことをしたいわけではないだろうに、わざわざ時間を取ってくれている、とぐるぐる考えているうちにもう到着していた。
入った部屋は、以前泊まった部屋とはまた違っていた。以前よりも広く、ベッドも大きい。見るからにグレードが違う。
「煌一朗さん、ここで、何を……っ」
後ろから煌一朗さんが強く抱きしめてくる。突然感じる彼の体温に、私の落ち着き始めていた心がまたざわつく。恐怖心や気持ち悪さではない、変な感覚だ。
「あの」
「……キスより気持ちいいこと教えてやる」
煌一朗さんが私の耳元で囁く。ぞくりと身体が震えた。
「嫌だと思ったら、いつでも言っていい」
「……わかりました」
「こっち見ろ」
煌一朗さんが離れ、私はくるりと反転させられる。見上げたら彼の真剣な眼差(まなざ)しにぶつかり、目が離せなくなった。吸い込まれるような熱視線。
「髪に触れてみてもいいか?」
「……は、はい」
「……安心しろ。手では触れない」
ゆっくり近づき、煌一朗さんは私を引き寄せる。腰に置かれた手の力が強まり、私は彼の胸に収まった。右手は私の腰、左手は私の手を握っている。
そのとき、煌一朗さんが私の頭にそっと唇を寄せた。髪にキスをしている。
「……大丈夫か?」
「は、い」
怖くはない。大丈夫。
煌一朗さんの手は両方とも私の身体にあるから、髪を引っ張られる恐れもない。私の頭に何度かキスをした後、顎を指で持ち上げる。私が濡れた視線を食い入るように見つめていたら、彼がゆっくり近づいてきて額に唇を落とされた。
それから、頬。そして唇に優しく触れる。私はなんの抵抗もなく受け入れていた。
大きな手で私の頬を包み、唇が離れると、親指で唇を拭(ぬぐ)ってくれる。そのまま煌一朗さんと長い間見つめ合っていた。これがただの指導なのだとしたら、私は勘違いしてしまいそうだ。こんな行為は好きな人としかしないと思っていたから。
「……六花」
「はい」
「口、開けろ」
言われるまま薄く口を開くと、煌一朗さんはこくりと喉仏を震わせる。私の唇をぺろりと舐めると、そのまま私の口の中へと入ってくる。さっきみたいな乱暴なキスではなく、探るような控えめなキスだった。
分厚い舌が私の舌とぶつかり、絡まる。私はどうしたらいいかわからずにされるがままだ。うまく呼吸ができずに、煌一朗さんの服をぎゅっと掴んだ。すると唇が離れていく。濡れた私の唇を彼の舌が拭った。
「……さっきは無理やりして悪かった」
「……いえ、大丈夫です」
煌一朗さんの手が私の頬を優しく撫でる。私を見つめるキリッとした瞳がわずかに揺れていた。どういう感情なのかと探りたくなる。
「六花、キスの経験は?」
「……煌一朗さんが初めてです」
「っ、そうか。悪いことをしたな」
「いいんです。だって一生できないと思ってましたから」
初めてのキスは、想像以上だった。キスがあんなに気持ちいいものだと初めて知った。男性という存在に慣れさせてくれた煌一朗さんだからこそ、私は受け入れられたのだと思う。
「してみたかったか?」
「それは、まあ……興味くらいは」
「……可愛いな。たくさんしてやる」
両頬を包まれて、唇が落ちてくる。
言葉通り、角度を変えながら唇が重なる。恋人だと勘違いするような長くて甘いキス。唇を食(は)まれて自然に口が開き、ぬるりとした舌がまた入ってくる。
熱い舌先に翻弄されていると、煌一朗さんの指が耳を掴み、くすぐるように指で挟んでこすった。ぞくぞくと湧き上がってくるものがあった。
「あ……ぁ」
「……甘い声。耳が好きなんだな」
「っ! あっ」
耳の中に吹き込まれるようにしゃべられると、身体が簡単に反応する。身体の内側から熱が広がっていくのがわかる。
「……弱いところ見つけた」
楽しそうに煌一朗さんは喉の奥で笑う。
「ひゃっ!」
煌一朗さんの舌が耳を這(は)う。耳朶(みみたぶ)を唇で挟んだり、耳の骨に沿って舌先を滑らせたりする。濡れた音が耳の中に直接響き、身体から力が抜けていくのを感じていた。よろけると、彼の腕が支えてくれる。
「ふぁ、ぁ……」
「また、足の力が抜けたか」
「煌一朗さん……」
助けを求めるように見上げると、滲む涙の先に、私を食い入るように見つめる熱い瞳があった。
「……ベッドに行こうか」
「……あの、煌一朗さ――」
私の中では、ベッドに行くイコール身体を重ねるということだ。さすがに、ファーストキスを済ませたばかりの私にはハードルが高い。そもそも煌一朗さんは私の恋人ではない。ただ協力してくれているだけだ。
「最後まではしないから安心しろ。六花を男に慣れさせるだけだ」
「……わかりました」
頷くと、ちゅ、ちゅ、と啄(ついば)むようなキスをいくつも落とされる。
「キスは、好きみたいだな」
「……そうみたいです」
「素直すぎるだろ。こっち来い」
手を引かれてベッド脇に座る。私の胸は爆発してしまうんじゃないかと思うくらいに響いていた。恥ずかしさのあまりうつむいていると、煌一朗さんの腕に肩を抱かれ、引き寄せられる。頬を包む温かい手に誘導されるまま、彼を見上げた。真剣な表情に吸い込まれる。
「んぅ……」
キスをしながら、ゆっくりベッドに押し倒される。
「このワンピース、可愛いな」
「……本当ですか」
「ああ。よく似合ってる」
ぎし、とベッドが軋(きし)む音が生々しい。
私はこれから煌一朗さんに何をされるのか想像してみる。それなのに、あまりの経験のなさにうまく思いつかない。ただ緊張して待つことしかできないでいた。
私に覆いかぶさる煌一朗さんは、何度もキスをする。額や頬、髪の毛や首筋。そこかしこにキスをして、最後には唇に深く。
口の中をかき乱すように舐(ねぶ)る舌に、私は夢中になっていた。頭の中がとろけるほど気持ちがいい。こんなにドキドキして、緊張して身体も硬くなっているのに、煌一朗さんにキスをされていると身体から力が抜けていくのがわかる。それどころか力を入れるのも難しい。
キスって、こんなに気持ちいいものなんだ。
ふわふわとした頭で、私は煌一朗さんの舌に夢中になっていた。
「っ!」
煌一朗さんの大きな手が私の肩にそっと触れて、身体がびくんと跳ねた。
「震えたな……嫌なら言えよ」
「嫌じゃないですけど……ちょっと怖いです」
「相手は俺だ。怖いわけがないだろ」
「……はい」
妙な説得力だ。煌一朗さんなら、私が嫌がったらいつでもやめてくれるという安心感がある。恐怖心を押し込めて、彼に身体を預ける。
「六花の好きなキス、してやるから」
「……んぅ……」
また煌一朗さんの舌が咥内(こうない)へと入ってくる。歯列をなぞり、ゆるゆると中で動く。舌を絡め取られ、根本から吸い上げられると、目の奥がじんわりと滲む感覚がした。
淫らなキスに、うまく思考が回らない。
「男に身体を触られるのはもちろん初めてだよな?」
言葉にする余裕はなく、頷くことしかできない。
煌一朗さんの手はあくまで優しく私の身体をなぞるように撫でていった。
「……煌一朗さん、これは、どういう」
「……恋人のレッスンだ」
煌一朗さんの低い声が響く。
「触れられて怖くなければ男性恐怖症も治るだろ。怖くなったら言えよ」
私がこくりと頷くと、肩に置かれた煌一朗さんの手は、腕を撫でながらゆっくり下りてくる。ただ触れられているだけなのにドキドキして、胸が苦しい。
「んっ」
煌一朗さんの手が腰をなぞったときに、くすぐったさから声が漏れた。煌一朗さんの手はぴたりと止まり、私を心配そうに覗き込んでくる。
「……大丈夫か?」
「は、はい。ちょっとくすぐったいだけです」
「ならよかった。続けるぞ」
煌一朗さんは微笑み、再び腰をなぞる。
「……六花も、触れてみるか?」
「え?」
「触られるだけじゃなく、六花も触ったほうがいいだろ」
「……そう、ですね」
今まで避けてきたことだ。自分から男性に触れるなんて、しばらくしていない気がする。男性と距離を置くことが当たり前になっていたから。
「失礼します……」
そっと手を伸ばし、煌一朗さんの腕に触れる。煌一朗さんがするようにそっと撫でてみると、彼はびくりと反応した。
「っ……確かに、くすぐったいな」
「す、すみません」
思わず煌一朗さんの腕から手を離した。けれど、その手を彼に掴まれる。
「離すな。逃げずに、慣れるまで触れ」
「……は、はい」
再び煌一朗さんの腕に触れた。私の腕よりも太く力強い。筋肉を感じて、男性の腕だと実感する。
ゆっくりと手を上げていき、煌一朗さんの肘、二の腕、肩へと手を滑らせる。
「いい調子だ」
煌一朗さんは微笑み、私の腰から回った手が背中を撫でた。一本の指が背中の真ん中をなぞる感覚にぞくりとした。
「あっ……」
身体がびくりと反応し、自分の声ではないような変な声が出てしまって、慌てて口を手で押さえた。
「……っ、……大丈夫か?」
目を丸くして、煌一朗さんも戸惑っているみたいだ。
「は、はい……」
怖いわけではない。ただおかしな感覚が身体を走っただけだ。
乱れた呼吸を整えていても、心臓はバクバクとうるさい。
「続けるぞ」
「……はい」
私がゆっくり頷くのを確認すると、煌一朗さんの手はそのまま背中を撫で続ける。その手に意識を持っていかれていたら、「こっちも」と、もう一度唇が重なった。彼にキスをされると、すぐに思考がとろんと溶けてしまう。
口の中に入ってきた温かい舌は、優しく私の舌を吸い上げる。唇か、煌一朗さんの手か、どちらに意識を持っていけばいいかわからず混乱していた。
「……ひゃっ!」
急に背中に人肌を感じて、思わず声を上げていた。目が覚めたようで自分の感覚を研ぎ澄ますと、ワンピースの背中のジッパーが下ろされ、服の中に煌一朗さんの手が入っていた。
「あ、あれ……いつの間に」
「気づかなかったのか?」
そっと煌一朗さんが私の背中を直接撫でる。びくんと身体が揺れたのを見て、目を細めた。
「……キスで、いっぱいいっぱいで」
彼は大きなため息をつく。呆れられてしまったみたいだ。
「すみません」
「いや、謝ることじゃない。俺のほうこそやりすぎた。悪い」
背中から手が離れていく。まだ背中には煌一朗さんの温度が乗っているような錯覚を起こす。
「でも、そういう可愛いことを言われると、制御が利かなくなるから勘弁してくれ」
「……え?」
私が煌一朗さんをじっと見つめていると、珍しく彼のほうが視線を横にそらした。
「……今日はこのくらいにしておこう」
「は、はい」
ほっとしたような、なんだか物足りないような。
でも安心すると眠気が襲ってきて、瞼を閉じていた。
「……六花、ゆっくり休め」
煌一朗さんの唇が額を掠(かす)める。ぎゅっと強く抱きしめられて、自然に彼に身を寄せていた。
私はどこか満たされた気持ちで眠りについていた。